第151話「岐路」
第三十八話「岐路」
「今までも彼なりに試行錯誤していたのでしょう、基本はしっかりと備わっているようですね。ただ、彼の間合いから考えるとより敵の懐に踏み込む必要があります」
若い生徒に指導をつけ、少し暖まった息を出し入れしながら俺の質問に答える男の姓名は
黒髪を尻尾のように後ろで結わえ、スッキリした顔立ちの……
俺には少し劣るが中々に二枚目な青年だ。
「なるほど、それで”
確か
なるほど、それを差し引いても
”
だから剣を取っても人一倍
戦闘は近間なら近間なほど攻撃を
普通、生半可な技術では攻撃を完全に見切るのは難しいために、防御方法は自然と自らの剣で受けて流すスタイルになるのだ。
「はい、小柄な彼には敵の膂力を上手くいなす事が出来なければなりませんから」
その通りだ。非力なればこそ”受け流し”の研鑽は必須だろう。
――だが……
「お、おねがい……い、致します」
向こうからは
俺が
――ふっ、青いな少年
「に、しても……あまり身が入っていなかったようだが?」
かなりな美少女である
「本人は至って
――なるほど……
確かに
それは最初の面会時に確認済みだが、そこもやはり父親譲りなのだろう。
――それに……
偉大な父を目指し、必死で励んできた努力が中々実を結ばないという焦りもあるだろう。
俺は
「
そして俺は向こうで
「は、はい、
少女は直ぐに稽古の手を止めると
「……」
俺に頷いてから木刀を手に、
「あ、あの……
その様子に
「
そう言うと、俺自身も傍の塀に立てかけてあった木刀を手に歩き出す。
「さ、
因みに
俺が”様”付けをやめろと言ったのと、なんとなく年齢的な感じでそう呼ぶようになったのだが……
結局は”様”が付いている気がしないでもない。
まぁ、今更”
ザッザッ……
そんな事を考えている間にも俺は”
「……」
――スチャ!チャ!
頭をを低く低く……
まるで獲物を狙う猫のような姿勢にて両手に短刀型の木剣を握った鈴原
――ザシッ!
しっかりと両手で正中に、木刀を構える
「この
そして、数メートルの距離を置いて立つその二人を結ぶ中央地点に、片手持ちで木刀を肩に担いだまま俺は二人に一瞥ずつした。
「”
俺が吐いた余裕の台詞が開始の合図だった!
「フッ!」
瞬時に鈴原
「はっ!」
――シュパッ!
先に俺の間合いへと到達したのは双剣を手にした少女だっ!
”
――ガッ!!
だが俺はそれを木刀の柄尻で撃ち落と……
――バシュッ!!
したのとほぼ同時っ!!
今度はもう一方の短刀が俺の足元を狙って払い斬りされるっ!
「……」
だがこれも俺は、僅かに足元の軸をズラすだけの動きで
――ブォォンッ!!
体軸に僅かなブレが生じた直後を狙い、反対側から打ち込まれる鋭い木剣の一撃!!
――ヒュバッ!
と、同時に……
両刀を防がれた少女の頭が更に下方、地表スレスレまで落下して反対方向へと旋回したかと思うと、その反動で蹴り上げられた
――良い狙いだ……
体軸がブレた俺だが、
――ガッ!
構うこと無くそのままの姿勢で
――ガガ……カッ!
そのまま木剣の衝撃を、
――行き先は……
「っ!?」
俺の足元で”
――ぐっ
そして、その喉元を刈り取りに来た少女の脹ら脛にそっと触れるように空いた方の手を添え、その奔流を間合いに踏み込んできた男の首下へと軌道修正するっ!
「ぬぅっ!?」
数瞬前まで絶妙に連携していたはずの少女と青年……
二人はお互いの攻撃、つまりは”蹴り”と”木剣”にて相打つ形となって倒れ伏す――
とは、当然いかない!!
――ズシャァァッ!!
俺は
――パシィィ!!!
