第170話「仏敵上等(アウトサイダー)」
第五十八話「
ドドドォォーーーーン!!
大地をも揺るがす複数の破裂音と同時に巨大な砂埃が舞い上がり、そして――
ドドドドドドドーー!!
――ぎゃぁぁーー!!
――うぎゃぁぁっ!!
僧兵数十名を拳のひと払いで紙屑の如き宙に舞わせた
――バタバタバタ!
旗竿の先で突風に煽られ
「
部隊を率いる副将、”鈴の槍”こと
「
――情熱的な
深紅の髪を燃えさかる炎の如きに戦風に
「はぁぁ……”
顔では半ば呆れながらも、激戦の予感から武者震いで”チリン”と鈴を鳴らす武将は根っからの武人であった。
「ふふ、正確には
「……お、おう!?」
――ただ
――
名高き”
覇王の冠を頂く
「……」
しかしその
「覇王閣下?」
ピリリと重くなる空気に
――それは、ペリカ率いる
「……も、もしや、本陣……領王閣下の陣に不穏な動きが!?」
副将、
ヒヒィィン!!
「お!お?み、皆の者!!閣下に続け!!」
――
――同時刻、同戦場、反対側の侵攻路にて
「うわぁぁっ!退け!退けぇぇーー!」
戦場に
ドドドドドドドッ!!
出来上がったばかりの一本道に白馬を駆った
ヒュバッ!
「ぎゃぁぁっ!!」
ヒュン!
「なっ!……なむ……!!」
敵軍が真っ二つに割れ、そこに殆ど単騎で躍り込んだ少女は、輝きを放つ光糸を三つ編みに束ねた髪を美しく後方へ向け靡かせ、白く煌めく銀河の
ダダダッ!ダダダッ!
「ちょっとぉぉっ!だーかーらぁぁ!突出しすぎだってぇぇっ!!
そしてその”白い閃光”の後を、部隊を率い涙目で追い縋る小太り眼鏡の男。
この苦労人の名はウッチーこと”
それ故に軍卒は割に合わないと既に退役していたのを、”美女と長時間過ごせてハラハラドキドキの高給バイト!”と言う鈴原
「うわっ!」「ぎゃっ!」「ぐはっ!」
すれ違いざまの一瞬で、見えない刃ともいえる閃光に薙ぎ払われ次々と首が弾け飛んでゆく僧兵達。
「ぎゃっ!」「ひっ!」
美しき
ザシュ!
「がはぁっ!」
最後の首一つ……
そこで初めて
「はぁはぁ……はぁ……く、
ようやっと追いついてきた、馬上で息も切れ切れの副官、
「…………なんか……来る」
だが、その
「ええと……?」
「だめ……さいかのとこへ……行かないと」
部下の声を無視して彼女はそう応え、
ヒヒィィン!!
突然、愛馬”
「ど、どゆことっ!?」
――
それ故に最初から彼女は敵将の首を取ることにのみ重点を置いていたのにこの急な心変わり……
「くぅ……つ、続け!!」
状況が全く飲み込めない
――
――同時刻、同戦場、
「東口を攻めたペリカ・ルシアノ=ニトゥの
本陣内で全体指揮を取る俺に斥候兵からもたらされた情報を報告するのは、長い髪を二つに割って三つ編みにし、それを輪っかにしてそれぞれを両耳のところで留めた髪型の女性。
僅かに色を有する碧い瞳以外は色というイメージが殆ど無い、本当に華奢で存在感の薄い美女、アルトォーヌ・サレン=ロアノフだ。
「流石は名高き”
「両雄の武勇も勿論ですが、
報告を聞いた俺がそう感想を述べるのに頷いて同意したアルトォーヌは、座した俺の横に侍ったままで補足する。
――そうだ
この仏教徒の総本山である
「まぁな、この戦は終始効率最優先だ。そういう意味でも今のところ理想的と言える」
新政・
それは後顧の憂いを断つことと、我が
その内のひとつ、
この勢いの正体は――
実際、小国群二十カ国のうち、”
依然、
そしてその態度を維持できる理由の一つが、全国に門徒を抱える仏門衆の総本山、
既に宗教としては形骸化しつつある”国生みの神々”の末裔を名乗る
対応する我が
狂信的でないにしても全国に広く門徒を抱える仏門衆を敵に回すのは上手くない。
かといって
故に――
世論に邪魔される前に先にやってしまうしかないのだ。
後で文句言われても”やってしまったこと”は仕方が無い!
とはいえ、仏門衆の総本山を襲い、その教主を屠った者達は世間から悪鬼羅刹と忌み嫌われる汚名は背負わなければならないだろう。
――下手をすると歴史に残る悪名だ
だから俺は最初、
――”
ペリカがそう言った。
――なるほど、以前にペリカ達、
”魔眼の姫”周りには漏れなく工作員を……か、
そうならば仕方ないと、渋々頷く俺に今度は
またも渋々頷く俺に今度は
だったが、こっちは今後の対”新政・
そういう経緯でこの
「アルト、お前が居てくれて助かる」
「え?あ?……はい、ありがとうございます」
武勇はこれ以上望むべくもないが、少々胃もたれするほどの面子に理性的な彼女がいることに心底感謝した俺は今更ながらそれを口にし、
突然にしみじみ感謝された彼女は、意表を突かれすぎてその白い頬を染めながら慌ててペコリと綺麗なお辞儀をする。
――おおっ!可愛い
普段冷静で落ち着いた控えめ美人であるアルトォーヌが慌て気味に照れる姿は中々に見物だった。
いや、実際……
――
その知恵の担当である”白き砦”アルトォーヌ・サレン=ロアノフ。
権謀術数、奇策を用いるならば”
兵法・軍略の醍醐味は奇をてらった策で無く、先を読む確かな戦術眼と確実な手順で組み上げられし精密なる策の牙城こそ理想的!
そういう意味でこのアルトォーヌ・サレン=ロアノフの
軍への采配は無駄なく要所を見逃さない、誰もが識る基本にして最重要の兵法を当たり前に
つまり
だから俺は彼女を手に入れ、直ぐに我が参謀とした。
「いやぁ、良い”拾いもの”をしたなぁ……俺の周りにいない淑やか美人だし」
「……?」
「いや、なんでもな……」
と、わりかし失礼な心中の欠片を零す俺に、不思議な表情を向ける碧い瞳の参謀。
対して、俺が何でも無いと誤魔化し笑いを返しかけた時だった――
「鈴原様っ!!
質素な袈裟に質素な草履履きでボサボサ頭で極々有り触れた男、
第五十八話「
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