第144話「脱出」
第三十一話「脱出」
「す、鈴原……何故ここにお前が!よりにもよってこんな死地に!俺とお前の両方が死んだらこの後の指揮は誰が……」
「
俺は血も滴る
「お、おい!聞いているの……くっ!!」
「
未だ納得がいかないと俺を睨む偽眼鏡男をなだめながら傷の様子を診る女は……
背に見えにくい黒糸で”刀身と桔梗の花”の刺繍が小さく入ったヒラヒラした布きれの、顔以外をスッポリ覆い隠した黒装束に身を包んでいた。
我が
「すみません、
俺の指示を受け一通り
「そうか……」
”
僅かな人数だからこそ守備よりも攻撃に重点をということで”
「ご期待に応えられず申し訳ありません、
手当てをしつつも落ち込む彼女に俺は首を横に振る。
「いや、そこは俺のミスだ。お前は別に……っ!?」
そして
「
獣の咆哮と共に振り下ろされる
「ちっ!」
俺は振り返り様、手にした
ギ!……ギャッ!ギャッ!ギャッ!ギャッ!
折れた刀……とても砕けた刃とは思えぬ重厚な一撃を愛刀の背で受け流し、
ギャリィィーーン!!
受けた箇所から刃先まで走る火花を一気に敵刃ごと薙ぎ払うっ!!
ヒュ――
――オォン!!
「ぐはぁっ!!」
そしてそのまま”返し
「この尋常為らざる”
「ぬ、ぬぅぅ……」
俺の切っ先を皮一枚で避けた巨獣は、首から血を滴らせながらもヨロヨロと退がる。
「く……鈴原……やれ!今この場で”巨獣”を……この
ワァァァァァァッ!!
オオオオッッ!!
俺達が乗り込んで来れたくらいだ。
既に敵の援軍も続々と到着して来た様だし、ここは……
「撤収する!その馬鹿を拾って速やかに撤収だ!」
――当然ながら俺は
「くっ……バカ……その男はここで倒さないと……く……」
――
俺は当然そんな世迷い言は無視して撤収に移ったのだった。
――
―
”わらわら”と駆けつけてくる
ワァァァァァァッ!!
オオオオッッ!!
当然相手も追撃に必死だ。
まんまと城に侵入されたうえに総大将を殺されそうになったというのだから、面子に賭けて俺達を抹殺に来るのも頷ける。
――お、見えた!正門だ!!
そんな中、
ヒュバ!
「ぎゃっ!」
ドスッ!!
「うわっ!」
正門に向け前を走る俺達を見事に避け、追い
混戦の最中にこんな精密射撃を軽々やってのける人物は勿論――
「ちょっとぉ、サイカくん。まぁだ”鬼ごっこ”してるのぉ?そろそろ休憩したいのだけどぉ?」
必死に走って走って辿り着いた城門。
何らかの爆発で半ば崩れた城壁の瓦礫上に立ち、
「くっ、だぁ・れぇ・がぁ!好き好んで鬼ごっこなんてやってるかよ!」
「…………ふっ」
ヒュバ!
「おおっ!?」
俺の頬を掠めて飛び去る矢。
「ぎゃっ!」
そしてそれは、後ろに迫っていた
「……」
――助かったが……なんか納得いかない
いかないが……
――ちっ……
「
そして、そこで数十人の手勢を率いて合流してきたのは確か……
”
「ま、まぁ、これで何とかこの場は切り抜けられそうだな」
「は、はい…………ま、真に申し訳ありません」
やや呆れ気味の俺の後ろで
それは同じ”
「ぎゃぁっ!」
「このっ!」
「うわぁあ!」
「…………」
――とはいえ
状況は好転している。
後は
――逃げ切った……な
「きゃっ!」
「うっ!」
隊列の
――!?
