第147話「知恵の鏡」
第三十四話「知恵の鏡」
「おう、来たぞっ」
作戦もそろそろ最終段階だと軍事関連書類と睨めっこしていた俺の天幕内に、周りへの配慮が微塵も無いバカデカい声で入って来たのは仰々しい
ドスッドスッ……ドサッ!
――ガシィィン!
その熊男は俺の前に大股で歩いてくると
小規模な地震が局地的に発生したのかと勘違いする揺れを発生させるような”鉄塊”は、この大男が担いで来た大剣であ……
――
ざっと見た限り、その大剣
「…………」
――そうだ、それは”剣”と言うにはあまりにも巨大で雑過ぎる代物だったのだ
それは
剣の形を模した凶悪な金棒。
「なんだぁ、鈴原?間抜け
久しぶりに会った熊男の風貌と相棒の鉄棒を、俺は今更ながら観察していた。
――間抜け
俺は一瞬その言葉が口から出そうになったが、下らないじゃれ合いをしても時間の無駄だと引っ込める。
「いや、久しぶりだったもんでな、しかし相変わらず雑な……」
「またそれか?
「”顔”だな」
「って!”顔”の方かよっ!!」
正直者の俺はやっぱり引っ込めていられなかったようだ。
「悪いな、根が正直者の鈴原
「だれが正直者だって!?貴様は
――はぁ、全く
それは
大国”
「……で、首尾は?」
色々と時間が惜しくなった俺は、
「おう、問題無い!それと言われた通り”
しかし大男はそんな俺の態度に不機嫌になること無く丸太のような腕を胸の前で組んで頷いた。
「だろうなぁ、まぁ今回はお前みたいな生粋の
俺は書類から視線を上げて頷き、後半の台詞は目前の大男では無くて今も天幕の外で控えて立っている礼儀正しい少女に向けて投げる。
「あ、は、はい!」
少女はペコリと頭を下げた後、少し遠慮がちに天幕内へと足を踏み入れた。
――彼女は俺と熊男の独特なやり取りに……少し躊躇していたのだろうか?
「特別任務の完遂、合格点だ、良くやったな」
俺達の関係性をよく知らない第三者が居るのを忘れ、俺はつい、旧知である
「は、はいっ!ありがとうございます!先生っ!」
そしてその言葉が余程嬉しかったのか……
途端にその少女は大きな声と共に頭を下げるとニッコリと笑った。
くせっ毛のショートカットにそばかす顔の快活そうな顔立ちの少女。
彼女は我が愛しの暗黒姫様ご自慢の”
俺が
――たく、あの”お姫様”は……
よくも自分の部下をこうもアッサリと貸し与え、
――”それなりに成ったら帰してもらえるかしら?その手の人材はまだまだ必要なのよ”
とまで言いやがったのだ。
なんの遠慮も無く、
「先生!ご指示頂いておりました、同盟国、
俺の近くで学べるのが彼女にとって余程のことなのか……なんとも嬉しそうに敬礼する少女は尊敬の輝きに満ちた瞳で俺を見てくる。
――まぁ……聡明な光りを宿す次代の策士に手解きするのも悪くはない
俺は彼女の未だ本当の意味で”
「中々の采配ぶりだったぜ、そのお嬢ちゃん。我が”
「でだ……それ以外にお前にな、少しばかり話というか頼みというか、あるんだが」
そしてそう付け足す相手に俺は頷いた。
「わかった、急ぎか?」
「いいや、今回の一連の戦とは別件だ。事が済んでからでいい」
俺の問いかけに笑って答える大男に、俺は再び頷いてから立ち上がる。
「なら取りあえずは目前の
――
―
「では、お主は未だ我が方に形勢を覆す”策”が在ると言うのか?」
城主であり総大将を務めた
「はい、完全包囲の中で兵糧は尽き、負傷者多数の劣勢ではありますが……既に策は仕込んでおります」
伏して応えるのは開戦当初から筆頭参謀に大抜擢された海千山千の策士、
開戦当初から常に兵数では勝っていたものの、補給と援軍を断たれた
それは総大将を撃破された動揺が全軍に多大に影響したのと、大量に流れ込んだ負傷兵や市民による混乱……
そして命令系統が
無理な城攻めを行う必要の無くなった連合軍は、混乱した
――更に三日の後
すっかり意気消沈した兵士達に決定的なトドメを刺したのは、夜半に起こった食料倉庫の火事だ。
籠城戦に必須である食料庫をまんまと焼き尽くされ、既に
「
――っ!?
策士の言葉に総大将代理で在る
「あの大戦の最中に紛れさせたのか?」
しっかりとした鼻筋の下にある大きめの口から力強い声で問うのは、
「そうです、城正面で展開された大軍勢同士の混戦ならばこそ、若干の兵を紛れて抜けさせることが可能だったのです」
確かに城正面平原で刃を交えた
その時点で既にこの策士は、最悪の状況が来るかも知れないと保険を掛けていたという事だろう。
「戦中数回に分け、ドサクサで上手く抜けさせられたのは総数三千ほど……その後は山中に待機させていたその隊に、
「敵の手に落ちた
武神”
「兵站を断つと言うのなら、敵地に遠征してきた相手の方がよほど補給線が伸びています。そう言う意味では、こういう策は敵よりも我らの方がずっと
現在の総大将と、陽とした風貌にして実に見事な男ぶりの将に策士は頷いた。
「確かに……敵はこの
「なるほど!目には目を、”補給狙い”には”補給路分断”をと……真に戦とはそういうものだなっ!」
そして叔父の言葉に最強の将はウンウンと何度も大きく頷いていた。
「それで……そろそろ
「ほ、報告致します!!」
司令室に兵士が転がり込むように駆け込んで来た。
「うむ、では」
「おうっ!」
「……」
その報告の内容を聞くまでも無く吉報と確信して視線を交わらせた。
「報告致しますっ!!
――っ!?
吉報転じ凶報と成る。
結局、その報告から数日後……
それは東の最強国
第三十四話「知恵の鏡」END
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