第134話「広小路砦の攻防」前編(改訂版)
第二十一話「
ヒュォッ!――ヒュオォォン!
遙か遠方から――
「うがっ!?」
ドサッ!
十分に警戒し茂みから頭を出していた兵士の額を飛矢が射貫く!
「ひっ!」
バタリ……
そしてそれに驚いて背を向けた未だ藪中に潜む兵士の後頭部を、最初の兵士を射倒した軌道を
一人目を倒し、さらに後方に居るだろう二人目までの軌道を確保すると同時にその一人目の位置から二人目の潜む場所を推測して即座に射殺す。
「……」
十メートルほどの高さを確保した
障害物に潜む豆粒ほどの兵士の急所を寸分違わず射貫くという、それは恐ろしい精密な弓裁きと常人離れした集中力が可能にする絶技、ほとんど”二矢が一矢”にしか見えない超長距離二連射撃という奇蹟の腕前だった。
「……これで最後ね」
長く艶やかな黒髪を後ろで束ねたポニーテールを吹き抜ける風に弄ばされるがままに――
とても猛禽の如き視力を
「流石……音に聞こえし”
そして同じ
「ここまでで、
「……」
黒装束の女が口にした賛辞を完全に聞き流し、そう言う
本来は装着するであろう同色の覆面を外した女の背には、黒い糸で小さく”刀身と桔梗の花”が刺繍されていた。
「はい、私共が
「それで?貴女はこの後、サイカくんのいる
「
「……」
「鈴原
「私ねぇ、こう見えて忙しいのよ……そろそろこの
ポニーテールの
「うぅ……」
そして、ついさっきまで自慢げに話していた
「あ……そうだわぁ」
だが――
そのポニーテール美女が階下へ、
「え!?は、はい!」
思わず期待に瞳を輝かせる
「”
とはいえ……画期的なプレハブ工法といえども、十メートル級の建物であるからそれなりに人手はいる。
「は?は?……ええと?……特務部隊の私がなんで……」
期待とは的外れな、ただの面倒事の押しつけに
「これって確かぁ、貴女の直属の上司、カンゾリ ヨウノスケが考案したのではなくて?」
「いえ、それはそうらしいですが……そ、それにしても」
それにしても何の関係があるのかと納得できない。
「ああ、それと、貴女の言う”最高権力者”様が陣を構える
「直ぐに取りかかりますわっ!」
天然を装うしたたかな女傑、
自称、
――
―
ギィィィーーン!!
土煙の中、激しい金属同士の火花が散り……
「ぬぅぅっ!!」
そしてその火花の原因である片方の武将は、肩すかしを食らったような腑に落ちぬ
「どうしてだ!鈴原
ブォォォーーン!!
砂塵を
「鈴原
最強国
「……」
相対する――
もう片方の火花の元凶たる武将は――
その偉丈夫を前に無言で乗馬をジリジリと退く。
「
重ねて怒号が飛ぶ戦場で、それを涼しい顔で受け流しながらその武将……
ダダ……
「悪いなぁ……お前みたいなのと正面切って
「うぬぅっ!」
がっちりとした肩幅に鍛えられた太い腕、そして厚い胸板、
鼻筋の下にある大きめでしっかりとした口が
「たく、
と呆れながら
――それも無理ないか
そんな感じで、攻め手であるはずの
早朝に始めたこの戦だが、既に時刻はもう夕刻に差し掛かっていたのだ。
「退くぞ!」
そうしてまたもや、俺は歯ぎしりする相手に構うこと無く自軍を退くが……
「……」
――場所は
台地の斜面を利用する形で三箇所に設置された
各砦間の距離は適度に離れ、お互い連携して下からの敵に備える戦術的砦だ。
前回は
今回の
そして前回、
今回の作戦では
――それにしても”たったの三千”
ここで
一万の兵を抱える
”あからさま”な
特に数多の戦を経験してきた
――数多の戦を経験した”歴戦の将”
イコールその”立派な戦歴”が逆に
実のところ、これは俺の……
鈴原
敵さんはまんまと、策士として名をはせる鈴原
「…………」
ここまでは作戦通りだと、
俺は自隊を後退させながらも馬上で刀を握った方の右手を見る。
――この痺れ……やっぱ規格外の化物だな
俺は数合打ち合っただけの敵将を鑑み、ゾクゾクとする感覚と共に気を引き締める。
「にしても……そろそろ潮時か。でないとこっちが後が無いなぁ」
とはいえ、こんな時間稼ぎが何時まで持つか?
多分、俺の軍はどう用兵を用いても数時間も持ち堪えられないだろう。
「……」
そんな感じで作戦を遂行する俺の中でも焦る気持は刻々と増していた。
ダダダッ!
ダダッ!
「……」
ダ……
「お疲れねぇ?”最高権力者”さん」
そんな、隊を率いて敵砦と一定以上の距離を取っていた俺の元に……
極自然に馬を横付けして来た女が、緊張感の感じられない
「”最高権力者”?なんだそりゃ」
それを
「さぁねぇ……ふふ」
そして、薄く
「……」
「……」
――そうか……間に合ったか
俺は”それ”を確認して頷いていた。
――
夕暮れの中、ひっそりと
その正体は……
敵の第一砦と我が
「随分と薄い反応ねぇ?私はてっきり、追い込まれていたサイカくんが感激の涙で
――おいおい失礼な……
と、言いたいが、実は図星なだけに余計
そして、この”秘密兵器”
見た目よりもずっと危ない橋を渡ってきた本作戦の下準備の完了を確信した俺は、再び隣の
「まぁいい、それより始めるか」
今度は感謝の念を込め素直に笑う俺。
「
――おいおい……だからどうしろと!?
そして
「そうねぇ……明日はこの夕暮れよりもっと
「……」
――この美女の言う
それはきっと……
「なに?」
逆にジッと彼女の顔を見る俺に、
いや、”
――
辺り一面が赤に浸食される日没手前の地平線で、
この後はきっと赤が支配するだろう世界に溶け込んだ
なんとも神秘的な血の唇で
第二十一話「
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