第141話「銀焔の竜騎士Ⅱ」
第二十八話「銀焔の竜騎士Ⅱ」
――
ギィィィーーン!!
激しく火花が散り、握った剣は弾き飛ばされ、絶体絶命の中で俺は自身の中の少女に問う。
――
―
当時、
威厳や権力なんてモノとは縁遠く、政治的にも軍事的にも吹いて飛ぶほどの価値も無い。
そんな俺に何の因果か、王家に伝わる伝説の”竜眼”が……
伝説の勇者と同じ”
いや、なにを自惚れているのか?それは決して同列では無い!
片方だけの”竜眼”
そんな半端なモノは同種でさえ無い。
だがそれでも、脆弱な
たかが瞳一つで大げさな?
いいや、何しろ俺が生まれた時に”それ”を危惧した父親が、出産に立ち会った全ての使用人の命を奪い、そして赤子の俺の瞳を
「……」
とはいえ、結果から言えば俺の片目は無事だった。
母親の必死の懇願と、使用人を殺しまくった父がそのまま精神を病んで直ぐに一線を退いてしまったのが皮肉にも俺に吉とでたのだ。
なんにしても異質な
――だから俺は……
――疫病神の
この忌々しい片目を終生、不細工な眼帯で隠しきり、そして自身もひっそりと部屋隅の壁にこびりついたカビの如き一生を送るのがお似合いで、そうで無くてはならないと……
そんな自暴自棄な八才になったばかりの俺が初めて見る、噂の本家のお姫様は――
――おおっ!
――なんと可愛らしい!!
――う、美しい!!
生まれながらに衆人全ての視線と心を奪う気高き存在だった。
「…………」
想像通り、やっぱり手の届かない存在だ。
――
当時一族が会する行事でも、幼いながら
「…………」
そんな中、王家からは恥だと言われる
だから、居ない事と同じ存在なんだと、
現に今まで誰からもそんな風に扱われてきたから……
「…………」
その日も何もしないで、邪魔にならないようにだけして、息を潜めてやり過ごそうと考えていた。
「あなた、
そんな俺に、華やかな中心部から突然かけられた可愛らしい声。
――っ!?
俺は思わずビクリと肩を揺らす。
「
俺はすごく驚いた。
今まで俺に嘲笑以外の言葉をかける一族の者なんていなかったのに、よりによって一族の誇り、王家の至宝って言われている
「あ、あの……
あんまり予想外のことで俺は戸惑って固まるし、周りの者達はお姫様の相手にするような者じゃないって
「
――ってな……
ははは、現在の
――でも、それでも……
本来、
蝶よ花よと育てられ、わがまま放題に育っていた赤面の過去……
彼女はきっとそう思っているだろう。
――でも、でも俺にはその昔話がとても懐かしくて、
――大切な思い出だった
僅か八歳の頃の
近寄りがたい雰囲気はあったけど、既に皆の尊敬を集めていたし、人望もあった。
それからずっと……
――彼女は変わらず気高く綺麗だ
「私は
澄んだ濡れ羽色の波間に時折揺れるように顕現する黄金鏡の煌めき。
神々しいまでに神秘的で印象的な”黄昏”に染まる黄金の
――だから
「
その日以来、
だが俺に言わせれば、囚われているのは
生まれながらに気高き黄金の宿命を背負った美しき少女は、その重圧に耐え続けながらも決してそれを投げ出さない矜恃を持つ。
――だから俺は……
――
国家の未来を背負う彼女の小さい背中を、
土足で踏入り、力ずくでねじ伏せようとする全ての輩を!
俺はどうしても許せない!
故に
少年がそれを決断するほど、彼女の、
「そんなこと、そんなこと頼んでない!」
それでも俺が命を賭けるような無茶をした時、
「私があなたのことを切り捨てて平気だとでも!?」
そんな時はいつも、彼女が握る俺の手に痛いほど力が入る。
「わかってる。
反論する俺に彼女は……
「ふざけないで!あなた独りで何が出来るの!?どうにかするって?もし、もし出来たとしても、それで私が……あなたの犠牲で私が喜ぶとでも思っているの!?」
濡れ羽色の瞳に涙を溢れさせて彼女は叫ぶんだ。
――それは彼女の心からの叫び
俺が行ってきた独りよがりの行動を、逆に俺の為に耐えてきた彼女の堪えきれない心の訴えであったのだろう。
「俺は生まれてから存在を無視された人間だったんだ。それを、その存在を初めて自覚できた。させてくれた!
そして俺はいつもそういう勝手な物言いで心優しい彼女を困らせる。
勝手に感謝して、勝手に憧れて、勝手に恋をして、勝手に……
――俺は……本当に自分勝手だ
自覚はしている。
だが俺は
それでも、俺の意義を見つけさせてくれた
「あなたは私の為に”銀の勇者”になるつもりなの?」
そんな在る時、彼女が言った言葉が今も忘れられない。
今の今まで、俺自身も意識していなかった事実を、俺は彼女の言葉で再認識したのかも知れない。
――”銀の勇者”
望まず”
それを否定し続けていた
関わった人達も、両親も、自身の人生さえも蝕んで焼き尽くした忌み成る”銀の
それに
――俺は……
――俺は”銀の勇者”になりたい
彼女のためになら、
その矛盾を破壊して!
いつの頃からか、そう確信した俺の顔をじっと見つめる
――
「それは、やっぱり、わたし……のため?」
心象の
「そうだ。
そしてその彼女に向ける俺の顔には一点の曇りも無いだろう。
「死ぬのは……駄目だよ」
本心では止めたいが、それは同時に俺の大切な物を無くしてしまうような事になると感じとって……
心象でも優しい彼女は、なんとかその言葉だけが口から出たようだった。
「…………」
――わかってる
俺だって死にたいわけじゃ
ただ俺程度の人間には、せめてその位の覚悟がなけりゃ無理だろう。
「……」
「……」
「そういえば、思い出したけど出会った頃の
心中でさえも気恥ずかしくなった俺は、そう言って話題を変えて誤魔化そうとする。
「ちょっ、ちょっとその話は!」
そして心象の彼女は、当時を思い出したのか少し顔を赤らめて話を遮ろうとした。
「……は……はは」
そんな彼女を見て、つい俺は口元が
「
恨めしそうに俺を見上げる
全てを備えて生まれながら、それでも至高を目指し精進を怠らない理想の君主。
「……」
俺は本当に久しぶりに、そんな子供じみた優越感に浸っていた。
――
そして、少しだけそういう仕草に時間を費やしていた彼女はスッと顔をあげる。
彼女は俺の手を掴むと、逆側の手を自身の胸に添えていた。
「……」
「……」
大切な想いを温めるように……胸の奥にジワリと広がる何かを逃さないように。
それは未だ身勝手な俺に対する抗議の色を含んだ美しい濡れ羽色の瞳。
けれど彼女の
それでも彼女の勇者たらんと欲する俺に、胸をときめかせる少女の頃の我が儘な想いを抑えきれない……
そんな矛盾を孕んだ真実の
「ははは」
「ふ……ふふ」
――そうして、心象の
いつしか泣きながら笑っていた。
――
―
ドサァァッ!!
「どうした独眼竜?
目前に仁王立ちして刀を構えるのは
――
「……」
俺は自らの刀も失い、尻餅をついてその”巨雄”を見上げていた。
「
「…………」
”巨雄”の言う、武の精進が足りない
「悪いけど
第二十八話「
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