「よっと!!」
一本足でバランスを失った少女の
「…………ぁ……さい……さま」
ストンと俺の懐に収まって瞬時に染まる頬と上目遣いの瞳で俺の顔を見つめる
「ま、参りました」
そのままペコリと頭を僅かに下げて素直に敗北を認める
これら一連の攻防がほんの一瞬で行われた訳だ。
「……」
――まぁ、こんなもんか
俺は自身に対して頷いてからそっと
「どうだ
俺は努めて明るく、優しく語りかけたのだが……
「う……あう……あの……うう……」
少年は少しばかり戸惑っている様子であった。
「あ、あの……さ、
「出来るぞ、普通に」
少年の口から
「え?……で、ですが……」
「実演したのは”ちょっと”ばかり高度かもだが、基本は同じだぞ」
少年の反応を見て、俺は極めて普通に、どうという事がないぞ、という感じで諭す。
――パチ……パチ……パチ……パチ……
だがそこに割り込んでくる、どうにもタイミング遅れで怠惰な拍手。
「え!?ええ!?あ、貴女は……」
稽古に集中しきっていた
「…………」
まぁ、俺は”その女”の存在にはとうに気づいていた。
「なんの用だ?
そう、少し前からまるで敵国の密偵が如きにこちらを窺っていた女に。
「べつにぃ?サイカくんの
長く艶やかな黒髪を後ろで束ねたポニーテールの女、
「……気配を消してか?」
――無駄に”隠密の術”を駆使してまでこの女は……一体何がしたいんだか?
「く、黒髪のポニーテール!?も、もしかして貴女は……あの……あの……」
そして突然現れた妖艶な美女に、純朴な少年は耳まで真っ赤に染めて
――鈴原
この年齢の少年ならこう言う反応も仕方無いだろう。
思うに、俺は
鈴原
「ん?それはそうとぉ……サイカくん、”
「え?へ?……て、てん……りん?」
そして自分が
「……」
――ちっ!余計なことを
俺は思わず舌打ちした。
――”
読んで字の如し、相手の攻撃による衝撃を呑み込み、そしてその力の奔流を自在に操る、”受け流す”だけの防御術とは一線を画する”
”攻撃は最大の防御”という言葉があるが、これは”防御こそ最速の攻撃”を体現する、防御術を極めし一つの到達点ともいえる
――まぁ、いわゆる”奥義”と呼ばれる
「さ、
「極めればその先には”こういう世界”もあるってことだ、
その先……
現在自分が取り組む努力の先……
そこに明確な”完成形”があるなら、地味な修練にも張り合いが出る。
結果的にたとえ
「は……は、はい!
そして誰がなんと言おうと、すっかり気合いの入った少年の顔を見ると俺の判断は正しかったと言えるだろう。
「おう」
俺は頷くと手にした木刀を
「では
「はいっ!」
背中越しに聞こえてくる、
――
「…………」
――で
「お前はなんの用でここへ?」
俺は稽古場から離れる足でそのまま乱入者の元へと歩き、そしてすれ違い様にそう問うた。
「だからぁ、見学だって……」
足を止める俺。
「変な横槍を入れに
そして”下手な言い訳”を聞く気は無いと、俺はピシャリと”
「それにしてもぉ……”
「おいっ!」
――っ!?
あくまで”しらばっくれる”のかと、睨む俺と至近で交わした女の垂れ気味の瞳は、予想外に真剣だった。
「”
歌うようなリズムの
「…………」
――彼女の言う”
武器を使う”刀術”そして素手の”闘術”に
それは
「たしかぁ、”
「…………」
そして先ほど
――
「まぁいっかぁ?でも”彼女”って確かぁ、その”
――回りくどい言い方を……
「”
少々じれったくなった俺はビシリと指摘する。
「いいえ、
そんな俺に、”
――”には”……か
「
いつになくしつこく絡んでくる
「
――と、”
実際は
「
そして
必要以上に俺に接近する
「
しかし
――さすがキング……じゃなくて”クイーンオブマイペース女”だ
「お、
そしてその内容に、
「アレ、間者でしょう?
驚く
――まさか……嫉妬?いや、この
だが
――しかし…なんて
「……俺が”許可”したら、今からでも始末に急行しそうな顔だな、
複雑な心情の中、かろうじてそう返す俺の推測はきっと正しいだろう。
「はっ!ま、まさか……
――まぁなぁ……
――だがそれを差し引いても
「”
そうして、いつもとは違う鋭い口調と一国……
――
女性としては高めの身長と
”一番能力のある者が責任を持つ、それだけよ”
終始、
いいや!!
能力のある人間がその責務を全うする事を他の誰よりも信望するクソ真面目な女。
「……」
その
第三十八話「岐路」END
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