第166話「思慮分別(けじめ)」
第五十四話「
「申し開きがあるなら一応聞いてやるぞ、生臭坊主」
俺は玉座にふんぞり返り、支配者としての威圧感をまき散らしながら言葉を投げ捨てた。
「……」
首元に大きな数珠を幾重にも巻いた僧侶姿の中年。
石床に直接尻を着けて
――近代国家世界の最終日
戦国世界では我が
「無いのか?ならこの話は仕舞いだ、
「はい、
沈黙を継続する
因みに右隣には
「お、お待ちをっ!!
同じく床に座していた、質素な袈裟に質素な草履履きでボサボサ頭で極々有り触れた男、
「諸事情?貴様らの主である
俺の声で腰の特殊短刀に手を添えた
多少、横柄で尊大な暴君を過剰演出気味ではあるが、それは俺にとっても意味があった。
――”とある筋”からの情報で、最近どうやら”魔眼集め”に行動移行しているらしい”
俺にそう告げた、新政・
――
仏教僧達の目的である”
――”それで陛下はこれから?”
そして後に、
――これから?
取りあえず俺は
――”ああ、まだ残ってる雑務があってな”
だからあの時、俺はそう答えたのだ。
――そう、雑務だ
「……」
――俺には”キッチリ”と代価を支払わす相手が居るのだ!!
バンッ!!
――!!
俺は力任せに玉座の肘置きを叩き、そして助命を乞うた従者諸共に
「
俺は視線で指示待ちで控えていた
「……」
シャラン
無言で頷いたショートカットの美少女は、腰の後ろに装備している二本の特殊短剣のうち一振り、”前鬼”を抜いて歩み寄る。
「お、おまちを!!鈴原様!で、ですから……ま、
上司のために必死に懇願するボサボサ頭男を顧みること無く、
たとえ一毛でも
そして
今回の一連の流れで、玉座にふんぞり返った現在の状況でも片方を失った俺の状況に違う意味で怒りを抑えられずにいるようだった。
スッ
慌てふためく男と視線を床に貼り付かせたままの坊主、二人の直ぐ近くに立ったショートカット美少女が刃を振り上げて標的に刃先を定める。
「………………拙僧に二心は御座らん。我が主君”だった”
初めて
――なるほど、此奴には此奴の諸事情が有るが故の
「今回は幸いにも正真正銘の”近代国家世界”だ。死んでも
――そう、俺の右足の時とは違う
俺はこの状況も覚悟していたらしい相手に、多少興ざめだと肩すかしを感じながらも指示を完結する。
「……」
「ひぃぃっ!」
無言と悲鳴を上げる二人の異国の僧。
例え真実の死では無いと解っていても、死の苦痛と恐怖は夢で済ませるにはあまりにも耐えがたい悪夢だろう。
俺の最後の言葉が終わるのを待って、ヒラリと振り下ろされる刃!
「……」
静かに目を閉じる
俺は――
「肩口、一寸だ」
――!
ザシュ!
「ぐっ……はっ!」
直前に!
俺は
「…………ち、柄じゃないな」
俺は独り愚痴る。
やはり無抵抗の者を嬲るのは性に合わない。
「ぐ……うぅ」
「か、
肩に受けた刃物傷に唸る坊主と多大な安堵と少々の心配を込めた声で上司を気遣うボサボサ頭男を眺めながら――
「……で?生臭坊主、話せよ」
自分の初志貫徹が出来無さ振りにばつの悪さを感じた俺は、そっぽを向きながら促した。
――
あの窮地で考察し、至った俺の予測が正しいならば……
「………………い、
痛みで禿げ頭に脂汗を浮かべながら、
「
「なっ!?………あ……あう!?」
待ちきれずに
「………………流石は拙僧が見込ませて頂いた真なる英傑……いや、それ以上のご見識……言葉もあり申さん」
「当然です」
「……」
さっきまでの怒気はどこへやら、血の滴った前鬼を手にしたままの
「まあ……話は後でジックリと聞いてやる。てかここまで来たら洗いざらい話して貰うぞ
こうなれば、自分で傷つけさせておいてなんだが……
俺の言葉に深く深く頭を下げ直した
――
――真相を解明し、対策を再考するのは時間を取ってジックリとだ
俺は部屋に残った二人の少女を順に眺めてから、立ち上がろうとする。
「あ、さいか……わたしが」
そして片足である俺が松葉杖に手をやった途端に、隣の
「貴女の出る幕じゃないわ、
直ぐさまに短剣の血を払って腰の後ろに収めたショートカットの美少女が、割り込むように
「さ、さいかの足がこうなったのはわたしの責任だから!さいかはこの先わたしがずっと支える!」
「なにを血迷ったことを!この
睨み合い、激しく口論する二人の美少女。
「お、おい……いて!痛ててっ!」
しまいには俺の体を挟んで両脇から引っ張り合う始末だ。
「さいかぁぁ!」
「
「おま……ら……ちょっと……やめ……」
一昨日の襲撃事件で俺が右足を無くし、それが恐らく戦国世界でも戻らないと話した事により、
「さいかの右足はわたしが!わたしの全部でこの先ずっと……ね?さいか?ね?」
「い、いや……そんなつぶらな瞳で嘆願されたら……」
「それこそ罰じゃ無くてご褒美でしょ!!
「おいおいおいおいぃぃっ!!ドサクサに
俺の反応などお構いなし!
「いててて!痛いって!!やめ……もうやめてぇぇ!
右に左に引っ張られ、バーゲンセールの目玉品の如き扱いの俺は両肩の痛みに涙目になって叫んでいた。
名高き”大岡裁き”から学びの欠片も無い二人の娘による所業!
「痛いよぉぉ!ら、らめぇぇっ!!」」
俺はそのまま暫くされるが侭に弄ばれ、涙に崩れ落ちたのだった。
――
―
「こ、こほん……で、
数分後、鈴原
「あ……はい、
そんな俺を正面から見られないとばかりに視線を外しながら自身の行動を恥じ小さくなって応える我が腹心の少女。
「う、うむ……それはまぁ……今後気をつけろ」
俺も気まずくなって目を逸らしながら、傍に控えたままのもう一人の犯人である
「………………うん」
そして
「まぁいい……独眼竜、
俺は溜息を一つ、そして両袖と同じく”だるん”と伸びた首元を無理に直しながらそういったのだった。
第五十四話「
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