第145話「黄雀」後編
第三十二話「黄雀」後編
思春期によくある危うさと片付けるにしても、あまりにも不安定過ぎる。
コイツはあの、”
普通の、同年代の子供達とは訳が違うのだ。
仮にも一国の跡取りとして教育されてきたと考えれば、この危うさは……
――主な原因は偉大な父への
それは”この少年”の
長い修練により潰れたマメ、何度も擦り剥けて厚くなった皮……
いつまでも形にならぬ努力の渦中で、溺れる少年の胸中は
生まれた国や年齢は違えど、同じ一国の統治に関わる立場として
「…………」
だが俺は……
そうと解っていて、あの時は同じ
それは
――
正直、思い出しても恥ずかしい。
「…………
実は心中では反省しきりであった俺の声にも、
「その刀は俺が十五の時に戦で手柄を立て、
――っ!?
その台詞に、場の全員が俺の顔に注目する。
勿論、
「東南の風が吹く頃、海魚が変じて黄雀になるという逸話を模して打たれた名刀、”
「こ……な、なんで?」
経緯から”
「
隣に控えた
――さすが
この
だが、それ以上に俺にとって”意味”がある事は……
その時、論功行賞を受けた場には
「
俺は隣に控える
「そ……それは……」
突然の問答に少年は更に
「へ、兵を率いて戦果を得るのが将で……そ、その将を適材適所に使いこなすのが……王の……し、仕事だと……」
だが、
――成る程ね、確かにそれは正論で教科書通りだ
俺は頷きながらも一歩前に出て、そして地面に落ちたままの宝刀を掴んだ。
「そうだな、だが……それは俺が聞いた”資質”とはちょっと質が違う」
「っ!?」
そして掴んだ宝刀をそのまま少年の前に差し出してから続けた。
「兵を良く率いるのも、将を良く束ねるのも、それは王の才覚であって、そう言うものは生まれ持った才能と積み重なった努力と経験の
「……なにを?」
自身に提示された宝剣と言葉に、
「国は人なり、人とは心の器なり……とどのつまり、人民一人一人を配慮する心無くして王は務まらない」
「だから何を言って……!」
「
「そ、そんな綺麗事っ!!能力の在り余る人間じゃから言えるがじゃ!努力してもしても結果が出ない雑魚にはそんな理屈は……」
「努力さえすれば結果が伴うとでも思っているのか?
「うっ!」
「努力は決して裏切らないと、都合の良いお伽話をお前は信じているのか?」
「く……じゃから……」
――信じてはいないだろう
「じゃから……世の中は才能が……不公平で……」
――その短いながらも
「き、
「才能は関係無い」
「なにを!……そん訳がある……」
「努力は過程だ、方法の一つに過ぎない。信じるに値しない」
「な、ならっ!!さいの……」
「才能もまた完成品の一部に過ぎない」
「だ、だったらなにがっ!なにが僕にっ!!」
――足りないと言うのか?
望むなにかを成すには……
望むなにかを成すには……
だが、圧倒的に足りないのは……
「いいか?
「っ!?」
「在るべき自身を探求する”自分”だっ!!」
「……う……うぅ」
「
「…………」
――と、少しばかり熱くなりすぎた……か?
すっかり言葉を失ってしまった
「まぁ……どっちにしろ、お前は
「ぼ、僕に資質……なんて……」
――はぁ……まだ解らないのか?このお子ちゃまは……
偉大な父への
十三歳の子供には色々と荷が重かろうが……
ここは戦国の世だ。
そういう甘えは一切通じない。
その境遇に同情する人間よりも、それこそ……
「……」
俺はグッと
――っ!?
「お前は俺に命を助けられたと引け目に感じているかもしれんが……それもまた、俺にお前を助けたいと思わせた”資質”……そう思わないか?」
「……あっ」
俺の言葉に少年の瞳の奥が揺れる。
「もう一度言う、
よほど予想外の言葉だったのだろうか……
「う……うぅ……」
後はただ、小刻みに肩を揺らせていた。
「…………」
そして、今の今まで成り行きを見守る様に少年の後ろで控えていた風格在る髭の将は、ウンウンと言うように頷いてから俺に深々と頭を下げるのだった。
――少年期の終わり……か
誰しも少年は夢を見、初めての理不尽に叩きのめされ、やがてそれに対峙する覚悟を得る。
「”
「う……う……す、鈴原……
未だ震えを消し去れないままにも、俺が握らせた宝剣をしっかりと受け取る少年。
――そうだ
「よ、よろしく……おねが……う……」
――俺は、こういうヤツが嫌いじゃ無い
「今更”様”は
俺はそれを渡してから笑い、少年の肩をポンと軽く叩いた。
「感謝ばかりしてる場合じゃ無いぞ、お前の言うところでは俺は
「う……それは……すみません」
涙と鼻水に塗れた……男の顔で言葉を詰まらせる
「はは、悪い悪い冗談だ……だが俺の教育方針はスパルタだからな、覚悟はしておけ」
「…………はい……しょ、精進致します」
少々照れた俺が茶化すのを
――”
”
つまり……少年の俺が日頃から
俺はこの少年に対しては、水下の魚がいずれ大空へと羽ばたく翼を得るだろうという期待の証として送ろう。
――”東南風吹かば、海魚変じて黄雀となる”
鈴原
――
だが確かなことは……
今日という日が
第三十二話「黄雀」後編END
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