第140話「牙城」前編

 第二十七話「牙城」前編


 ワァァァァァァッ!!

 ワァァァァァァッ!!


 那古葉なごは城決戦、十一日目――


 平地にそびえ建つ那古葉なごは城東側は他の三方と違って城壁から百メートルも無い程の距離に巨大な落差が存在する。


 「真仲まなか様!!敵攻城部隊、来ますっ!!」


 十名ほどの敵兵士に引かれ現れたのは、巨大な車輪の荷台に設置された鐘撞かねつき堂の撞木しゅもくを連想させる頑強な丸太が釣られた攻城兵器……破城槌はじょうついだ。


 ゴロゴロゴロ……


 二台、三台、四台と……


 それらはそれぞれの位置に配置され、その各々が先程のレーザー兵器で穿たれた城壁の亀裂部分に向けて突進の照準を合わせる。


 オオオオッッ!!

 オオオオッッ!!


 城攻め隊隊長の号令と共に屈強な兵士達が木製兵器を引き回し、その勢いのままに――


 ドドーーン!!


 ドドーーン!!


 穿たれた城壁穴に何度も何度も衝突させるっ!!


 ドドォォーーン!!


 ズズゥゥーーン!!


 強大な城壁に兵器が激突する度にビリビリと大気は震え、崩れた石壁と塵が濛々と大量に舞って辺りを覆った。


 「垂直に数十メートルは下がった陥没地面クレーターにより、攻め手側が城壁前に展開できる兵力は限られる地形。それは後退できぬ絶壁を背にして、待ち受ける城壁上の我が旺帝おうてい守備軍と対峙しなければならないという極めて不利な状況で戦う事を意味する」


 ドシャ……ガララ……


 自らが身を置く城壁表面が崩れるのを眺めつつ、配備された守備兵達が必至に対処する中で、場違いにも中年男は平然と独り語る。


 「以上の理由から敵の那古葉なごは城攻略軍は極自然と那古葉なごはの東側から攻めるという選択肢は排除されるものなのだが……ううん、やはり東側城壁ここを攻めてきたか、穂邑ほむら君は」


 中年男の正体は、那古葉なごは城守備軍筆頭参謀の真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうである。


 「うう」


 「なんであのひとはあんな落ち着いんてんだよぉ」


 忙しなく城壁嬢から敵攻城部隊に弓矢と投石を試みる部下達の奇異なる視線を一身に浴びる真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうの背後に、


 ザッ!ザザッ!


 二人の精悍な顔つきの男達が揃って膝を着いた。


 「真仲まなか様、定石通り兵を出して穂邑ほむら軍を絶壁に追い落としますか?」


 二人の男のうち一人がそう問いかける。


 ”穂邑ほむら はがね機械化兵オートマトンは主力兵装である”高出力誘導放出式光増幅放射兵器ハイパワー・レーザーウェポン”を放った後は機体冷却のため暫く稼働停止する”


 そういう弱点を熟知した上での攻勢への進言である。


 「ふむ……まぁそう焦るな、由里ゆり君。の”機械化兵団シュタル・オルデン”が兵数は五千。中心たる機械化兵オートマトンが無くとも重装歩兵部隊は中々精強であるし、ここは被害を最小にとどめるためにも有利なこの城壁から敵を削るとしよう」


 真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうは男の進言を却下し、直ぐに代案を出す。


 「はっ!では長射程による攻撃を続行させます」


 由里ゆりと呼ばれた男は自身の進言の採否など気にも留めない表情で、腰に幾重にも巻いた頑強な鉄鎖をジャラジャラと鳴らせながらその場から本来の持ち場である前線に去って行った。


 「既に出撃された波羅はら 朝胤あさたね将軍かほり 道次みちつぐ将軍の敵攻撃部隊の一部をこの東門に回して頂く必要があるでしょうか?」


 その背を見送る真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうに、膝を着き控えていたもう一人の男が聞いてくる。


