第135話「風・林・火・山・陰・雷」(改訂版)
第二十二話「風・林・火・山・陰・雷」
小賢しい策を
そう、俺にとっては”武人の矜恃”も、”将としての
――だがなっ!
ダダッ!
「正気か?鈴原
「……」
――なるほど、そういう”見方も”できるな……
ここまで散々、攻め立てては距離を取るという”のらりくらり戦法”を
「まさか、兵力の劣勢を”背水の陣”で補おうとでも言うのか?」
「
直ぐに独り納得顔になり、次いで”
「成る程、”王覇の英雄”は真の勇士だ!ならばそれに敬意を表して全力で叩くっ!!」
そして再び全軍に号令をかける熱い英傑!
――おいおい、良い方にとってくれるなぁ……
そんな相手に
「……」
――動くこと”
兵法の基本の先は奥義に通じる。
流石は”最強無敗”と名高い
流石だ。そう、さすがだが……
「なら、最強でも無敗でも無い俺は残りの基本をこの戦場に
て事で、残りの基本兵法その壱。
――
それは
――
それは密かに機会を待ち、秘密兵器から放たれし
――知り難きこと”陰”の如く
そして、これから行う用意周到の策!
”
その様を見届けながら俺は……
――すぅ……
地面に向けて下げたままであった
ドドドドドドドッ!!
ドドドドドドドッ!!
「小賢しい策を
言うまでも無く、戦場で兵の機動力は最大の武器だ――
正面突破するにしても、策を弄するにしても、敵を圧倒する迅速さがあってこそ。
ドドドドドドドッ!!
目前に迫り来る戦国世界最強、
ドドドドドドドッ!!
最強無敗、
――が!
「……」
横一線に馬首を並べ突撃して来る騎馬軍団を眼前に、馬上の俺は地面に向け下げたままの切っ先を――
スーー
地面に沿って線を引く様に横に動かした。
「だが、
どんなに速度に勝ろうと、こっちもそれに対応するわけだから……それを凌駕する数倍、数十倍の速さなど通常は望みようもない。
ビッ……
ビビビビビッ!
俺が
目前の地面表層がボコボコと、まるで高速の
「
戦場での”真なる速さ”とは戦中で無く、
ビビビビッ!ビッ!!
飛び散る土塊と共に、細長い”なにか”が地表に姿を現す!
「なっ!?」
思わず呆気にとられる
――これで
”知り難きこと”陰”の如く”
”最速の兵法”とは水面下にて既に周到に用意されし戦術を指す。
先んじて戦場を構築せしめれば勝利もまた易い。
”
戦場と戦場外……
この両輪が稼働してこそ、真成る”風の如き
――
ビビビビビッ!
俺が馬上から
ビビビ……ビシィィーーーーッ!!
その馬群に引っ張られ地中から姿を現した”綱引きの縄”の様な頑強な
ドカカカッッ!!
「うわぁぁっ!!」
ドドッ!!ドシャァァーー!
「ぎゃひっ!?」
我が
大人の胸の高さでビシリと張られ、突撃状態の
「これは……なんの茶番だ?
だが――
目前で繰り広げられる味方の醜態を前にしても、
「…………」
――数十騎ほどの先走った
確かにこの程度では
突如地中から姿を現した
「この程度の悪足掻きが”王覇の英雄”と賞される
失望を隠せない最強無敗が再び槍を掲げようとした時だった。
ギッ……ギギギギィィ
「あ、あれは!?」
「き、
辺りに木材が軋む大音響が響き、そしてそれに反応した
「さっきから身に過ぎる評価を頂き光栄の至りだが……見ての通り、小賢しい策を
そして
「ぬっ!?」
俺の切っ先に釣られる様に、騒ぐ部下達と同じく頭上を見上げた
ギ、ギギィィーー
いや、主に
「だがなぁ、
ズドドォォォーーーーーーーーーーーーーンッッ!!
そこいら一帯に影を落としていた頭上からの凶事!
足を止めた
「ぎゃぁぁーー!!」
「うぎゃっ!!」
災厄の元凶は強靱な
そう、巨大な木造の……
「ご丁寧に”
それは
ズシャァァーーーー!!
激突した塔と地表の衝撃で濛々と巻き上がる砂塵と、それに潰されて
「う……うぅ」
「ああああ……」
「……うぐぅ」
倒壊した
だが、
「ぬぅぅ!これしき!」
そう、”これしき”で奴を仕留めるのは程遠いだろう。
「
ドドドドドドドッ!!
