第165話「神域」後編
第五十三話「神域」後編
――要はタイミング……か
俺は
「やってくれ、
と同時に、
むんず!と両脇から左右の肩をしっかりと掴まれた片足立ちの俺は引き上げられる。
「
「知らないよ王様ぁ、……成仏してね」
――こ、
終始心配そうな瞳で俺を見る
切り口は違うが、
「いいから……合図したら予定通りやれ」
――俺の視線の先には……
「……さすが」
――
だがそれも奴自身がそう宣言したように長くは持ちそうに無かった。
「……」
「くっ!この馬鹿力女……鈴原
完全に関節を
「ちょっ、どんな身体の造りなのよ!覇王姫っ!!アレは
代々”体術”の
「な、治してあげたんだから早く行ってよ!この役立たず!!
――!
俺はその”機”を掴んでいた!
「……」
――っ!?
ブオォォン!!
俺の目配せに、指示通り両脇の
ペリカ・ルシアノ=ニトゥの元へと力一杯に大きく放り出す!!
「おおおおおおっっ!!」
片足の俺は他人から与えられた運動エネルギーに翻弄されたまま、全く制御出来ないだろう勢いのままに前のめりに、転倒寸前の状態で片足で跳ね続けて猛然と
――無謀すぎる
――向こう見ずも甚だしい
だが……
「双頭の蛇だ!
前へと跳び進む俺は上下に激しく揺れる視界の中、舌を噛みそうになる状況で叫んだ。
「ちっ、無茶ばかり言うな、馬鹿王!」
そんな咄嗟の俺の叫びに反応した無愛想男は、押され気味にもみ合っていた
「っ!」
当然”
今までの関節をアッサリ諦めて、ペリカの右腕に添えられた
ブオォォン!
彼女最大の武器である”巨大な黒鉄の籠手”を振り上げ、至近の男の頭を打ち下ろす構えをとった!
――終わった……
覇王姫、ペリカ・ルシアノ=ニトゥの拳による一撃の凄まじさは皆が知るところだ。
そしてその豪腕の二の腕に添えただけの
――多分、
いや、あともう
パァァァァァァァーーーーーーン!!
激しい破裂音と共に
まるで超強力な電磁石に弾かれたかのように、右腕は引きちぎれるほどに天に向けて投げられていたのだ!
ミシ……ミシィィ!!
「っ!!」
ペリカの紅蓮の魔眼が見開かれ彼女の右肩は……
爆風に弾け飛ぶ羽虫が如くの勢いで腕を持って行かれたペリカの肩はそのあまりの勢いに良くて脱臼、悪ければそのまま千切れるほどの……
推測するに――
両手を重ねただけの
下に接した右手と上側に被せた左手に少しだけ空間をつくって、時間差の打撃を送り込む……
寸打を絶妙の時間差で打ち込み、それによる僅かなズレで到達する振動の波を計算した衝撃波の共振。
「……」
後は俺が左手を……
――俺の咄嗟の
神話にある”双頭の蛇”は片方を潰してももう片方を潰す前に復活するという。
対処方は、ほぼ同時に頭を潰すことだ。
――たく、罵詈雑言を吐きながらも”ちゃんと"期待以上の仕事はしやがる!
そして俺は別の意味で呆れながらも、今度は自分の番だとそのまま――
「フッ!」
前のめりに倒れ込むような体勢で片手万歳したペリカの元へ辿り着いた俺はそのまま手にした刀を下方から擦り上げるように振り上げる!
「っ!」
バキィィーーン!!
しかし、俺の追撃による剣は彼女の左手の黒鉄に弾かれ、刀は無残にも半ばからポッキリと……
「あ!!」
「だめかっ!!」
「わ、私の”
千載一遇の好機にそれを失った状況に、面々は悲痛な悲鳴を……
約一名は若干違ったニュアンスだが、悲嘆の声を上げていた。
「……」
ブオォォン!――ガコォォッ!
直後、万歳していた右腕を!
死に体であったはずの右肩をそのまま弾けた勢いのままに振り回し、強引に肩関節を戻したのか、生き返ったその凶器は無防備な無愛想男に直撃して吹き飛ばす!
ドンガラガッシャァァーーン!!
「さ、
ピンポン球の如くに吹き飛ばされた
「……」
ギロリと、至近で次の贄として
だが俺は……
「さ、さいか……やだ」
ヒュオォン!
「計算通り」
俺はそのまま
ブォッ!
だがこれにも……
この絶対的な状況でも、ペリカは右足を振り上げて懐で不埒な行動を取る俺に向かって膝蹴りを放……
「くっ!」
――想像通りの戦闘狂!
俺は今更その膝蹴りを躱す手段は無いと、覚悟して刀を振り降ろすのを止めない!
「おおおおおおっっ!!」
――想像以上の
「ちぃぃ!素敵な
瀕死の現状の俺には死に直結するかも知れない一撃、それを食らうことに覚悟を決めた俺は半泣きで強がった。
「ペリカぁぁっ!!」
――
「っっっ!?」
そこで響く女の声!
必死に、心から喉から絞り出されたその振動が場に響き渡る!!
声の主は勿論!!
アルトォーヌ・サレン=ロアノフ!!
「!!!!????」
そこにきて初めて、闘姫の
――ラ、ラッキー……じゃなくて、計算通りだ!うん、計算通り!!
俺はそのままペリカの頭上から刀を振り下ろす!!
「やっ……やったの!?」
「いや……でも刀身は……」
「”
彼女、彼らが指摘する様に覇王姫を切り捨てるはずの刀身は折れて半ばしか無い!
これでは肝心の標的に届かないのだっ!
シュパァァーーーーン!
――
―
我が存分なる斬撃は、”
「……刃無き刀で心胆を両断する」
”
加減無き我が奥義でなくば彼女の
それ故の……謂わば即席の”刃引きの剣”。
本気の奥義、”虚空完撃”にて彼女を斬る!
”虚を突く”とはよく言ったものだ。
「ほんと……計算通り……なんだよ……はは」
俺は――
「………………ア……アルト?……さ、
ドサリッ!
生気を取り戻して立つ紅蓮の髪と双瞳の
ガコン!ガラガラ……
「この……長い三分だな……即席麺ものびちまうぞ、ちっ!」
そして、数メートル向こう、瓦礫の中からほぼ無傷で
――頑丈だな、あの野郎……
俺は心底呆れながら、いや……
「あんな
――そう、この無愛想男も呆れる
「ペリカ……本当に……良かった……ペリカ……うぅ」
赤髪の闘姫の胸で無きじゃくる白い才女。
「……さいか……だいじょうぶ?……さいか……死んじゃだめだよ……さいかぁぁ」
へたり込む俺の方へとヨロヨロとした足取りで来る
「…………」
とりあえず、馬鹿もたまには良い。
俺はもう殆ど繋ぎ止められない意識の中でそう思う。
――あ、頭が重いなぁ
意識が遠のく……
無茶な状態でとんでもなく無茶をしたうえに、さらに無茶を出血大サービスした結果だ。
――
―
――けど、毎回は勘弁だな……さすがに
――
――たまに……そう、あくまで極たまに……
――”馬鹿も休み休み”とは……よく出来た言葉……だ……な
――――――――――
そうして俺は、とんでもなくくだらない事を実感しながら――
「…………」
今度こそ本当に
第五十三話「神域」後編 END
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