 「ふむ……」


 旺帝おうていの将軍、波羅はら 朝胤あさたねほり 道次みちつぐは評定での作戦通り出撃し、城正面に陣取る敵本陣攻撃に専念するという手筈になっていた。


 「彼方あちら彼方あちらで敵に不穏な動きをさせないためにも完全に封じておく必要がある、お二方にはそのまま奮戦頂こう」


 真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうは一瞬だけ思考したが、直ぐにそう決断を下した。


 平原に構えた正統・旺帝おうてい臨海りんかい連合軍の本陣部隊は三万半ば、それを攻撃する旺帝おうてい二将の兵数は合わせて4万六千。


 数的にも十分に作戦を全うできるはずである。


 そして真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうが直々にこの東門を守備するのは、この戦の本当の”かなめ”は大軍でぶつかり合う城外では無く、敵総大将である穂邑ほむら はがねが一気に形勢逆転を狙って一点突破を図ろうとしているだろうこの東門を如何に防衛するかに尽きると彼は考えていたからだ。


 「あるじ何故なにゆえ穂邑ほむら はがねが攻めるに困難な東側城壁に押し寄せると予測し得たのでしょうか?私にはそれは無謀の極みかと思われますが……」


 「うむ」


 真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうは部下の疑問を頷きながら聞く。


 「起死回生を狙っての”一か八か”の博打であるなら、私は”独眼竜”を少々買いかぶっていたのやもしれません」


 先程から真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうと会話している男の名は海野うんの 八郎はちろう


 六年前の経緯いきさつから旺帝おうてい内で冷遇されてきた真仲まなか家に自ら好んで仕える事を決めた変わり者の傑士であり、現在いまとなっては幸之丞ゆきのじょうの右腕的存在になっている。


 「はは、そういえば海野うんの君達はかつ穂邑ほむら君とくつわを並べて戦った事があるのだったな?」


 「それこそ七年は前の話です。旺帝おうてい周辺小勢力との小競り合いで数度、戦場を同じくした事があっただけで、その時既に数々の武勲で将校たる身分であった彼方あちらは、一介の下士官であった私や鎖馬介さまのすけなど特に認識しては無いでしょう」


 もともとある程度の出自があり僅か十三歳で将校になった相手と、平民出で雑草育ちの自分達を比べてそう答える海野うんの 八郎はちろうだが、そこに他意は無い。


 真仲 幸之丞の部下達かれら……


 海野うんの 八郎はちろうと彼の言う鎖馬介さまのすけ……先程、先に持ち場へと移動した由里ゆり 鎖馬介さまのすけの二人は、彼らから見れば恵まれた家系で更に十は年下の相手にでも、それに見合った実力があるのならその事実を素直に受け入れる度量がある男達であった。


 「あの穂邑ほむら はがねという青年は、君達もそうだが猛者もさ揃いの旺帝おうてい軍では数少ないタイプの将だ。如何いかにもな武将然とはしていない変わり種である……が、その実は…………」


 うんうんと頷きながら海野うんの 八郎はちろうに語る幸之丞ゆきのじょうは、かつて同陣営で戦った穂邑ほむら はがねを思い出す。


 そう、あの時の……


 ――燃える瞳の奥に得体の知れない煌めき!


 海千山千の策士だと自負する自分が、年端もいかぬ相手を”空恐ろしい”と萎縮した過去。


 「…………」


 ――ああいうモノは……経験上”はなはだしく”厄介な代物である事が多いが……


 彼の瞳の中に潜んだ炎とも言うべき頑強なる意志の光。


 今さらそれがやけに鮮やかな記憶として甦る。


 「……その実は?」


 言葉をぶつ切ったまま黙ってしまっていた幸之丞ゆきのじょうに、海野うんの 八郎はちろうが遠慮がちに聞き直す。


 「う、うむ……つまり、その実は……」


 そう、穂邑ほむら はがねという男は――


 「根底では我が旺帝おうてい軍のどの猛将よりも熱く!そしてどんな老練の宿将よりも粘り強い難敵だろう」


 ――穂邑ほむら はがねという男、敵にしてしまうと真に脅威そのものである!


