第163話「穂邑 鋼の代償」後編
第五十話「
まんまと交渉の場を勝ち取った
いや、
「なっ!?」
「それはまさか!りゅ、竜眼っ!!」
正面の一段高い玉座にふんぞり返る
その数メートル前の床に直に腰を下ろした
「
生殺与奪を相手に握られかねない状況に自ら飛び込んでおきながら、その恐怖や不安を微塵も感じさせぬこの不適な発言。
戦国の世に在っても武闘派揃いで知られる
「貴様……その様な代物を今の今まで……ぬぅ」
口元にヒゲを蓄えた見るからに気難しそうな壮年の簒奪王、
そう、
露出した
それはまるで”銀色の
”
邪眼魔獣バシルガウを討伐せし名無しの英雄が
「お、王家の歴史でも……”竜眼”を宿す御方の記述が残るのは六代前の
「お、
他の将がそこまで言いかけ、
「…………」
「…………」
突然披露されし驚愕の事実。
だがそれよりもなによりも、この場は
――ならばこその
それ故に彼は、その後も権力争いに巻き込まれないためにも封印していたのだ。
だがそれも、
それさえも
諸将は
「ふん……なるほど、確かにその”眼”は邪魔だな……で?」
「この眼と引き換えに、
固唾を呑む諸将とは対照的に恐れ知らずの若き将は平然と要求を並べる。
「貴様を
殺気をふんだんに内包した冷たい眼のまま、簒奪王はヒゲ下の口端のみ皮肉な笑みに捻り上げる。
「それはないでしょう?」
その威圧を平然と流して応える銀色眼の若き将。
「
「……」
そう、
命は助けるが地位ある者達はその全ての権力を剥奪する……だった。
「無論、助命の対象は
誰もが恐れる
それを受け、
「…………なるほど、ならば辺境如き地などは与えてやっても良いが……足らぬぞ?小僧」
――!
ゾクリと……周囲が凍るほどの冷たい眼を光らせる。
「……」
「……」
周囲は息を押し殺したままだ。
だがその表情には所々に僅かに同情の色も見える。
――なぜそこまで……
――最早なんの力も無い未成年の子供達だ!
――これほどの覚悟を見せた将をまだいたぶるのか?
それぞれの思いはあるが、同じなのは主君の徹底した冷酷さに対する反感と少年に対する同情……
「……」
「……」
だがそれでも意義を発せられぬ状況という事である。
「だろうなぁ……はは」
敵将達の同情を一身に受けた少年は他人事のように、半ば諦めた表情で笑う。
「じゃあ……そうだな。ええと、
そうして自らの右目の近くを、目尻付近をこんこんと人差し指で叩いてから、傍観する諸将の仲へと視線を移し指名をする
――っ!?
一瞬で少年を取り巻いた諸将達の輪が開き、そこにはひとりの偉丈夫が居た。
猛者揃いの
「……」
意気が
「
無言で視線を交わす二人を置いて割って入ったのはこの場の支配者、
「簡単な話ですよ。この竜眼が
――っ!?
そして
「それは……どういう」
「
――っっっっっっ!!??
その場の諸将のみで無くこれには
「正気か?一歩……いや半歩間違えば穂先は脳髄を貫き、貴様の頭は破裂した石榴と化すぞ」
そう言ったのは
「だから
「……」
恐怖など微塵も見せずに笑う少年に、
大雑把な殺戮道具である戦場の槍で、眼球のみを貫いて見せるのは中々に困難だ。
だがそれよりも
「
そしてその問答に終止符を打ったのは
最強無敗、
「承知!」
ヒューーヒュォン!
短い返答のみ残し、そして偉丈夫は背丈を超える大槍を大きく振るう!
「うわっ」
「おおっ!?」
その槍圧に、槍風に、咄嗟に数メートルは飛び退いて逃げる周りの将達!
「良いぞ、小僧……ならば貴様が目玉を
――!?
あまりにも無慈悲!
これだけの心意気を見せられても新たな支配者、
「わかりました、やって下さい」
そして髪が靡き、頬を歪めるほどの槍圧を前に座した少年は応じて”武神”と称えられる将の方を見据えた!
ヒューーヒュォン!
「……」
グッ……
回転する槍が偉丈夫の体より後方へと引かれて止まり、そして――
「……」
その瞬間!
