第173話「竜飛鳳舞」前編
第六十一話「竜飛鳳舞」前編
――鈴原
”
そして
その中央大広間にて急遽行われた軍議は……
――ざざっ!
扉から最奥部に鎮座する玉座前に立った
「
俺の左隣に付き従って控えるのは、新たに我が参謀となった
「……」
俺は頷いた後で玉座を背に始める事とする。
「
ババッ!
待ちかねただろう俺の第一声に、居並ぶ諸将はなお一層深く頭を下げてから揃って姿勢を正した。
「……」
三百を超える将軍階級以上の幹部達。
左列先頭には最古参である黒髪ショートカットの清楚な美少女、鈴原
そして中央付近先頭に、後ろ髪を尻尾のようにチョンと縛った見た目から爽やかな好青年、同じく最古参の
その他にも……
特殊工作部隊”
諜報部隊”
という我が
さらには……
元、
同じく加藤
滅んだ
そして――
ただ
名高き”
プラチナブロンドの美少女の瞳は輝く銀河を再現したような
それはまさに、幾万の星の大河の
我が
と――
「……」
――これが現在の全て
――
俺は改めて身が引き締まるのを感じながら言葉を続けた。
「ああ……と、事前に知らせた本題に入る前に話しておくべき事がある」
――こっちは正直、気が進まないが……
そう、本日”軍議”の本題に入る前に、居並ぶ諸将に宣言しておくべき事があった。
それは、ここから先の大戦には欠かせない大義名分……
「……」
俺はもう一度諸将を見回してから一呼吸置き、
――
十六になる前に小国”
前領主である鈴原
だが側室とはいえ、彼の母である
歴史を遡れば、
”国産み神”の血筋を誇る
優勝劣敗が常であり国家の存亡が表裏一体である戦国世界において、小国が生き残るために実力至上主義を取捨選択するのは必然であったのだ。
故に
そういう実力至上主義の影で側室に甘んじた鈴原
――故に……
「我が
それらを踏まえた上での俺の発言に、集った諸将は皆一様に固唾を呑む。
「……」
暫く――
静まりかえっていた大広間で、幹部のひとりが恐る恐る口を開いた。
「そ、それはつまり……
漂う、なんというか微妙な空気……
それは俺が今までその血統を良しとせず、
「ああ、故に我が
だが、既に根回しは済んでいる。
後日に俺自身が
――本当に気が進まないが……
「おおっ!!」
「なんとそれはっ!!」
集った
「……」
正直、俺の内心的には苦肉の判断と言ってもいい。
――いや、だがそれは一旦置いておいて……
今、俺が口にした”
小国群の多くが属する祖である
つまり、”日輪の中から降臨するという伝説に記された三本足の黒き鳳”の御旗こそが、この地域を纏めて治めるに足る盟主であると証明する
――しかし三本足……ねぇ?
なんというか、此処までお膳立てしておいてなんだが、奇妙な偶然もあるもんだと。
俺は自らの片足を揶揄する最近の変な”異名”を思い出して苦笑する。
「ここから先、我が”
「はっ!!」
「ははっ!!」
そういう自身の微妙な感情は取りあえず無視して発せられる俺の問いかけに、当然だと大きく頷く諸将達。
――”予測通り”その場に異論を挟む者は一人も無く
そしてそれを確認した参謀のアルトォーヌが
「では、ここから先の戦、
天下に覇を唱えると大々的に宣言したからには、この先は戦しか無い!
そして現在の状況で最も障害となり、倒しておかないとならない相手と言えば……
「諸将もご存じの通り、先日、新政・
白き美女の言葉に皆が注目する。
「故に参謀として私は、
「お?なんと!!」
「そ、それは……性急では!?」
予測通りざわめく場に、俺とアルトォーヌは目配せし合った。
「そうとも言えんぞ?天下を競うには、最終的に”
――
これも予測通りと割り込んだ俺の言葉に、場は再び静まる。
先に異論が出るだろう結論を示し、後にそうせざるを得ない状況不安を提示して、先に示した回答へと導く説得方法は、こういう場において特に効果的である。
……と、事を必要以上にスムーズに進めるために
「た、確かに先を考えれば……」
「いや、しかし……こちらから仕掛けるのはリスクが……」
代案を提示出来ない者達に反論は難しいだろう。
――だがもう一押し、駄目を押してやるか?
「リスクというのなら、その時、西に対抗し
そう、この軍議を
この場で即決し、直ぐにも準備に入る必要があるのだ。
――何故なら”この戦い”には時間がないっ!
モタモタと
「う……うむ……領王閣下の仰せは確かに」
「わ、私共もそれしかないと思います!」
――先ずは上々……
俺は頷いた。
我が
急激に版図を広げたのは
手に入れた旧、
内部及び周辺を完全に掌握できていない今こそが好機であり、そのために領土内を裏技的方法で無理矢理に統制した俺たち
――そのために俺は今更……”気が進まない”血統まで引っ張りだしたのだから
「相手は知謀の粋たるあの”
アルトォーヌと思考に思考を重ね、俺達が辿り着いた”策”とはまさにそれであった。
「我が主、相手の足下が不安定で迎撃準備が疎かなウチに攻めるのは良しとして……具体的にはどういう形でどう攻めるおつもりでしょう?」
そこに”
此奴らしいニヤけ面と長髪を揺らせ、ダンスの如き軽やかなステップで前に一歩。
「……そうだな」
俺は頷く。
「先ずは軍を三隊に分け、三方から”
俺に代わり参謀のアルトォーヌが問いに答える。
「ほぅ?
その言葉に、
「さっきも言ったが、あの神算鬼謀の美姫に完全なる奇襲は不可能だ。ならばどんなに神速で事を成してもある程度の準備はされるだろう」
「それが
俺の補足に優男は再び問う。
「そうだ。
「ふむ、今回の大戦、たとえ勝者となっても長引かせる事はその後に控える天下分け目の大決戦に挑むのに不利になると……短期決戦を想定故に、お互い本拠地同士を狙う戦になろうとは……ふむ、まるでこれは”
そしてその要所を良く理解した
――そうだ、確かに”
俺もその例えには大いに納得する。
そして……
――いや!それはそれ、実際の戦はそう簡単な物差しでは計れない
俺は頭を振って続ける。
「加えて
自信たっぷりな俺の予測に皆の異論は出なかった。
「……」
しかし、それにしても”
以前、俺は京極
その時の面子を今度は向こうに回して今回は攻め落とす側とは……
戦国の世とは得てして”そういう”ものだ。
「では本作戦行動の人事を……」
そんな過去を思い出していた俺の耳には、予定通り議題を進める参謀の声が聞こえていた。
第六十一話「竜飛鳳舞」前編 END
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