第173話「竜飛鳳舞」後編(改訂版)
第六十一話「竜飛鳳舞」後編
「
細い銀縁フレームの眼鏡をかけた女が
「……そう」
それを聞いているだろう人物は豪奢な椅子に腰を掛けた暗黒色の令嬢、
腰まである緩やかにウェーブのかかった美しい緑の黒髪の絶世の美姫だ。
「既に初戦を迎える布陣も完了致しました。大方は
「……」
重ねて報告する眼鏡をかけた側近、
「
「
しかし暗黒の美姫はそれには全く心配していないという応えを返す。
「…………
それに対する反応は、
「解りました。この
そしてそこはこの完璧主義者で独裁的な主君に仕えて長い
そう、”
つまり、策が完璧なれば後はその指示通り事を運ぶ優秀な”手駒”……
”
至上の棋手たる
それこそが自分達の最大の存在意義だと信じて疑わない彼女だからこそ……
「”
「………………はい」
――そう、いつも通り
優れた暗黒姫の手足として、完璧な駒として働く事を至上とし、
でも、だからこそ……
その
「ふふ、
「はい、私の憂慮が過ぎました。出過ぎた発言を……申し訳ありません、
だが
「良いのよ、
そして部下の感情を十分理解しているはずの
――
出陣式の日から一ヶ月ほど後……
完璧に準備を整えた我が
もう一軍は南方、
そして俺の率いる本軍は直接敵の本拠である
最終的にそのどの軍も目指すのは、
三方より敵を包囲して攻め落とす……
その予定が、事もあろうに三方とも先回りされ
――相手はあの
こちらの意図をある程度看破されるとは考えていたが……
だが、これほど手の内を見透かされるとは流石に思ってもみなかった。
「……」
一路、
進軍途中で全軍を休憩させていた俺は、休憩場所の古寺にある石段に腰掛けていたその時に報告を受けた。
「
予期していた以上の不味い状況に、参謀であるアルトォーヌが心配そうな眼差しを向けてくる。
――よく解る、ここまでピタリと読まれてはこの先の策も……と、
だが!ここで俺は立場上、家臣達に弱気を見せるわけにはいかない。
既に”竜”は
「問題ない。作戦はこのまま予定通り行う」
俺はすこぶる平静を装ってそう応えると、目前に片膝を着いた男を見る。
「
古寺の本堂を背に数段高い石段に腰を下ろして――
自らの左右に参謀のアルトォーヌ・サレン=ロアノフと、副官の鈴原
足下で頭を下げた古参の部下である
「はっ!」
そして
そしてその後間もなく自軍を率いて一足先に古寺を後にして行った。
「……」
――取りあえずはこれで良し!
俺はそう確信し、そして……
「さすが
石段の一つ下、座する俺の右隣に立って控えていた鈴原
――うっ……
先ほどと同じで、ここで家臣達に弱気を見せるわけにはいかない!!
故に俺はそんな素振りを微塵も顔には出さずに――
「ま、まぁな……で、そう言えば”
俺は”あからさま”に話題を変えた。
「あ……は、はい!一応、ご指示通りに”手の者”は使わず私自身が向かいましたが……既にあの山小屋は無人でした」
少し戸惑いはしたが、俺の問いに
この戦を始める少し前に――
その山中にある
結果は今聞いたとおり。
既にその男の姿は無く、
極端に他人との接触を嫌がる風変わりな男に、俺は最大限に気を使って面識のある
「あの”引き籠もり男”……どこフラついてんだ?まったく……」
男の締まりの無い顔を思い出した俺は、報告を聞いた時と同じで
「ですが
「……」
そう、別に今回は”刀”の話で向かわせた訳ではない。
”刀”の話……
年齢によらず、そういう類い希な腕を持ったその男とは……
確か十七、十八歳だったか?
いや、どうでもいいか。
つまりそういう若さで家族も妻子もいない、独り暮らしで人付き合いが大の苦手の変わり者……
彼女いない歴イコール年齢であるが、超超可愛い彼女がいると言い張る悲しき妄想男。
だがその若さで”
我流で少しばかり風変わりした刀剣を打つ、天下の名刀に引けを取らない逸品を創造する力量を持ちながら全くの無名で異質の”
俺の”
――その男とは、”
「
「いや、別に大した用事はなかったが……あんな奴でも貴重な刀鍛治だからな、大戦が始まる前に念のため避難させておいてやろうかと思ったんだが、自主避難してたのなら特にどうと言うことも無い」
俺は
これはこれで”結果的に上手く話が
内心では”ほっ”としてい――
「そうですか?そうですね!あんな男はどうと言うこともないです。それより本当に!
「……」
――いや、全然
鈴原
「そうなのですね。流石は
アルトォーヌ譲が先ほどまでの不安を払拭した羨望の、同じような瞳で俺を見る。
――うっ!うぅ……
すっかり話が切り替わったと安心していた俺は……
そんな自身の考えの甘さに項垂れていた。
「…………」
二人の側近が向ける期待の籠もった眼差しに……
「ふっ、まぁな……未だ子細は言えないが、そんな感じだっ!」
嘘満載の余裕の笑みで応える!
――だって仕方ないじゃん……この状況……
直後にキャーー!!と、
そして俺は……
高い
「…………」
――さて、実際どうしたもんかなぁ……
と。
第六十一話「竜飛鳳舞」後編 END
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