第162話「因縁生起(フェイト)」前編
第四十九話「
「あら?
肩まである黒髪と白い肌、そして細い腕。
武人というにはあまりに無縁そうな華奢で清楚な十代半ばの少女が拍子抜けしたような声で呟いた。
「確かに”愛おしくも懐かしい方”を感じたのですが……私としたことが、どうやら混同してしまったようです」
――戦国世界、
鈴原
その前にふらりと現れた単独の少女剣士は正体不明の異国部隊を確認しても特に気にとめる訳でもなく独り言を呟いたのだった。
「あら……」
奇妙な布で覆われ見えないはずの視線を、隊を率いているだろう中性的な容姿である剣士の後方でやる気無く壁にもたれかかった男に向ける。
「……」
その男の名は――”
彼はいつも通り何者にも動じない不感症な瞳で、謎の少女剣士から放たれる尋常ならざる気配をも受け流していた。
「なるほど……その異質なほどの”強者の佇まい”に、私は
暫し視線を交わした形の二人、その少女の方は一頻り男を見てから少しばかり口惜しそうに独り納得する。
「ええと?キミ、キミは”なに
そして質問するこの隊の指揮官、中性的な容姿である
「”愛おしくも懐かしい方”とやらと勘違いしたのがそんなに嫌か?」
「…………」
小さくなって行くはずだった……柔らかな物腰なれど何者をも拒絶していそうな少女の背は、意外なことに
「図星か?お嬢ちゃん」
そしてそのまま無神経に続ける無愛想男。
「…………
そして変わらず落ち着いた柔らかい声ながらも、少女はゆっくり振り向いて
――ゾクリ!
彼女の本当の瞳は巻かれた布きれで覆われているものの、その文様が幾つもの異形の瞳を形取り、それ故に真の表情が掴みづらい少女が見せた微弱な表情の変化……
それはまるで遙か海の向こうに存在するという、人を石に変えるという魔女の風貌。
そこに居る者達は、そんなお伽噺を思い出すほどに緊張していた!
「そりゃどうも」
唯の独り、無愛想男を除いては……
「一応、お名前を聞いてもよろしいですか?と言っても、私とはどうも相性が最悪みたいですが」
少女は落ち着いた口調ながらも、結構辛辣な言葉で問う。
「減るもんじゃなし、構わないが……他人に名を問う時は自分からと習わなかったか?」
そしてまたも挑発するような返事を返す
「そうですね、失礼致しました」
一瞬だけピクリと指先を震わせたかに見えた少女は素直に応じると、
「
そう名乗ってから、五振りの凶器を従えた革製ベルト下でスカート調になった上着の裾を貴婦人の様に摘まみ、優雅に会釈したのだった。
「意外と素直だな」
意地の悪い茶々を入れる
「減るものではありませんので」
それに意趣返しする盲目の少女。
「…………俺は
なんてことは無い。
お互いに自己紹介しただけだが、周りを囲む兵士達の鎧の下は汗がだらだら……
死線と変わらぬ緊張感に呼吸もおろそかになってしまっていた。
――
「――で、その後、その
宗教国家が信仰する
黙っていれば十分美形な中性的容姿の
「
主座に座した巫女姫の隣に控えた
「下世話?下世話かなぁ……可愛かったけど……あっ!
本人は何気ない冗談に乗せたフォローのつもりだったのだろうが、その一言で場の空気がピシリと凍ったのは誰の目にも明らかだった!
ブォン!
「ひゃっ!?」
ザス!と音を立て投げられた抜き身の刀は軽薄剣士の足下に突き刺さる!
「あっ、危ないじゃないか!
「”
近代国家世界でも刀を所持して巫女姫を守る女剣士。
こっちでは武器の所持なんて中々しないが、その心意気は確かに見上げたものだ……が!
――それは”無刀”というより”無法”の極みだって……
様子を見ていた
足元付近に突き刺さった刀を見て慌てる弟に、当然の如く技名を披露した姉だが、それは幾多の流派に存在する奥伝の”無刀”とはほど遠い。
秘剣?飛剣?……いや、はっきり言おう、
「あわわ……
そして弟の不始末は勿論、姉の短慮な行動を諫めるべき宗主様は……完全に役立たずだ。
宗教国家”
「……」
軽薄剣士の横に立った無愛想男もまた、いつも通り我関せず?
”
「まぁそれくらいにしとけ、それより怪人の対処だ」
やれやれと、
「そ、そうですね……結局、
姿勢を正し、改めて俺の方を見て尋ねる
――そう、残る魔眼を狙うなら
俺は暫し思案した後、隣に引き連れて来たアルトォーヌに目配せした。
「はい、その可能性は十分に……」
彼女は俺の視線による問いかけの意味を察して答えた。
――魔眼の姫、序列五位である
二人を引き合わせることでそこから新たな何らかの情報を聞き出せないかと俺は考えたが……それは空振りに終わった。
アルトォーヌは例の”鍵”以上の新たな情報は持っていない様子だし、
無論、今まで顔無しの怪人、”
「
「はい。
俺の問いに頷いて答えたのは、お飾りの宗主、
「それは正解だな。
俺が次手、つまり
「失礼致します!」
女の声が響き、新たな
第四十九話「
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