 いっそ、そう認めてしまった方が楽ではあると……


 稀代の策士、真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうわざと自身に向け軽く笑ってから部下にそう答えた。


 「そう……でしょうか?」


 だがそれを聞いた海野うんの 八郎はちろうの顔は微妙だった。


 幸之丞ゆきのじょうはそんな部下の反応に再び”はははっ”と声を上げて笑う。


 「真っ直ぐな海野うんの君には解りにくい男かもしれないな。だが”アレ”は中々に正体を見せない喰わせ者の強敵に間違い無い」


 「…………」


 主人の言葉を聞く男は、理屈で理解したわけでは無いだろうが……


 このあるじがそう言うならば、”きっとそうなのだろう”という顔で頷いた。


 仕えて高々数年程の海野うんの 八郎はちろうだが、それでも真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうという男の言動は物事の正鵠せいこくを誤らないという実例を実戦にて何度も経験してきた。


 そしてそれは、先にこの場を去った同僚、由里ゆり 鎖馬介さまのすけの態度を振り返ってみても同じであった。


 「そもそも我が攻めに対する彼の解は極めて正しい。この状況で勝利の可能性を後人に託すには、この段階で我らが総大将たる甘城あまぎ様を討ち取るくらいの事をしておく他に無いだろう。そしてその為には彼ご自慢の機械人形を総動員してでもこの東門に隙を作り、自らを捨て石にしてでも、一気に本丸の大将首を狙う!」


 真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうは敵総大将の立場になって、部下に敵の意図を説明する。


 「確かに東門から本丸は一番近いですが……旺帝おうてい出身の者ならばこの東門が立地的に強固である事も周知の事実です、そんな無理矢理な策が通ると考えるでしょうか?」


 理屈は解る、解るが……海野うんの 八郎はちろうにはどうしてもその”策とも言えぬ強引さ”が、未だ頭の中に在る”冷静な将であった穂邑ほむら はがね”というイメージと一致せず、疑問であった。


 「ならばこそ我らにも慢心が、隙が出来るやもしれんと……それに何より穂邑ほむら君の生み出した恐るべき超兵装はその不可能を可能にするだけの底力があると計算しての無理筋やもしれぬ」


 「……にわかには信じ難い話ですが」


 「なにぶんはなから向こうは”捨て身”だ。死兵となった敵がどれだけ恐ろしいかは海野うんの君も知っているだろう?」


 「捨て身……ならばやはり私は”独眼竜”穂邑ほむら はがねの評価を見誤っていたと言うべきです」


 暫しの問答の行き着く先、


 穂邑ほむら はがねはその頭脳と冷静な判断で最高峰の二十四将に最年少で上り詰めた。


 そんな頭脳派である男が、我が身を犠牲にして”のるかそるか”の大博打おおばくちを打つのか?


 見た目とは大いにギャップがあるが、目前のあるじは手練手管を駆使する海千山千の名将くせものだ。到底そんな馬鹿げた博打で倒せる人物では無い。


 真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうという稀代の策士をよく知る部下は、そんな愚策はこのあるじの前ではなんの意味も成さないことを確信している。


 結局はそこに落ち着く海野うんの 八郎はちろうの思考を、幸之丞ゆきのじょう三度みたび”ははは”と笑い飛ばす。


 「聞きたまえ海野うんの君、穂邑ほむら はがね生き方アイデンティティとやらは……”知恵と努力と血と汗と涙を尽くしてなお届かない場所であったのなら更に必至に手を伸ばすだけ”だそうだぞ」


 「…………」


 僅かな異変に海野うんの 八郎はちろうあるじの顔を見上げる。


 「若さ故のハッタリか?いいや違う、ならばこそ五年前の敗戦で彼は雅彌みやび姫様を救い得たのだ。この真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうが打つ手無しと諦めたあの絶望的状況でさえ……あの……あの穂邑ほむら はがねという男は最悪を回避し一縷いちるの希望を後世に無理矢理ねじ込んだっ!!」


 「真仲まなか……さま?」


 自身の言葉に当てられているのだろうか?


