第171話「三本足」前編
第五十九話「三本足」前編
バササッ!!
本営の天幕を乱暴に捲り上げ躍り込んで来たのは五人!
「さ、
本陣、奥に座した俺の隣に控えていた参謀のアルトォーヌ・サレン=ロアノフが健気にも俺の前に割り込み、華奢な身を挺して護ろうとするが……
ギィィーーン!
ガキィィン!
――っ!?
そのさらに前に!
天幕外の横合いから飛び込んで来た二人が、襲いかかって来ていた謎の黒い影……
”強襲者”と衝突して、激しい火花と金属音を散らし打ち返すっ!
「
短めの刀を握った女は、一旦は跳び退いて距離を取る強襲者と対峙しながら――
背に俺とアルトォーヌを庇いながら聞いてくる。
――人物の名は
「
そしてもう一方で、同じく強襲者を牽制しながら俺達を守るように立つのは、相変わらず
「ああ、役目ご苦労」
両者とも背に見えにくい黒糸で”刀身と桔梗の花”の刺繍が小さく入ったヒラヒラした布きれの、顔以外をスッポリ覆い隠した黒装束衣装に身を包んでいる。
我が
――
護衛の任務を全うする二人の女達に向けた
ギィィーーン!
ガキィィン!
そのまま襲撃者の撃退に移行する。
「……」
襲って来たのは黒い衣に全身を包んだ謎の暗殺者部隊。
ここまで
身の
人数は五人で……
俺は座したままで状況分析に徹する。
――
ザザッ!
「くっ!この!しつこいですわねっ!!」
ギャリィィン!
「
――数的不利も
この二人が中々に
「
俺を庇って前に立ったまま、アルトォーヌの碧い瞳が天幕の後方を視線で示す。
万が一、護衛の二人が突破された時のために”この間にお逃げ下さい”という意味だ。
確かに、もう数分もすれば我が
――俺は”それ”に気づいていた!
「アルト……下がれ、死ぬぞ」
「え?」
言葉の意味が解らずに見返す碧い瞳に目もくれず、俺は座したままで彼女の華奢な手を握って――
「きゃっ!」
乱暴に地面に引き倒す!
ヒュゥゥオォン――――――――
間を置かずに!
光を放たぬように黒く塗りつぶされた両刃の小刀……
”
ヒュバッ!ヒュバッ!
そしてその一投に重なる様に!
隠蔽された”二刀”、”三刀”が座したままの俺の頭と心臓部分を寸分
――ガッ!
既にそれを予測していた俺は座したまま、右手に松葉杖を握ったままで机を蹴り、椅子を後方へと傾かせて天を仰ぐ様に首を反らせて一刀目を……
そのまま椅子ごと後ろに倒れる俺の
シュッバ――
最早完全に体全体が傾いて落ちる俺は、胸に突き刺さるはずの”二刀”もやり過ごす。
「……」
――実に見事な”暗器”
――微細過ぎる風切り音、ほぼ見えない凶器をさらに闇に沈めるが如く軌道を重ねた”二刀”と”三刀”の連続投擲……
そのまま後方へと自然落下するがままに任せて俺は、”姿無き敵”の卓越した暗殺術に感嘆していた。
ゆらっ……
と、その時――
椅子ごと後方へと倒れるに任せた俺の背後に、忽然と現れる黒い殺気の塊!
「っ!」
仰向けに落ちるだけの無防備な俺の視界に入ったのは――
「……」
至近にて、背後から俺を見下ろす”黒装束の男”の鋭い眼光だ!
――
見事だ。
完璧な投擲暗器の連撃と、その絶技さえもが
それは、引力に縛られ無防備に身を晒すだけという、その俺に至るための
そして――
闇に溶け込むが如くに気配無く……
逆に闇が空間に染み出て来たかのように
「……」
「……」
落下の刹那、背後上から見下ろす冷たい暗殺者の両眼と天を仰いだ俺は視線を交わす。
――そして、持ち主と同種で殺意の光を塗りつぶした黒い短い刃が”ゆっくり”と……
状況は時間で表現するなら
そう、刹那のうちに一閃される黒き刃が”ゆっくり”なわけがない……
ヒュ――――
だがそれはあまりに”ゆっくり”……
まるでコマ落としのフィルムを連想させる動きにて、無防備に晒された俺の咽をかっ斬るっ??
――――ォォン!!
本当に見事だ……
惚れ惚れする。
これほどの”
研ぎ澄まされ、研ぎ澄まされ、研ぎ澄まされ、研ぎ澄まされ、
研ぎ澄まされ、研ぎ澄まされ、研ぎ澄まされ、研ぎ澄まされ……
極限まで研ぎ澄まされ尽くした……暗殺者の一刀!
それは”武術”も”闘術”も”殺術”さえも
「……」
その
極近い未来の
――――――
――――――――――――――――――シュパパァァーーン!!
「!」
直後!冷徹なる”
それは――
鈴原
反撃できないはずの、落下し束縛された中で放たれる応戦の奇跡!
死の
いや、松葉杖による”
体術の極意”流身体”に呼吸を、殺気に旋律を重ねる防御の”奥伝”が一刀だ!
「!」
思わぬ一撃に黒い刃を弾かれた暗殺者、
ヒュッ!
それでも
黒刃を振るった逆手にて、更なる凶刃を浴びせようと突き出す――
ブオォーーンッ!!
振り切った鉄の”松葉杖”をそのまま下方へ……
ガッ!
地面に突き刺して、
ガシャン!
地面に激突して壊れる椅子から
無防備な落下状態から解放され、ようやっと襲撃者と正面から
「悪いなぁ、名無しの
――!
俺の軽口を待たずに膨らむ殺気――
それを瞬時に
ゆらり――
そして直ぐさま!
片足立ちでバランスの偏った
ヒュォン――
傾く反動を利用し、
ブワァッッ!
地面から
「っ!」
――これには
攻撃前の無意識下から構築される殺気から敵の初動を事前察知し、
攻撃動作のため、末端の
攻撃する瞬間が一番無防備という……
これも
ダッ!――――ズザザァァァァ
「おっ!?」
だが……
その我が完璧なる反撃にさえ素晴らしい反射で対応した敵は……咄嗟に後方へ跳び退いた!
――
脳からの攻撃命令を既に受領して反応する直後の筋肉が動きを強引に途中
「っ!!……だがな!」
確かに敵も
地獄の修練が”それ”を成さしめたのだろうが……
それでも反応が足りない!
付け焼き刃の回避動作で俺の一撃は!
――その距離では到底この射程は回避できな……
「っ!??」
感覚的には確かに捉えたはずの一撃!
しかし現実は……
半歩ほど後方へ跳ばれただけで俺の攻撃は届いていなかった。
第五十九話「三本足」前編 END
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