第140話「牙城」前編
第二十七話「牙城」前編
ワァァァァァァッ!!
ワァァァァァァッ!!
平地に
「
十名ほどの敵兵士に引かれ現れたのは、巨大な車輪の荷台に設置された
ゴロゴロゴロ……
二台、三台、四台と……
それらはそれぞれの位置に配置され、その各々が先程のレーザー兵器で穿たれた城壁の亀裂部分に向けて突進の照準を合わせる。
オオオオッッ!!
オオオオッッ!!
城攻め隊隊長の号令と共に屈強な兵士達が木製兵器を引き回し、その勢いのままに――
ドドーーン!!
ドドーーン!!
穿たれた城壁穴に何度も何度も衝突させるっ!!
ドドォォーーン!!
ズズゥゥーーン!!
強大な城壁に兵器が激突する度にビリビリと大気は震え、崩れた石壁と塵が濛々と大量に舞って辺りを覆った。
「垂直に数十メートルは下がった
ドシャ……ガララ……
自らが身を置く城壁表面が崩れるのを眺めつつ、配備された守備兵達が必至に対処する中で、場違いにも中年男は平然と独り語る。
「以上の理由から敵の
中年男の正体は、
「うう」
「なんであの
忙しなく城壁嬢から敵攻城部隊に弓矢と投石を試みる部下達の奇異なる視線を一身に浴びる
ザッ!ザザッ!
二人の精悍な顔つきの男達が揃って膝を着いた。
「
二人の男のうち一人がそう問いかける。
”
そういう弱点を熟知した上での攻勢への進言である。
「ふむ……まぁそう焦るな、
「はっ!では長射程による攻撃を続行させます」
「既に出撃された
その背を見送る
「ふむ……」
「
平原に構えた正統・
数的にも十分に作戦を全うできるはずである。
そして
「
「うむ」
「起死回生を狙っての”一か八か”の博打であるなら、私は”独眼竜”を少々買いかぶっていたのやもしれません」
先程から
六年前の
「はは、そういえば
「それこそ七年は前の話です。
もともとある程度の出自があり僅か十三歳で将校になった相手と、平民出で雑草育ちの自分達を比べてそう答える
「あの
うんうんと頷きながら
そう、あの時の……
――燃える瞳の奥に得体の知れない煌めき!
海千山千の策士だと自負する自分が、年端もいかぬ相手を”空恐ろしい”と萎縮した過去。
「…………」
――ああいうモノは……経験上”
彼の瞳の中に潜んだ炎とも言うべき頑強なる意志の光。
今さらそれがやけに鮮やかな記憶として甦る。
「……その実は?」
言葉をぶつ切ったまま黙ってしまっていた
「う、うむ……つまり、その実は……」
そう、
「根底では我が
――
いっそ、そう認めてしまった方が楽ではあると……
稀代の策士、
「そう……でしょうか?」
だがそれを聞いた
「真っ直ぐな
「…………」
主人の言葉を聞く男は、理屈で理解したわけでは無いだろうが……
この
仕えて高々数年程の
そしてそれは、先にこの場を去った同僚、
「
「確かに東門から本丸は一番近いですが……
理屈は解る、解るが……
「ならばこそ我らにも慢心が、隙が出来るやもしれんと……それに何より
「……
「なにぶん
「捨て身……ならばやはり私は”独眼竜”
暫しの問答の行き着く先、
そんな頭脳派である男が、我が身を犠牲にして”のるかそるか”の
見た目とは大いにギャップがあるが、目前の
結局はそこに落ち着く
「聞きたまえ
「…………」
僅かな異変に
「若さ故のハッタリか?
「
自身の言葉に当てられているのだろうか?
珍しく語気の荒くなる中年参謀。
「…………」
見たことが無い類いの
「いや、なに……つまり言いたいことはシンプルだ
柄にも無い雰囲気を醸し出してしまっていたことに気づいただろう
「ん?……んん?」
いや、違和感と言うには殆ど感じられないほどの変化だがそれは……
「
確かに稀代の軍師たる
――
―
同時刻、所変わって
「突撃っ!!」
オオオオッッ!!
オオオオッッ!!