流石に少年の、
ヒューー
ドスゥゥ!!
――光筋一閃!!
戦場にて数多の血を啜ってきた英雄の槍は、銀の瞳を貫いていた。
「っ!!!!!!」
直後!
そして目の中に焼けた鉄棒をねじ込まれたような激痛が彼の脳を痺れさせる。
「……ぐっ!」
生まれて初めて味わう最悪の衝撃!
一瞬硬直した体から炎の津波のように広がる激痛に、彼は少し遅れて絶叫しそうになる口を無理矢理に閉じ、意思とは裏腹に暴れる舌を構わず押し込んで噛み千切るほどに顎を
両手で押さえて
「うっ、く……!」
喉が焼けるくらいに溢れる悲鳴を、暴走する膂力で顎ごと押さえ込み、
そしてそのまま頬肉を削ぎ上げるほどの握力の侭に刷り上げた右手で右眼を押さえ……
右目を……?
――押さえた
押さえた掌からズルリと溢れる鮮血。
彼の右目は
「……」
発狂する激痛と衝撃で彼は膝をつき地べたに這いつくばる。
ーーーーーーーーーーーーーーー。
ーーーーーーーードサリ
せめてもの苦痛の解放……
その絶叫をも飲み込んだ
――あまりにも壮絶!
戦場で数々の死を直視してきた猛将達が言葉を失うほどの光景。
――
結局……
「……」
「……」
暫く言葉無く立ち尽くす将達だったが……
「ふん……小賢しいな、
この場の絶対支配者から発っせられた言葉は将達を絶望させるものだった。
「……う」
「しかし……」
流石に躊躇する将達に向け
「下らぬ、子供に感化されおって」
そして自ら立ち上がり刀を手に取った。
「お待ちくださいっ!」
だがそこに割って入ったのは意外にも
「…………なんだ?……
「物事には通さねばならぬ道理があります!王の人望のためにもここは……」
少したじろぎながらも臣下として、状況を鑑みて進言する
「天下を知る者ならば、”王”を示すことこそが肝要……
「……」
「…………ふん、なるほどそう言うことも在るか」
チン!
渋々なのか、それとも想定済みなのか……
――辺境の
そういう確信があったのだろう、
「流石は我らが王っ!!」
――
―
意識を取り戻した彼は再び悪夢のような激痛に襲われる。
空洞になった右側からは未だ焼ける鉄棒を捻り込まれたままの熱さが残り、それが脳まで突き刺さった錯覚で頭痛が酷く、とても思考など纏まらない状況であった。
――俺はまだ死ねない……
――そして
彼は何とか立とうとするが体が思うように動かない。
布団の上で羽をもがれた蝶のように虚しく藻掻くだけだった。
――
―
結局、その後も数日は絶対安静だったという、周到にして無謀な……
――俺に似た馬鹿は……
――”序列一位の魔眼である“黄金”はにゃぁ、別名”
邪眼魔獣バシルガウの化身だろう
――”正味、
――”レク……
つまり奴は現時点で傍観者を名乗るだけ在って、基本的に魔眼の姫以外に手は出せない。
ならばと、
――”
そういう意味不明の言葉と共に消え、そして……
――
「つまり、お前の竜眼とやらを代償に、黄金竜姫の方は純粋に魔眼の能力だけで済んだと?」
俺の問いに偽眼鏡男は苦笑いしながら肩をすくめた。
「さあな、片眼だけの俺の不良品と
命を賭け――
命を捨てて――
圧倒的不利な未来へと
「あの化物に対処する
レンズの向こうに歪みの無い眼鏡、その奥で鈍く光る精巧な作り物の近くを人差し指で軽くコンコンと叩き、左目に強い芯を思わせる光を宿した黄金竜姫の騎士は、それが
「きっとお前にとっても”安い代償”だろう?なぁ、鈴原
――
―
俺は刀を身体の正面にて水平に構え、
「……」
ピシリと凍るほどの緊迫感。
剣の領域に入った無防備な獲物を無言で見極める
「はは……そうだな、なら答えは簡単だ」
俺は盟友との
ジャキ!
――っ!?
――
ダッ!
俺は真正面から大きく踏み込んだっ!
「ああ、全くお買い得だよ!易い代償だなぁっ!!」
第五十話「
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