第138話「窮余一策」前編
第二十五話「窮余一策」前編
「何を言うか!これ以上の追撃は不要!城を併用しての戦法は評定で決定済みでは無いか!」
度重なる攻撃にも揺るがず
「左様、敵軍は
続く武将もそう賛同した。
「はぁ……そうは申しましても敵将、
徹底的な攻勢を主張しているのは
これまで数度に亘る出撃を行い、その都度戦果を得たものの未だ敵軍に決定打を与えられていないと彼は再々出撃を主張する。
「その
「…………」
反論半ばで遮られ、
「……我が軍は」
そして、怒れる
「我が軍は秋山
過日、
彼は
つまり、開戦前に自身が偵察のため利用した城内古井戸に繋がる抜け道を利用したのだ。
埋め戻して地盤の脆い元堀の下の地下道に城内内堀の水を誘導し、城壁前に重量のある
今になって思えば、
「ふん、寝返り武将如きが……貴様が正門前にあんな溝を作ったせいで正門からの出撃は不可能になってしまったでは無いか!それにあの忌忌しい
「これは痛いところを……
言葉とは裏腹に全く”痛いところを突かれていない”
「う……そ、
続け様に他の重鎮も罵声を浴びせるが……
実際のところ、
「非才の身なれば……申し訳ない」
しかし
「ちっ!」
「ぬ……」
責め立てていたはずの二人の重鎮は、
「それくらいにしておけ、二人共……それでも
そこで、一通り様子を見ていた今回の
「う……はい」
「……」
不承不承ながらも黙らざるを得ない重鎮達。
――
無論、それほどの傑物が今回の
だが立場上、重鎮たる将軍達の不満も放置するワケにはいかない。
つまり軍隊という組織運営では時にはこういうガス抜きも必要であるが故の確信的放置であって、またそれを熟知した
「では本題に入るが……諸将よ、我が
まんまと場を整えた
「そして東の
――っ!?
その発表に、場の諸将はグッと奥歯を噛みしめた。
「ひ、
溜まらず出る、そうした声に
「はっ!現在入っている情報では、未だ交戦中で
それに直ぐさま応える
「歴戦の将たる
「くっ……最強無敗、
「うむ、だが敵は
これ以上は士気に関わると、
「そうですねぇ、とはいえ
この時、実際に
「
そして経緯は変則的であるが、総大将のお墨付きを得た
「明朝、この
「……」
「……」
ここまで話の段取りをされてはもう、
――
総大将、
「方々に異論は無いようですので、では具体的な配置等ですが……」
比較的低い身分や誤解されやすい性格、そして周りが抱く能力への嫉妬から、こうした人間関係で苦心してきた男にとってこういう手法はお手の物である。
「少し待て筆頭参謀、移動とは?」
だが、そのまま進むかに見えた評定であったが、少し意外な人物が待ったをかけた。
口を開いたのは、場を作ったはずの総大将、
「はい。敵将、
それも想定済みとばかりに答える
「この窮地を逆転するためにあの小僧は捨て身で起死回生……つまり
皆まで聞き終わらずともその理由を推測する総大将は、”それはそれで面白い”と言わんばかりの表情である。
「…………そうです、
「総大将たるもの迂闊に前には出るものではない!だろう?承知しておる。しかしのぉ……」
「…………」
”将”たる一面においては、”そういう”戦いが、ある意味”美学”ともいえる価値観を所持する武将でもあるだろう。
「まあ良い。で、安全な場所とは?」
「正門前の直ぐ奥……”一の丸”ですよ」
――ザワッ!
そして、その自信たっぷりな筆頭参謀の答えに場は再びざわめいた。
「き、貴様!
「あの場所は先日、敵との戦いで損傷を受けた場所ぞ!!」
「……」
一斉に騒ぎ出す重鎮達を前に、
「しかも、あの城壁前は貴様がしでかした大穴で……正門は塞がり、足場もメチャクチャだ!!」
「だからですよ?こっちが容易に打って出られない悪所だから、敵も容易に攻められない」
しれっと答える
先の戦いで最もダメージを受けた城壁ではあるが……
その前を陥没させ、陣取って居た敵軍ごと破壊。
結果的にそこは守る兵士を置くのも困難だが、逆に攻めるのにも困難な死地となったとはいえ、そんな諸刃の強攻策を独断で行ったことに対する非難を受けても悪びれずにそう言ってのける
「う、うぬ……し、しかし……」
そして、その相手を忌まわしいと思いつつも二の句が継げない重鎮達。
「既に戦場として終わった場所。散々な目に遭わされた死地にまさか二度も攻める来る愚か者はいない……筆頭参謀よ、貴様、
――ゾクリッ
「……あ、う」
「お……おぉ」
――
最強国
”咲き誇る武神”
――圧力と愉悦が混在する巨大な脅威
その場に居る全員が凍り付く緊張感の中、それでも相反する恐怖という威嚇を受けた筆頭参謀は涼しい顔にて
「囮として影武者を天守に置き、敵軍の攻撃を誘導して足止めします。敵は追い詰められ焦っておりますれば、
「……う……ぬぅ」
「ま……なか……」
「…………」
第二十五話「窮余一策」前編 END
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