第156話「一顧傾城」前編
第四十三話「一顧傾城」前編
鈴原
京極
「
地面に膝を着き、足下に深々と頭を下げる女は……
しっとりとした白い肌に細く涼しい瞳とキリリとした口元、
「良いわ、
木々が僅かにそよぐ程度の山風を受けて――
腰まである緩やかにウェーブのかかった美しい緑の黒髪が輝きながら小さく踊る。
「
その黒髪の美姫の白く透き通った肌と対照的な
「は!姫様の寛大なお言葉!!この
彼女は
「布陣も完了致しましたし、大方は
そして暫く様子を見ていた、
膝を着いた
――彼女たち新政・
元は
その強さは正に武神!!
そして、その快進撃の報を受けた
無論、
ここは一気に
結果的に兵力比は一時的には、新政・
そして二国が睨み合う戦場、
平地を幾つにも分断する川の流れとその川辺に小城や砦を並び立たせて各々の経路を繋ぎ、幾たびも外敵からの侵攻を退けてきた
やがてその窮地に
だが意外にも京極
「あれだけ堂々と通られては……
「勿論それもあるでしょうが、
だが現実は違った。
京極
そういう”戦略上”の虚を突いた援軍で在り、そしてさらには城には入らず城塞群の背後を”戦術上”の虚を突いた布陣をやってのけた。
「さすがは姫様です……ですが、あの”喰わせ者”がもし……」
――そう、
先ほど話題に上がった、
京極
勿論それはかなりの危険を伴う判断で在り、普通はあり得ない行為だろう。
それは
――だが……
「鈴原
聡明な彼女にして全く
確かに現在は同盟国であるが、そうでなく敵対関係であっても裏切らないとは……
「はい、そうですね
「……承知致しました、姫様」
しかし、あまりにも自信に満ちた美姫の綻んだ口元に、臣下の二人は何故かその不可思議な関係を肯定してしまう。
「これで敵の背後であり高所……後、水源を押さえられたわ、どうでるかしら?」
そして才色兼備の美姫は、
――”
合流に成功した
絶対的に有利な地形を手に入れた新政・
「敵の動きがあるまで
「承知した!」
そして――
「…………」
山腹から眼下の城塞群を見下ろす暗黒姫の
まことに希なる美貌の少女の極めつけ、漆黒の
対峙する物を尽く虜にするのでは無いかと思わせる美しい眼差し、恐ろしいまでに
その”奈落”の
”どうでるかしら?”と発した自らの言葉とは裏腹に、
恐らくはこの先の何手先をも見越した”神機妙算”に光る知の結晶そのものであった。
――
―
――
――”
コツ、コツ、コツ……
「…………」
連戦に次ぐ連戦で疲労困憊し、見張りを残した兵達も兵舎にて眠りこけ、そのため誰も無くガランとした城の中央広間にペタリと腰を下ろした独りの女。
長い黒髪を束ね、それを
コツ、コツ、コツ……
胸元を少し着崩した留袖着物姿から露出した折れそうなほど細い手には、
コツ、コツ。
「…………珍しい事もあるもんさね、
少々乱れた息と身につけた着物がしっとりと濡れた女は実に色気漂う美女である。
「これも仕事だ、
「…………」
女の近くで立ち止まり、見下ろしてそう問うのは老いてなお眼光鋭いひとりの将だ。
姓名を
そして
「そうさね、ありゃ正真正銘”化物”の部類さ、精も根も尽き果てるてもんさ、この短期間で四分の三もの城を持ってかれりゃね」
老将、
”元”
「半分は宮の作戦だろう。それで首尾はどうだ?」
「はは、そうさねぇ?同じ
妖艶な口元に笑みを浮かべながら、
「
一応は問いかけ口調だが、決して否とは言わせない厳しい眼光の
「勿論さね、親父殿。元十剣、
そして手にした
納刀されたままの”長ドス”をするりと滑らせるように滑らかな動きで柔い肩に担いだ。
「
第四十三話「一顧傾城」前編 END
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