第148話「天翔の城」前編
第三十五話「天翔の城」前編
「立派な城じゃないか、これなら改修にそう手間も掛からないな」
俺と側近の鈴原
その領都である”
「確かに、この”
――
鈴原
「そうだなぁ、俺が
少し腑に落ちないという
「”
そう、
それは一週間前の”停戦交渉”であった。
――
―
「貴殿が?」
入って来た俺の顔を見るなり、先に到着していた一団の中央に坐した初老の将が問うた。
負傷退場した本来の
――
――結局、俺は”
”魔人”
俺が刃を交えただけでもこれ程の男達が君臨し、そして未だこれ程の男が存在する
「悪いな、待たせたみたいで。早速始めるか?」
俺は対面して早々の敵将にそんな感想を抱きながらも、その人物の問いかけに素直に頷いてから用意された席に腰を下ろす。
――場所は
両軍が睨み合う戦場中央に設けられた仮説
「
長さ百五十センチほどの”戦用木製盾”数枚で組まれた急造のテーブルを隔てて座る三人の
「
――そして
そう一応は尋ねてみるが、これは”外交儀礼”だ。
それは、今回の交渉内容はお互いの陣営に事前に伝達されており、この場はあくまでも最終確認の場だからである。
「問題無い。
なので
「……」
そして直ぐに
「は!」
この場にあって只一人、これといって見栄えのしない男は
「…………」
――なんだ?
その瞬間、俺は少し違和感を感じる。
一瞬だが、一見して見栄えのしない有り触れた中年男はその風貌に似合わぬ鋭い眼力を
「
――いや、些末事だな、どちらにとっても重要なこの場に”只人”が居るはずも無し
俺は直ぐに思い直し、そして直後、行動に出る。
「先に送った書状の通り、
――っ!!
相手が発する言葉の完了を待たずに放たれた俺の要求に、一瞬にしてその場が凍り付いた。
「…………」
ピクリと眉を僅かに反応させただけで、不機嫌な顔ながら黙する
「…………それは」
殺気の籠もった光をまたも一瞬だけ、その眼に宿した只人風の中年。
――なるほど、俺のよく知る眼だ
「いえ、失礼しました……
直ぐに何事も無いかのように交渉に入る中年男だが……
誤魔化そうともあの閃きは、希なる”智者の瞳”だ。
「…………」
――となれば
俺が頭の中で中年男の素性を詮索している最中にも
「確かに”停戦交渉”と銘打ってはいても中身は我が
一旦は鋭い閃きを瞳の奥に仕舞った中年男だが、中々どうして、次いで咽奥から吐き出した言葉は結構な刺々しさだ。
――!
「戦の勝敗は明らか!にも関わらずこの場を提供された我が君の温情に対してそのような無礼な口の利き方!どちらが痴れ者かっ!!」
だが
暫くは相手の言い分を黙って聞く姿勢だった俺に代わって、俺の左横に控えて立っていた少女が激しく抗議の声を上げたからだ。
「…………」
「…………」
そのまま睨み合う、
「…………失礼、貴殿は?」
暫し沈黙の後で、中年男が放った言葉にショートカットの美少女が取った行動は――
キンッ!
中年男と木製盾の急造テーブルを挟んで睨み合った状況にて、腰の後に装備した二振りある特殊形状の短剣の内、一振りの短剣を素早く引き抜く!
ギュルルルーーーージャキンッ!!
そして、その柄尻に施された丸い輪っか状の穴に人差し指を通すという彼女特有の握りから、そこを起点に刃をクルクルと旋回させるという挑発的なデモンストレーションを伴った後、中年男の顔面へと切っ先を向けるショートカット美少女。
「っ!?」
「相手に名を聞くなら
交渉という場にはまるでそぐわない、十二分に殺気を孕んだ視線で彼女は中年男を睨む。
「……」
――まったく、相変わらず
俺の側近である鈴原
「こ、これは失礼した、そうですな……うむ、我が名は
「……」
――やはりねぇ、この中年男が
回答を得て改めて思う。確かに……
――確かに”偽眼鏡くん”が一目置くだけはある
というより……
この
改めて、大した人物達が集まったものだと思う。
その顔ぶれ、この
正統・
「
そしてその俺の補佐には、目下、絶賛!殺気をまき散らし中の鈴原
「まぁ、嬢ちゃん。それくらいにしておいてやれよ、所詮は負け犬の遠吠えだ」
さらには、このままでは殺伐としかねないこの場の状況に、なんの躊躇も無く見事な油を投入する、”
対して――
「…………」
先程も自己紹介があった、
「負け犬だと?それは中々面白い表現だな、確か”
その
「ああ?事実だろうが!その風体、お前、”最強無敗”……だよなぁ?」
陽とした風貌にして実に見事な男ぶりの
――おいおい、怪獣大戦争でも
このままでは冗談で無く、そうなりかねないと……
「
ここに来て俺は、渋々とそこに介入することにした。
「ちっ!」
あからさまに不機嫌顔にて、乗り出していた身の重心を後方へと移動させギシリと背もたれに悲鳴を上げさせる巨漢と、
「は、はい!申し訳ありません、
直ぐさま刃を仕舞い、直立不動で俺に敬礼する我が側近。
――やれやれだ……
俺は二人を制した後、再び視線を
「”一応”ここは交渉のテーブルだ。折角
「…………そう、ですね」
油断の出来ない相手だろう智者は俺の言葉に警戒心満載で頷き、俺はさらに続ける。
「……でだ、最強国
俺はそこまでは前言のまま、話し合いらしく落ち着いた口調で進める。
「けど、だいたいなぁ?”
――孫子九編に曰く、”処女脱兎”……
最初は優しく従順に、機を見れば怒濤の如くという。
無論”用兵の常道”であるが、交渉事もある意味戦争だ、例に漏れるでもない。
まぁ、この場合は……
相手の懐事情から譲歩可能な額を要求して呼び出して、後の無い土壇場に追いやってから更に限界ギリギリを絞り出させるという、
――つまりは、”
とまぁ、そういう狙いで俺は”少々乱暴”に、”すこぶる横柄”に、そう言い放ってやったのだ。
「………………………………成る程、貴方の狙いは
対して
――まぁ良い……それならそれで
俺はこのまま押し切るまでだ!
「
――”兵糧攻め”が功した籠城戦
当面援軍も来ない、食料も底を尽いた守り手側の末路は悲惨の極致だ。
飢えによる死、飢えによる仲間割れ、飢えによる”
その地獄は過去多くの戦場が幾度も証明している。
「噂に高い”
「”
――っ!
「
「…………」
――そうだ!
鈴原
神成らざる人間が、その未完成な能力で神を越える”大望”を遂げるには!
全知全能なんてイカサマを振り翳さずに思う理想を握るには!
――
「うむぅ……」
「鈴原……
「…………」
――
――こんなにも狭い
「もう良い、承知した。”
そこまでで――
睨み合う両陣営の中で、
「
「お、叔父上!?」
「
流石は最強国が有数の宿将……
流石は百戦錬磨、叩き上げの
人公の誇りを
「…………ああ、承知している」
交渉の締結に俺は、ともすれば冷淡に取れる笑みを返し応じたのだった。
第三十五話「天翔の城」前編 END
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