「な?な?なんだぁ!?こんな所に突撃!?敵は目の前の穴が見えないのか!!」
オオオオッッ!!
オオオオッッ!!
完全に意表を突かれた
「落ち着け!敵は僅か数十ほどだ!それに城壁前にはあの大穴があるんだぞ!」
オオオオッッ!!
オオオオッッ!!
突撃してくる敵部隊はその手に長い板状の物体を数人がかりで抱えて迫り来る!!
「馬鹿め、あのような板きれで穴に橋を築くつもりかぁ?」
「城壁は先の戦いで破損してはいるが、その程度の兵でなんとするのだ!」
敵の正体が知れた途端、すっかり落ち着きを取り戻した
オオオオッッ!!
オオオオッッ!!
平地を走る数十人程度の敵兵士隊。
「馬鹿め、所詮は弱小国の寄せ集め部隊、劣勢続きでヤケになったか!」
オオオオッッ!!
オオオオッッ!!
「ちょうど良い!退屈凌ぎに射的の練習といくか!」
手ぐすねを引いて待ち構える
「おいおい、全部は射倒すなよ、俺達にも嬲りがいのあるのを残しておいてくれ」
前回の惨状ですっかり攻撃対象から外れ、暇を持て余していた
直ぐにその場に槍や剣を構えた守備兵達も城壁前に集まり、季節は冬だが、文字通りその”飛んで火に入る夏の虫達”を今か今かと待ち構えていた。
オオオオッッ!!
オオオオッッ!!
もう数メートルで弓の射程だ。
それを抜けて辿り着けたとしても、たかが数十人、
正門前には大穴と、破損があるとはいえ高い城壁が敵の侵入を阻む。
そして”俺が俺が”と集まって待ち受ける
「一斉射撃用意!…………良し!
――!?
それは……
無謀な一団に紛れていた男の掲げた右手から放たれた一瞬の閃光。
「な、なんだっ!?」
城壁前の
「
「あの銀色の
――正解
正確には彼が両手に装備した変わった白銀の
その右腕の手の甲部分から出た突起部分に埋め込まれたレンズがキラリと一瞬だけストロボの様に光ったのだ。
――――――――――――――チッ
「なんなんだよ?」
「さぁ?」
チッ――チッ――チッ――チッ――
兵士達が密集した正門前下の穴底より数多の光が連続して散った!!
「わ、わわっ!!なに?」
「なんだぁぁ!?」
――それは奈落の底から放たれた……
ドッ!!ズドドォォォォォォーーーーーーンッ!!
「わぁぁぁっ!?」
――地獄の業火っ!!
「ぎゃぁぁ!」
続けざまな激しい閃光が視界を奪い!
息をつく間もなく襲う熱風と爆風が諸人の肺を焼く!
ドドドォォォォーーーーン!!
吹き飛ぶ城壁の一部と兵士達!!
ドドドォォーーン!チュドドドォォーーン!
連続して爆発が誘発され、その場は一瞬にしてこの城のどの戦場よりも過酷な地獄と化した!
「ぅ……」
そして”
「……」
この”正門前”が、魔王の居城へと繋がる穴であったことを。
―ザッ!
誰一人生存者のいない爆心地に辿り着いた男は、
「かなり勿体ないがこれも必要経費か……」
両手に異質な金属製
「おっと、それより……総員!!今のうちに橋を架けるんだっ!」
そして、巨大な爆発で破壊された
バンッ!
ババンッ!
あっという間に、爆発の跡が生々しく無人の野と化した正門前に開いていた穴に、板きれの橋が渡される。
――結局、爆発の正体は……
白銀に輝く
つまり、先日の戦で落とされたままの
「上手い具合に密集してたから首尾良く”熱暴走”してくれて良かったけど……必要に迫られた措置とはいえ”
そして、機械兵の残骸が折り重なる穴を覗いて未練がましく愚痴っている男は――
「
部下から馬の手綱を受け取り、
「ああ、そっちもこの場所で援護の方よろしく頼む!」
そのまま”ババッ”と跳んで跨がる。
風変わりな金属製
「さぁてと……正直キツイが、ここからが本当の修羅場だってかぁ?」
第二十七話「牙城」前編 END
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