――そして当然の如くにっ!
直撃を免れた残りの騎馬隊を率いて俺に向かって押し寄せる
「…………放て」
だが、慌てることもない。
俺は天に掲げていた
ヒュン!
ヒュヒュヒュン!!
「なっ!?」
「っ!?」
俺の合図を受け、放たれた弓矢の数々は向かい来る
彼らの至近に横たわったままの”
ボッ……ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!
ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!
そしてそれは、只の弓矢では無くて火矢だった。
「……」
決死の覚悟を決めた”死兵”
その突撃を撃退するのは困難極まるだろう。
況してそれが”最強が率いる無敵の騎馬隊”ならそれは不可能に近い。
だが、相手が騎馬と違い”動かぬ標的”ならば話は変わってくるだろう。
怒濤の勢いで迫る騎馬兵士と違い、外しようのない巨大な木偶の坊が標的だ。
ゴッ……ゴォォォォォーーー!!!
――死兵を撃ち落とすのに弓矢を使うのでは無く、一気に炎に巻く!
「うっうわぁぁっ!!」
「ひぃぃっ!」
瞬く間に火矢の炎は燃え広がり――
「ぐわぁぁっ!!」
「ぎゃっ!」
辺りの酸素を急激に消費して膨張する轟炎地獄!!
火柱そのものと化した”
「す……鈴原
後はもう……
熱風でゆらゆら歪む大気と容易に超えることが適わない天をも焦がす炎の
――風・林・山・雷・陰……
そして仕上げは、ある意味まんまではあるが、
――
「だ・か・らぁ……最初から言ってるだろうが、お前みたいな”
俺はヤレヤレとやっと一息つき、そして後ろに控える
「サイカくん」
そしてそこには――
いつの間にか駆けつけた
「良い仕事だ、
俺のかけた言葉に頷いた後、
「相変わらずサイカくんはぁ、”ここぞ”で非道いわねぇ……」
そして平然として、中々”歯に衣着せない”評価をしてくる。
「敵はあの”咲き誇る武神”
だが、そんなのはある意味言われ馴れた称号だとばかりの俺の応えに、美女の垂れ目気味の瞳が不満げに細められた。
「そうじゃなくてぇ……あの
「うっ!?」
なんとも真っ当な抗議を受け、今度は返答に詰まる俺。
――実際、いつ敵の火矢による攻撃が始まらないかとヒヤヒヤだったワケだし……
「まぁ良いけどねぇ」
俺の困り顔を見て少しだけ気が晴れたのだろう、いや……
或いはそれを見るのが本当の目的か?
気怠げ女は意味深に口端を上げてから視線を火柱に戻す。
「白兵戦を好む”
俺は気持ちを切り替え、問うてみる。
「…………」
双剣を手にすれば血を好み、血に酔いしれる”
剣を使えるほどには
「いいえ……血の赤も捨てがたいけれどぉ、ふふふ、こういう
「…………」
”
「と、とにかく、最強無敗、
そして俺は知ってはいたが……
改めて感じる”破滅嗜好の気怠げ女”から”そそくさ”と視線を戻し、全軍に敵第一砦の総攻撃を告げたのだった。
――
―
激戦の
「もう良いのですか?とい
その場を去ろうとする相手を呼び止めたのは、戦場近くの荒れた……
治安も決して良いとは言い難い山道を行く、旅人には似つかわしくない出で立ちの二十代半ばといった女だった。
降ろせば長そうな髪をアップに
「…………そうさね、もう
場には全く似つかわしくない
長い黒髪を一つに束ね、それを
胸元を少し着崩した留袖着物姿から露出した折れそうなほど細い手には、これまた似つかわしくない
「未だ
「勝負は”
物騒な長ドスを手にして笑う留袖の女もまた、佇まいが美しい。
それは出自の善し悪しというより、どこか……武道に通ずる者の極地であろう。
「いいえ、とい
少しばかり侮られた事に対する反論だろうか?
”
「………そうさね、そういえば”王覇の英雄”はアンタのお気に入りのお方だったねぇ」
そして、その秘められし恐ろしい笑みを軽く笑って返す留袖の女は……
「”
笑顔のまま促す
”
「なんにせよ、
第二十二話「風・林・火・山・陰・雷」 END
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