第139話「銀焔の竜騎士Ⅰ」
第二十六話「銀焔の竜騎士Ⅰ」
――事の発端となるのは現在からほぼ六年前になる、当時はまだ
「
「そうだ
対面に座る、
「
「
この報を以てして敵方の使者が提示したのは”停戦交渉”であった。
――これ以上同じ
――今降伏すれば、兵士達は一切の罪に問わず、指揮官の命は助けよう
敵の頭目である
命は助けるが、地位ある者達はその全ての権力を剥奪する。
これは”限りなく停戦に近い敗戦”を意味していた。
「……………………そう……か」
長い沈黙の後、
「…………坊主よ、
そしてそのまま、隣に座っている若い男の方を見て問う。
年月を刻んだ顔に
「……」
どっかり胡座をかいた二人の老将とは違って、きちんと正座した姿勢のまま一度スッと頭を下げる。
「
「ぬ……」
「うむ……」
二人の老将に感謝の言葉を述べたのは、右目に眼帯をした男……
というか少年の面影が残る青年だった。
「ということは坊主よ、お主はあくまで抗うということか?」
「それは有り得んぞ。残った城はこの
二人の老将の反応を確認した後、青年はゆっくりと口を開く。
「諦めていないと言う意味では
応えた青年は右目を眼帯で覆っている。
そしてその表情は意外なほどスッキリして、露出した澄んだ左目には”決して折れないであろう芯の通った光”が灯っていたのだ。
――この期に及んで”なにか”に命を賭ける!
それは、そういう面構えであった。
「今回の内乱で敵方である
孫ほど年の離れた同僚である青年の決意に、
「まぁそう急くな
続いて
「
それを
「
今から思えば、そういう”あからさま”な小細工の数々こそ、この王位簒奪を計算に入れた下準備だったのであろう。
「ぬぅぅ……確かに」
そこまで聞いて
「坊主は
そしていつの間にか、負けが確定したであろう空気の中であるにも拘わらず、半ば冷やかす様に老将二人は青年を見てニヤニヤと笑っていた。
「俺は……みや……
だがその青年は……老人達の好奇の目を受け流してサラリとそう言う。
「お?お?」
「よ、良いのか?おい……ほむ……」
意外な応えに呆気にとられる老将二人に青年は続ける。
「彼女が望んでいるなら……ですが」
――っ!?
確信犯的な青年の笑みに、老練なはずの二人は一本取られて思わず顔を見合わせていた。
そう、眼帯をしたこの青年……
普段は比較的温和で気さくな性格の青年は、こと
そういう事実を老将達はつい忘れていたための不覚……
と、そんな二人の老将の間抜け顔を確認して、青年は再びスッと頭を下げて場を仕切り直す。
「この戦はもう終わりです。どうぞ
ここまで共に戦ってくれた
「ぬぅ……す、すまぬな、坊主」
恨み事も、責める心も全く無い態度に、
そしてそれは、
「
それを受けて、
「は!真に申し上げにくい事ですが……最早打つ手は何も無いかと」
老将二人と青年一人、三人の将が集った司令室にて――
その空間の隅に控えていた中年の男は深々と頭を下げて答える。
「ふん……
不機嫌に吐き捨てる
それでも老将はガックリと肩を落として下を向いた。
「…………だが
そして床を見詰めたまま、そう呟いたのだ。
この場にて、
「…………」
その間中、青年は只黙ってそれらを静観していた。
「…………で、肝心の坊主はどうするのだ?」
暫しの沈黙を破る
「戦は終わった。では?」
「…………」
部屋の隅の
そして――
二人の老将と一人の参謀が見守る中、青年は堂々とこう応えたのだ。
「”限りなく停戦に近い敗戦”を、限りなく”敗戦に近い停戦”に変えてみようと思います」
――!?
その解答に三人の質問者は目を見開く。
例えるならそれは――
”既に完結した物語を無理矢理な解釈を加えて結末を変えるが如き横暴”
「ぼう……
流石に
「”停戦交渉”というなら、文字通り交渉の余地があるでしょう?」
眼帯をした青年は何食わぬ顔でそう応える。
「いや、それは……」
敵総大将、
「幾つか……悪あがきの種が我が手中に在ります」
眼帯の青年、
「無謀だっ!
「やはり降伏しろ坊主、本当に命まで無くすことになるぞっ!」
二人の老将はあまりにも若い才能を惜しむがあまり、同時に声を荒げるが……
「”無理を通せば道理が引っ込む”、そういう言葉もあるでしょう」
「”道理に向かう刃無し”とも申しますが?」
そこに遠慮がちながらも部屋の隅から割り込む声があった。
「…………」
「…………」
声の主へと視線を向ける眼帯の青年と、それをしっかり受け止める部屋隅の中年。
二人は暫し、お互いの腹を探るように視線を交わらせていたが――
――パラリ
それは彼の右目を覆っていた眼帯の紐であった。
そして――
「ほ、
「坊主、貴様……」
否応なく注目させられていた二人の老将が思わず乗り出して絶句する。
「これは……まさか”竜眼”!?」
先程まで睨み合っていた
「さっきも言いましたが、幾つか悪あがきの種は在るんですよ……
それはまるで”銀色の
”
「お、
「う……む……だが王家の歴史でも、その”竜眼”を宿す御方の記述が残るのは六代前の
”
「そんな大した代物じゃないですよ”コレ”は。片眼だけだし、みや……
「……」
「……」
「ええ……コホン、その……その”竜眼”を
そんな中、辛うじて
「コレだけじゃないけど、まぁそんな感じです」
眼帯改め、片眼が銀色の青年は答える。
「馬鹿な!そのような至宝っ!!野心の権化たるあの
「そうだ!晒せば益々坊主の命は無いぞっ!!」
政治力と軍事力では取るに足らない勢力とはいえ、後々の事を考えれば
ならばこそ……
傍系である
「死にますよ、
「ああ……ええと、
「?」
脅迫するかの迫力で遠慮無く指摘する
――今さら”
「そうそう、”道理に向かう刃無し”だったっけ、か?」
「……」
参謀を努める中年男は思う。
この青年の少女に対する”飽くなき献身”はどこから来るのだろう……と。
「俺はそれには……そうですね、こう答えますよ」
命を賭け――
命を捨てて――
「”意志の在る所には道がある”……ってね」
圧倒的不利な未来へと
それがどれほど報いが無い努力なのか。
実年齢以上に色々と
「
そんな報いの無い改変の為にこの青年はこれからどれ程の無茶をするつもりだろう。
策士、
「
二人の老将、独りの中年参謀が固唾を呑んで見守る中――
右目が銀色の青年、”独眼竜”
――
―
「あれはもう五年、いやもう後十日程で六年になるのか……」
ワァァァァァァッ!!
ワァァァァァァッ!!
戦場只中のこの地にて、
「はてさて、あの後、
中年男が呟く。
「くっ!
シュオォォォォーーーーーーン
シュオォォォォーーーーーーン
部下の声と同時に、鋼鉄製の異形兵から放たれた幾本もの”光槍”が空を引き裂いて走り!
「ふ、伏せろ!う、うわぁぁっ!!」
城壁上に配置された
ガギィィーーン!
ガギィィーーン!
直後、
――”
ゴゴォォォーーン!!
強烈すぎる攻撃に浮き足立つ城兵達と強固なる城壁である足元の一部分が崩れ落ちる様を見下ろしながら、戦場只中に立つ中年の男……
「まぁ……そんな余裕はないだろうね」
第二十六話「銀焔の竜騎士Ⅰ」END
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