第153話「虚矢現滅(ファントム・ショット)」後編
第四十話「
宗教国家”
攻撃目標を”
――
――先の”
――そして三男は……別の地に
「城門西部砦から降伏の狼煙です!これで七カ所目です!」
城壁の数カ所からモクモクと上がる煙は、幾つかの防御拠点が内部から制圧された、若しくは内部工作が功を奏した証拠である。
「上手く敵の虚を突いて包囲、ここまでは上出来だが……」
俺はそう呟くと同時にクイクイと人差し指で目前で
「
俺の指の動きに応じ座したままで
「すみません
背に見えにくい黒糸で”刀身と桔梗の花”の刺繍が小さく入ったヒラヒラした布きれの、顔以外をスッポリ覆い隠す黒装束に身を包んだ女、我が
「そうか。
参謀、
主戦力がお留守でも、相手の虚を突こうとも、
”本城”というものはそう簡単に落ちるものではない。
「まぁいいさ、この時のために散々手は打ってある」
だから
「先生、今暫く時間は必要かと思われますが、このまま包囲を続ければ……」
座した俺の横に控えて立つ参謀の少女が、部下との一通りのやり取りを終えたのを確認して俺にそう進言しかけるが……
「”奴”の居処は突き止めているな?」
俺はその言葉を右手で制してから、正面で
このまま包囲を続ければ、おそらく
そして、その混乱に乗じ
それこそが
だが――
「はい、勿論です」
今度は自信を持ってそう答える
――結論から言えば……
そして
――だからこそ!
今現在、こうも易く目前で敵兵の寝返りが続出しているのだ。
そして、この重要且つ難儀な任務を粛々と
「
俺はニヤリと口端を意地悪く吊り上げながら、参謀とは別の側に控えていた黒髪ショートカットの美少女に指示を出す。
「はい、承知致しました。
「あ、あの……?」
そして、その場で唯一人、
我が参謀である
「
「はい、
俺はそのまま指示を完結する。
「……」
そして一転、不可解な
「最高責任者不在の
「…………は、はい」
自分だけ蚊帳の外という状況に、少しだけ不満げにそう応える
「でだ、そいつの居所を内外から突っついてやれば?」
だが俺は構わず続け、彼女に示唆を与えた。
「!?」
俺の目論見通り、その一言だけで”聡い少女”の瞳は、はっ――と一瞬で色を変える。
――城の内外……
”
実質的な支配者たる
そんな折り、城兵のあちらこちらで寝返り、混乱が起きる最中に、実質第二権力者である
「敵の戦意は……ど、どん底まで落ち、
俺が偽報を成立させる為だけの適当な攻撃ではなく、本気で
「”策”自体の方向性は良かった。だが、偽の城攻めだからと手を抜けばそれは容易に敵に気取られるだろう」
例えば、足止め部隊だからと適当に逃げ帰る様な生半可な覚悟で挑んでくる部隊なんてものは囮にもならない。
そんなモノは、賢しい烏にからかわれる”
そして今回は敵遠征軍本隊を寄せ付ける前に偽報を用いて戦意喪失させるという、時間的にも極めてシビアな作戦内容だった。
さらに言うならば、無事に
そうなると――
「この
俺の言葉に
「虚々実々……虚をもって実を得るには、その
俺の言葉に
「首都陥落という偽情報を敵に信じ込ませ、敵部隊の士気を最大限下げる。そして、極度の混乱状態に陥らせることによって味方である伏兵部隊の援軍とするには、敵がそこに至ると想像でき得るだけの材料を幾つも提示して見せる必要がある……のですね」
「ああ、そうだ」
――やはり”
”人を効率よく騙す嘘というモノには、その課程にて幾つもの真実が
この程度の問答で彼女は
「多くの真実から形成される結果としての嘘は、真実に勝る確信を相手に植え付ける。加えて”戦”とは生き物だ、ならば自らの予想の範囲内に在るうちに、己が手中で
――自らが優位に進められる限られた時間
――”黄金の時”にて、確実に成果を得る!
そのためには綿密な準備と決断力、場合によっては多少の強引さも必要なのだ……と、
「は、はい!先生っ!!……私が浅慮でした!」
――打てば響く、まるで”
綺羅綺羅と叡智の瞳を輝かせる
「ここまでの経緯で上首尾なら、偽報にて
そして俺は充足感漂う
――
―
うわぁぁっ!
ぎゃぁぁ!!
「おらぁぁっ!!かかってこいよ!
短髪で四角いゴツゴツとした無骨な顔……
太い首から繋がる肩の筋肉は隆々と盛り上がり、二本の丸太のような両腕に鬼ヶ島の悪鬼が如き金棒を握った、ほとほと常識離れした体格の大男が吠えた。
ヒュンーーシュバッ!
ヒュンーーシュバッ!シュバッ!
「あまり動き回らない、アンタは的が大きいんだから当たるわよ?」
長い髪を後ろで束ねた化粧っ気の薄い女が射る弓矢が、大男に蹴散らされた雑兵達を射的ゲームのように次々と狙い撃つ。
「うっ!スンマセン、
その声を聞くや否や
「テメエもだ!
そして、他方で兵士達をバタバタと殴り倒していた柄の悪い男が、弓を放つ女に苛立ちをぶつける。
「あら、
誰の目からも品行方正とか真面目とかとはほど遠いイメージの男を捕まえ、軽く笑ってそう言ってのける弓使いの女。
軍としては既に完全に
岩石の如き巨人、
勝手気ままな弓使い、
柄の悪い拳法家、
――
「粗方片付いたみたいね。ふふ……ご苦労だこと」
それをやや離れた位置で傍観していた、長い巻髪で色白の、
グルルルルゥゥ!
ウゥゥゥゥッ!
「て、敵本隊は既に総崩れ……真っ先に逃げ出した
女の両脇で狛犬の様な
「勇んで攻め込んだは良いものの、散々に返り討ちに遭って帰ってきたら家が空き巣に取られていたなんて、神の加護も怪しいものだわ。所詮は
長い巻き毛の女、
「つ、
「それは面白くないわね」
「ひっ……」
高飛車そうな女の
これは少々手を打つ必要があるか……と
「それにしても
そう呟き、そして直ぐにまた口端を元の位置に上げる。
「それから、そうね……」
――そう、なんにしても戦後処理だ
――
そういう考えが見て取れる意地悪い笑みを浮かべた巻髪女は、そのままサッと右手を高々と掲げる。
「さぁ前座共の出番は終わりよっ!!総仕上げは私たち新政・
”
正にそう言わんばかりに巻き毛の女は、自らの率いる軍を混乱の最中に突撃させたのだった。
――
―
これから二日の後、予想より随分と早くに宗教国家”
虚矢の一撃で始まった戦いは、
新政・
第四十話「
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