第169話「Outbreak of War And Down of Despair」後編
第五十七話「Outbreak of War And Down of Despair」後編
――
宗教国家が信仰する
「これから
木漏れ日に透ける栗色の髪の毛先をカールさせたショートボブが、愛らしい容姿によく似合っている少女。
彼女の大きめの潤んだ瞳は少し垂れぎみであり、そこから上目遣いに護衛の面々に言葉少なくそう伝える姿はなんとも男の保護的欲求がそそられる。
その少女は、そういう不思議な魅力に溢れる美少女だった。
「
「大丈夫だよ、
「……」
「!?……うぅ……はい」
と、一転して年相応の明るい表情になった美少女だが、刀を装備した艶やかな長い黒髪の近衛隊長、
「とにかく、
そしてもう一度念を押し、
――
その
この場所自体は普段から神事のために巫女姫たる彼女が
だが彼女は今日、特別な理由でここに足を運んだ。
側近の、
「……」
複数人の足音が遠ざかるのを慎重に確認し、周囲を念入りに見回した少女は、白い指先をそっと胸元へと滑らせ、そして前襟の合わせ目に――
「…………そろそろ出てきても良いけど?それともうら若き美少女の脱衣を覗く趣味があるのかなぁ、怪人さん」
――
当然と言えば当然、人どころか猫の子一匹居ないのだから返事は無い。
「はぁ、私ねぇ……暇じゃないんだよ?
――
それでも返事は無い。
「ああそうっ!本気で乙女の柔肌、覗き見する気なんだっ!ばぁかっ!
――
「このっ変態っ!!あ・の・ね、良い?私の
ブォォォォーーーーン
業を煮やした巫女少女が切れ始めた時だった!
畔の草むら上の半径二メートルほどの景色が揺らぎ、まるでそこだけ度の強いレンズのように景色が拉げたかと思うと――
ズズズズズズ……
何も無い虚空から腕がにょっきり生え、そして続いてそれに続く”本体”が現れた。
「”
少し厚手の旅人装束の極々一般的な体格の男?
平々凡々な市民、
「それに他人様を呼びつけておいてぇ、そりはナッシング、フィッシングでやすよほぉーー湖畔だけにぃ、ひょほほ」
ただ一点、顔をグルグル巻きの包帯で覆っていなければ……
「本当に聞いてた通り、お馬鹿な喋り方するんだ?いく、いくま……ええと」
しかし
――偽って人払いしてまで
ぐるぐるに巻かれた包帯から僅かに覗く二つの目がキョトンと開き、そして――
「我が名は
――ふざけた口調、自己紹介しているはずが何故か疑問形の存在自体が
ズズズズズズ……
しかしその変人後ろの空間で、未だ閉じていなかった空間の歪みから新たな人物が姿を現す。
「あら、まだ交渉はお済みでないのですか?
そこには――
肩まである黒髪と白い肌、そして細い腕、華奢で清楚な十代半ばの少女が立っていたのだ。
――!
今度は招待していない予想外の人物の登場にいっそう眉を
儚そうな背格好、そしてその顔には呪符のような、幾つもの目の如き奇妙な文様を施した黒い布を巻いて目隠しをしている彼女は盲人だ。
少女の腰には右に三本、左に二本、計五振りの刀が連なって下げられている。
”
「……
無意識に呟く
「ああ!?
睨むように自分を観察する
「
「ほほぅ?ほっほーー!!さすがは”
「なんだか気持ち悪いから!消さないと約束の交渉はしないからっ!」
「ほ……ほほぅ」
あくまで言い張る
「…………う」
顔面をグルグル巻きの包帯で覆った隙間から、洞穴のような
「”
「う、うぅ……」
その異質な迫力に!
突然周りの空気を凍らせるほどの場違いな恐怖に!
「ひゃひゃひゃ、冗談でガスよ?商談でヤンスよほぉ!うひゃひゃ……」
「……」
どこまでが冗談でどこまでが本気なのか。
こんな怪人相手にそれを推し量るのは誰にも不可能だろう。
「でもまぁ、よくもまあ、この身を呼び出してくれたでヤンすねぇ?”
もう既に”
「あ、貴方が……魔眼の大元なら……み、巫女の私なら……魔眼の異能を持つ私なら出来るかもって……」
立場が完全に逆転した状況に、か細い声の
「にゃあぁぁるほど!
「くっ――」
言われたい放題、だが
「まぁ
すっかり大人しくなった
「そ、そうです……か、代わりに、私だけは魔眼の姫が支払う”代償”を負わなくても良いようにして……」
それに若干震えながらも頷く
「ほっほぉぉ!!とぉぉんでもない娘っこじゃけん!!己の保身がほしいん!ひゃっはぁぁ!欲しいためにぃ!世界を犠牲にするのかにゃぁぁ!?最悪の最低っ!!災厄の裁定っ!!うっひょぉぉっ!!このひと、恩を仇でご返却の恥知らずっ
自身が世界を散々にかき回す存在で在りながら、ソレをすっかり棚に上げてゲラゲラと大声であざ笑うトコトン趣味の悪い
だが――
「そ、そうよ!私、世界なんて割とどうでも良いから!それより約束は……」
「あら?そうでもないですわよ、
だがそこに割り込んだのは――
その
「代償を支払わなくて良いと言うことは、
「――――くっ!!」
その言葉に
悪趣味な怪人にトコトンあざ笑われても耐えていた
「あ、アンタみたいな”泥人形”になにがわか……」
「
――っ!!
「
初めて声を荒げた盲目の少女は、その後はとても穏やかに、そして優しい声で最早誰に言うでも無くそう呟いたのだった。
「…………」
その物憂げな
そして心に
――
「まぁ良いでガス。”魔眼”が揃うのは都合が……」
「っ!?」
怪人、
――
枯れ木の如きカサカサの腕を彼女の両頬に伸ばしていた。
「……第五位
間もなく、怪人のグルグルと乱雑に巻かれた汚い布きれの間から露出した双眼が、汚染された”
戦国の世で在ろうと破滅を呼ぶ”人外”……
それが
無論、
相容れる王はいないだろうと、信じて疑う余地の無い
「ほっほぅ!最後の我が欠片、第五位”
――だが、”得てして物語は賢者の予期せぬ展開を好む”
「
望みが叶ったはずの彼女は……
なのに切なさで
いつまでもいつまでも、そこに空っぽの光を反射していたのだった。
第五十七話「Outbreak of War And Down of Despair」後編 END
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