第138話「窮余一策」後編
第二十五話「窮余一策」後編
――激戦のまま、
未だに”独眼竜”、
ズズズ……
「もうちょい右……いや少し、ストップ!」
ガシィィン!
「よし、上腕部の接続は完了、次は……」
――
―
午前零時を回った闇の中、日が暮れるまでの激戦地となった
ズズズ……
大の男が数人で縄をかけ、巨大な滑車で引き上げるのは数メートルはある鉄の塊……
「慎重に上げろよ!そうだ、そのまま……」
全体で数十人から成る兵士が暗き森の中、僅かな明かりを灯して続けられる作業は、”なにか”巨大な建造物を組み上げているようであった。
「…………」
そしてそれを無言で見上げる人物は、伊達眼鏡の奥の右目が少し鈍い光を放つ義眼の男。
「おい、バカの
「…………」
話しかけてくる声を無視し、
「ふん!そのデカブツ、出し惜しみしてないでサッサと
普段から重度の近眼の様に眉間に皺を寄せた表情である少女は、無視されたことにより今夜はさらに口の悪さに磨きをかけて更なる罵声を浴びせてくる。
――”今って結構ヤバい”……
極めて口の悪い少女の言葉は、言わずもがな”現在の戦況”の事だろう。
「……」
流石にチラリと視線だけは少女に移す
前髪をキッチリと眉毛の所でそろえたショートバングの髪型で小柄であどけなさの残る顔立ちの少女は客観的に見て可愛らしい部類に入るが、それとは対照的な無愛想で目つきの悪い……いや、態度はそれに輪をかけた極悪ぶりである。
”独眼竜”
「”
色々言いたい事は飲み込んで、ただそう答える
「はぁ?使うからこんな暗闇でコソコソとゴキブリみたいに動き回って組み立ててるんじゃないのか?やっぱりバカか?」
――くっ!この娘にバカと言われると余計に腹が立つ
「一応だ。一応用意はしているが……実際に投入しても稼働時間に問題があるし、あの鉄壁城を落とすまでは持たないかもしれない……そしてなにより」
「まったくお前はいつもウダウダと!どうしようも無いバカだな……
――この単細胞娘め……
「なにより……だな、この”
「うっ!?……お嬢様の?……うう……」
主君である
――
彼が最初に試行錯誤の末に実用化した
それは超重量からくる稼働時の機体損傷が激しく、都度メンテナンスに時間がかかる。
そしてなにより、戦場に投入するには燃料になる希少鉱石……
”
何故なら”
そういう理由から彼の更なる試行錯誤で開発されたのが
本機は
しかし現在までで、
他の勢力に比べ軍事面が著しく劣る
――そして苦心の末に……
量産型、
最愛の女性を守護する最強の盾として創造された”鋼鉄の魔神”
体高15メートル、重量80トンの
だが、やはり改良に成功したとはいえ……
人智を超越したその性能を発揮する代償として、大量の
辛うじて、条件付で、戦場に投入できる超弩級兵器。
これらは普段からおいそれとは使うことは出来なく、いざという時の守護神的存在であるのが実情だった。
そして――
その”
現在、彼らの目前で組み上げ完了間近の
ここに来て
燃費という面で首都防衛専用超弩級兵器である
そういった理由から実際には……
この超弩級兵器をここで使うのは本当に万策尽きた最終手段であり、その時は正統・
「俺としては絶対に避けたい選択肢だ」
「当たり前だこのバカッ!!お嬢様に危険が危ないポンコツ兵器なんか使おうとするなんて!!
「…………」
――くっ……馬鹿はお前だ、無愛想娘
元を正せば、戦場投入をせっついていたのはその
「とにかくこのポンコツは使用禁止だからな!底抜けバカの
「くっ、ポンコツ言うな!
「手?どんなだ?」
そして全く自覚無い無愛想娘は、平然と聞き返してくる。
「
「…………」
それは無謀以外のなにものでも無いかの様に見えるが、ここまでの戦いから
「敵総大将、
「…………」
ここぞとばかりに攻勢に転じてくる敵に、守備に徹していてはもう後が無いだろう。
正統・
「俺が……って?あれ?
だが、追い詰められた状況とは言え、流石に強引すぎる作戦であるのも事実。
そんな無謀に流石の無愛想無鉄砲娘も引いているのだろうか?と……
「おおおおっ!!良いな!!
「…………」
「な?な?バカもたまには良いことを言うな!バカ
珍しく意気投合するかに見えた二人……
「いや、俺が提案しといてなんだが……すっごく不安になってきた」
否、全然意気投合はしていなかった。
根本的にこの二人は相性が最悪なのだ。
「で、
「ほんと、失礼な小娘だなお前……」
敵総大将、
いや、もっと言えば……
その前身、
そしてその二人に、既に故人である最古参の筆頭武将であった
その一柱をつかまえて”戦うしか能の無い
「なんなら私が
「いや、無理だろ全然」
「にゃにぃぃっ!!」
小娘はブンブンと短い腕を振り回して怒るが、事実あの男に”武”で適う相手はそうはいない。
「まぁアレだ……鉄壁城の城門突破とか、敵総大将を狙うとか、ここに来て色々無茶が過ぎるが、やれなけりゃ
――
「俺に策が無い訳でも無い、上手くいけば鈴原の合流が間に合うかもしれないしな」
「鈴原……あの男か、私はあの男も好かない。なんかお前と……」
相変わらずの仏頂面で言いかけた
「いざとなったら”コレ”があるしなぁ」
月明かりだけの闇の中、ほんの一瞬だけキラリと光った
心中の不安はおくびにも出さず義眼の男はそう言って笑った。
――それは
「…………ふん……結局お前は”
そして無愛想で目つきの悪い少女は、長い付き合いからその意図をどれほど読み取ったのか……
絶妙になんとも言えない不機嫌な、だが敵意とは少し違った彼女らしくない複雑な表情で吐き捨てたのだった。
第二十五話「窮余一策」後編 END
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