 珍しく語気の荒くなる中年参謀。


 「…………」


 見たことが無い類いのあるじの顔に、全幅の信頼を寄せているはずの部下は違和感を感じて思わず息を呑む。


 「いや、なに……つまり言いたいことはシンプルだ海野うんの君。君はなにも見誤ってはいないと、あの男は十分に強敵だってこと…………ん?」


 柄にも無い雰囲気を醸し出してしまっていたことに気づいただろう旺帝おうてい軍筆頭参謀は、若干ばつが悪そうに本来の”柄である”つかみ所の無いキャラに戻って誤魔化そうとするが、その時、彼の目には戦場に対する違和感が……


 「ん?……んん?」


 いや、違和感と言うには殆ど感じられないほどの変化だがそれは……


 「海野うんの君、あれ……あの機械化兵オートマトン達……さっきからちょっと動きがおかしくないだろうか?」


 確かに稀代の軍師たる真仲まなか 幸之丞ゆきのじょうの慧眼はそれを認めていたのだった。



 ――

 ―


 同時刻、所変わって那古葉なごは城正門――


 「突撃っ!!」


 オオオオッッ!!

 オオオオッッ!!


 何処どこに潜んでいたのか、数十人ほどの兵士が一斉に城門へと襲い掛かった!


 「な?な?なんだぁ!?こんな所に突撃!?敵は目の前の穴が見えないのか!!」


 オオオオッッ!!

 オオオオッッ!!


 完全に意表を突かれた旺帝おうてい正門守備部隊は泡を食うが、それでも直ぐに反撃に出る。


 「落ち着け!敵は僅か数十ほどだ!それに城壁前にはあの大穴があるんだぞ!」


 オオオオッッ!!

 オオオオッッ!!


 突撃してくる敵部隊はその手に長い板状の物体を数人がかりで抱えて迫り来る!!


 「馬鹿め、あのような板きれで穴に橋を築くつもりかぁ?」


 「城壁は先の戦いで破損してはいるが、その程度の兵でなんとするのだ!」


 敵の正体が知れた途端、すっかり落ち着きを取り戻した旺帝おうてい守備部隊は辛うじて健在な城壁とその前に穿たれた大穴を利用する形で壁上と下から長距離用の弓を構えて迎え撃つ準備に入る。


 オオオオッッ!!

 オオオオッッ!!


 平地を走る数十人程度の敵兵士隊。


 「馬鹿め、所詮は弱小国の寄せ集め部隊、劣勢続きでヤケになったか!」


 オオオオッッ!!

 オオオオッッ!!


 「ちょうど良い!退屈凌ぎに射的の練習といくか!」


 手ぐすねを引いて待ち構える旺帝おうてい弓兵部隊にとってこれは絶好の”的”だ。


 「おいおい、全部は射倒すなよ、俺達にも嬲りがいのあるのを残しておいてくれ」


 前回の惨状ですっかり攻撃対象から外れ、暇を持て余していた旺帝おうてい兵士達。


 直ぐにその場に槍や剣を構えた守備兵達も城壁前に集まり、季節は冬だが、文字通りその”飛んで火に入る夏の虫達”を今か今かと待ち構えていた。


 オオオオッッ!!

 オオオオッッ!!


 もう数メートルで弓の射程だ。


 それを抜けて辿り着けたとしても、たかが数十人、


 正門前には大穴と、破損があるとはいえ高い城壁が敵の侵入を阻む。


 そして”俺が俺が”と集まって待ち受けるる気満々の旺帝おうてい守備兵という難関。


 「一斉射撃用意!…………良し!……!?」


 旺帝おうてい軍弓部隊がやじりを一斉に向けた瞬間、無防備にツッコんでくるだけの一団からキラリと何かの光が見えた!