ジャラ……ジャララ……
金属の――
ズズズ……ズズーー
――連結された幾重の
「…………」
”その男”は、いつの間にか
「…………」
瞬間的に視線が絡む俺と鉄鎖の男。
「う、うぅ……油断しましたわ」
「くっ……申し訳ありませ……
次いで傷を負った黒装束の二人がヨロヨロと立ち上がる。
――彼女らの”傷”自体は大したことが無いようだが、それより……
その最精鋭たる”
「……逃がさん、侵入者共」
腰に幾重にも巻いた頑強な鉄鎖をジャラジャラと鳴らせて立つぶっきらぼうな男。
「す、鈴原……その男は
「はいはい、解説はいいからお荷物くんは黙って回収されてろ。見りゃ解るって、お前ん所の無愛想娘と同じ
俺は
「くっ……
大量失血で幽霊のような青い顔の男は力なく
「……
俺はそんな面倒見が良い偽眼鏡くんを見送りながらも、油断なく目前の男に視線を向けていた。
「
――そう、
「”独眼竜”……
そして、その要注意人物は、なにやら独り呟いたかと思うと、そのまま俺を睨んでからご自慢の鉄鎖を両手にして腰を落とす。
「……で?名も無き
「…………」
俺は相手の佇まいから敵の力量を再認識し、そして直ぐに最適解を出す。
「
――!?
「は、はい!
「しょ、承知致しましたわ!」
「
そして既にこの戦場へと照準を合わせていただろう、離れた正門に居る狙撃手に向け大声で促す。
「…………」
どうやらスッと弓を降ろして負傷兵脱出の援護に移行したようだ。
――ふぅ……
兎にも角にも、今は負傷兵達の脱出が最優先だ。
出来るだけ時間をかけずにこの場をクリアしなければならない。
「……さてと」
そして俺は
「見ての通り俺達はちょっとばかり急いでいる。あんま、つき合ってはやれないが……とりあえず名乗りは必要か?」
「…………成る程、理解はした。俺は
ブオッ!!
ジャラララララァァァァーー!!
鉄鎖をまるでベテラン漁師の投網と見紛うフォームで俺に投げつけたのだ!!
――っ!
ザシッ!ザシッ!ザシッ!!
途端に
あのゴツい鉄鎖が目に捉えられない程の速度で跳ね、大地を削って瞬く間に俺の周りをグルリと囲んで急速に範囲を狭めていた。
ジャラララララァァァァーー!!
ジャラララララァァァァーー!!
三百六十度、全方位から迫る鉄鎖の牢獄!!
――”
鉄鎖に巻き取られた骨肉は容易に削られ砕ける事が想像出来る。
「……」
ヒュッオッ!
ヒュヒュ……
「なにっ!?」
間抜けな声をあげたのは
俺は……
ジャラララララァァァァーー!!
「……」
ヒュヒュ……
四方八方から同時に襲い掛かる、”のたうつ”鉄鎖にまるで重なるように舞って、ゆらりゆらりと回避する。
「何故だっ!なぜ当たらんっ!!」
――何故?
ジャラララララァァァァーー!!
ヒュバ!
「気流を読み……」
ヒュオン!
「威力の濁流に
その姿は
そう――
三百六十度、蟻の這い出る隙も無い巨大蛇の締め上げも、大気を
威力で薙ぎ払う攻撃では、決して
「ぐっ!?」
――射程に勝る鉄鎖の攻撃も!
――死角無く締め上げられる
在るが侭に流れ、そして――
翻弄されるがままで在ったはずの俺の
「なっ!?」
いつの間にか敵の懐まで辿り着いていた!
――すぅ……
瞬間的に少量の空気を肺に流し込む俺。
「ふっ!」
ドシュ!
「ぐはぁぁっ!!」
――お生憎様、力尽くの攻撃は懐深く舞込む”風の刃”とは相性最悪だ!
「ぐっ!……が!……が……」
我が”
この至近でも十分に生死を
「…………」
次の瞬間、
「…………
――
――
――
敵が動体に帯同する風と同化し、その流気を用いた風刃にて敵を穿つ!
それは
「あっ!?……ええと、”
俺は約束していた”名乗り”をする機会を失っていた事を思い出し、今更ながら慌てて自己紹介をする。
「俺は鈴原
「…………」
既に事切れたっぽく横たわる血塗れの鉄鎖男に俺は続けるが……
「………………すず……はら……そ……うか……これが……王覇の……えいゆう……」
――ガクッ!
一瞬だけ蘇った鉄鎖男、
「お……おう」
そして――
最後に見せた、ぶっきらぼう戦士の意外な律儀さに少々面食らいながらも俺は、静かに手を合わせてからその場を去ったのだった。
第三十一話「脱出」END
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