第148話「天翔の城」後編
第三十五話「天翔の城」後編
俺が
「なんとか今年中に”
俺はビルの窓から、年の瀬で忙しそうに行き交う人々を見下ろしながら呟いた。
「取りあえず”仮”の司令部を設置致しましたが、本格的な移転は年を越してからになりますね」
同じ部屋のドア近くにある秘書用デスクで色々と作業を
――
いいや、
「ここから
この年の瀬に、
「まぁな」
俺はそんな少女に笑い返してから、政務の息抜きにと町並みを眺めていた窓付近から部屋奥に
――そうそう、先程はちょっとばかし”ややこしい”表現をしたが……
ここは正確には”近代国家世界”の
つまり”戦国世界”では
「”
「はい、それに宗教国家”
「前回は
「はい、そして我が君は
――そうだ。ここ最近、俺は同盟国や協力国の領土拡大に身を粉にして協力してきた
それは……
言うまでも無く”
列島最大の陸地である本州を囲む海、北側の”
そして南側の”
それら”海洋都市”達を陸路で結んだ中央に位置するのがこの
南北の海路を確保し、それを補足、統合する陸路の要衝。
これまで携わった一連の戦にて俺が身を粉に尽力した”真成る目的”とは、この”
これにより初めて我が
「本来なら大国各国が消耗している間に手に入れたばかりの領土の安定と強化を図り、国力の底上げを行いたいところだが……」
――そう、暫くは内政に努めるのが最善であるだろう
――だが……
「それは”
流石に俺に長く仕える
「そうだ。今回、せっかく
”大欲は無欲に似たり”とは言うものの……
翻って一方では戦には”機”というものがある。
強大国”
乗じて
「
――我が
俺の言葉にショートカットの美少女は力強く頷いた。
「そうなれば……後顧の憂いを断つ為にも、私達の本拠である”
「…………」
柔やかに俺を見て微笑むショートカットの美少女に、俺は微妙な笑みを返していた。
何故なら彼女が今し方口にした
過日、
「
「そ、そうだな……」
――無論、
「”
俺の為だからと、相手が聞いていたら中々に傷つく様な発言を実に良い笑顔で発する美少女。
「は……はは」
――ほんと、
俺はあの熊男が少しだけ、ほんのチョッピリだが不憫になったのだった。
元々あの熊男が俺にその提案をしたのだって……
――”嬢ちゃんに断られたからにはこれが次善だっ!しっかり戦果を上げるから後は頼むぜ、鈴……大将っ!!”
てな具合に”
まぁ、奴の置かれた状況は理解出来るし、
――
だが、その
だからこそ、
その代替案として奴が持ってきた話が、先程
「同盟国じゃ駄目なのか?」
「一昔前ならな……だが
俺の問いに少々ぶっきらぼうにだが、
俺としては、長年同じ小国群の代表として肩を並べてきた男だ、その関係性に今更上下関係なんて余計なモノを混ぜたくないと思ったのだが……
「鈴原、世は戦国だ!俺にとって”俺より強い奴”が上になるのは別段恥じゃない」
俺が初陣に近い頃から同じような立場で戦場を駆け戦功を競った男、結構年上だから当初は世話にもなった。
そんな間柄の男だから色々と思うことも在るだろうに……
全く曇りのない眼で俺を見て笑う戦友に、今更俺がとやかく言うのは逆に無粋だった。
――そうだな、
俺は心中で謝罪しながらも強く頷いてから命じる。
「なら、
ゴツゴツとした
「易い御用だ、はねっかえる奴等は前回の
俺はそう言った時の奴の顔を覚えている。
幾つも死線を越えて来た鋭い眼力、生まれつきの
そんなものとは全く異質の、他のどの猛将とも違う。
――膂力のみで他者を圧倒的なまでに組み伏せて来た絶対的な自信!
――それのみで国を治め頂点に在り続ける絶対強者の理不尽!!
――
―
「
「!……ああ、なんだっけ?」
「いえ、なんだかご機嫌が良い感じで……」
――う!?
――あんな熊男のことで思い出し笑いなんて恥ずかしい……
「い、いや、そうだな。
ルルル!ルルル!
――!?
ルルル!ルルル!
その時、室内に設置された電話の呼び出し音が響いた。
「…………」
俺はその音で、ピリリと指先までなにかが走った様な感覚に押し黙る。
少しばかり虚を突かれるタイミングだったが、所詮はただの電子音。
だが俺にはそれが……
――とても不吉で、そして同時に胸が高鳴る感覚を感じていた
「
「……」
何故ならそれは”秘匿回線”……
この部屋直通で連絡を取れるのは我が
さらに
当然この回線は設置したばかりで、かかってくる可能性は極めて少ない。
スピーカーのスイッチが入り……
「ご機嫌よう
「……」
その場に俺の……
「どうかしら、”天下に臨む城”の居心地は?」
「…………」
開口一番、完全に俺の意図を見透かした言葉。
「なんの……用だ」
――どうやってこの回線を?
――
”
「連れないわ、
「……」
機器の向こう……
目には見えないが確実に解る。
あの
意地悪く微笑んでいるのが。
「暮れも押し迫って来たことだし挨拶をとね、本年度中は大変お世話になりました」
「……」
――
――だが、そういうお遊びがしたいなら付き合ってやるよ
「……そうだな、で?来年もよろしくお願い致しますとでも言えば良いか?」
「…………」
――?
「
俺は彼女が返すその沈黙に、最初の感覚が再び蘇る。
――とても不吉で、そして同時に胸が高鳴る感覚……
「それは……”新年の挨拶”は直接会って伝えるわ、貴方の
――会う?直接?
いや、それよりも”
それはつまり、この”近代国家世界”ではなく”戦国世界”で、という意味だ。
「どう言う風の吹き回しだ」
「会いたいの」
「……」
――だからどういう……
「と言ったら嬉しいかしら?」
――いや、こういう女だった
「久しぶりだから”じゃれて”いるのか?」
「どうかしら?」
――そうか、
「わかった。なら城で待つが……ここは改名予定でな」
俺は声だけの愛しき暗黒姫に終始気圧されながら続けた。
「”
「……」
その名が何を意味するのか。
”
それはつまりこの城にて俺は天下に覇を……
「良い名だわ、ふふ、
「…………ああ」
第三十五話「天翔の城」後編 END
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