 ――!?


 それは……


 無謀な一団に紛れていた男の掲げた右手から放たれた一瞬の閃光。


 「な、なんだっ!?」


 城壁前の旺帝おうてい軍からは遠くて殆ど確認は出来なかったが、男の袖口から何やら金属製の手甲の様なモノが……


 「籠手こて?」


 「あの銀色の籠手こてみたいなのが光ったのか?」


 ――正解


 正確には彼が両手に装備した変わった白銀の籠手こて


 その右腕の手の甲部分から出た突起部分に埋め込まれたレンズがキラリと一瞬だけストロボの様に光ったのだ。


 ――――――――――――――チッ


 「なんなんだよ?」


 「さぁ?」


 旺帝おうてい守備兵士達がその光の意味を理解する間もなく……


 チッ――チッ――チッ――チッ――


 兵士達が密集した正門前下の穴底より数多の光が連続して散った!!


 「わ、わわっ!!なに?」


 「なんだぁぁ!?」


 ――それは奈落の底から放たれた……


 ドッ!!ズドドォォォォォォーーーーーーンッ!!


 「わぁぁぁっ!?」


 ――地獄の業火っ!!


 「ぎゃぁぁ!」


 続けざまな激しい閃光が視界を奪い!

 息をつく間もなく襲う熱風と爆風が諸人の肺を焼く!


 ドドドォォォォーーーーン!!


 吹き飛ぶ城壁の一部と兵士達!!


 ドドドォォーーン!チュドドドォォーーン!


 連続して爆発が誘発され、その場は一瞬にしてこの城のどの戦場よりも過酷な地獄と化した!


 「ぅ……」


 そして”正門そこ”に残されたのは、無数に転がる焼け焦げた兵士達の成れの果てだった。


 「……」


 旺帝兵士達かれらはすっかり忘れていたのだ。


 この”正門前”が、魔王の居城へと繋がる穴であったことを。



 ―ザッ!


 誰一人生存者のいない爆心地に辿り着いた男は、


 「かなり勿体ないがこれも必要経費か……」


 両手に異質な金属製籠手こてを光らせ、実に不服そうに零した。


 「おっと、それより……総員!!今のうちに橋を架けるんだっ!」


 そして、巨大な爆発で破壊された那古葉なごは城正門跡にて、引き連れた一団に指示を出す!


 バンッ!


 ババンッ!


 あっという間に、爆発の跡が生々しく無人の野と化した正門前に開いていた穴に、板きれの橋が渡される。


 ――結局、爆発の正体は……


 白銀に輝く籠手こてを両腕に装備したこの男が立つ、足元に空いた穴……


 つまり、先日の戦で落とされたままの機械化兵オートマトン達に、光信号の類いを使って遠隔爆破したのだろう。


 「上手い具合に密集してたから首尾良く”熱暴走”してくれて良かったけど……必要に迫られた措置とはいえ”恵千えち”の国家予算が傾く出費だよ。帰ったらまた彦左ひこざさんにブチブチと嫌味を言われるなぁ……」


 そして、機械兵の残骸が折り重なる穴を覗いて未練がましく愚痴っている男は――


 「穂邑ほむら様、ご武運を……」


 部下から馬の手綱を受け取り、


 「ああ、そっちもこの場所で援護の方よろしく頼む!」


 そのまま”ババッ”と跳んで跨がる。


 風変わりな金属製籠手こてを両の上腕部に装備した、伊達眼鏡の奥の右目が鈍く光る義眼の穂邑ほむら はがねは指示を出すと、ユラリと立ち上がる炎を宿した左目で、そびえ立つ鉄壁城を睨んで口の端を歪めながら上げた。


 「さぁてと……正直キツイが、ここからが本当の修羅場だってかぁ?」


 第二十七話「牙城」前編 END

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る