第126話「虚空(アカーシャ)の剣」(改訂版)
第十三話「
台地の斜面を利用する形で三箇所に設置された
各砦間の距離は適度に離れ、お互い連携して下からの敵に備える戦術的砦だ。
――つまり……
ドドドドドドドッ!!
激しい土煙を上げて軍馬の群が坂を登るっ!
「突破!突破されましたっ!!
台地の斜面角度は約十二度ほど……
「な、なんだとっ!!」
鍛え上げられた軍馬と洗煉されし騎手ならば登れぬ勾配では無い!!
ぎゃぁぁ!!
うわぁぁっっ!!
「ええと、一気に制圧だよっ!一人一人捕らえている暇は無いから、武器を取り上げたら坂下に蹴り落とすんだ!」
蹂躙され尽くされた後になお残った第一砦の
「ぐ、ぐぬぅぅ!なんという破壊力だ、この……化け物娘めぇぇっ!!」
敵将の叫ぶ声も虚しく、白い馬尻に砂煙を従え騎馬隊の先頭をきって駆け登る
ドドドドドドドッ!!
「……」
そして既に遙か先を行く騎士姫、
風にたなびく輝く
「あ、あれ?今、蹴落としたの
第一砦を制圧したばかりの
「く、
ドドドドドドドッ
――っ!?
だが時既に遅し……
ワァァァァァァァッッ!
ワァァァァァァァッッ!
第一砦を早々に突破した
そしてそれを率いる
つまり”第二砦”から一気に鬨の声が湧き上がったのだ。
ザザザザザッ
ザザザザザッ
次いで溢れんばかりの騎馬軍団が姿を現す!
「なっ!?なんで斜面中間の砦にそんな数の騎馬がっ!?」
思わず後方から
「敵軍は
間髪入れず――
謎の騎馬軍団が指揮を執る男、偉丈夫の将軍が号令にて新たな
ワァァァァァァァッッ!
ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
ワァァァァァァァッッ!
ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
駆け上がって来ていた
ワァァァァァァァッッ!
ワァァァァァァァッッ!
――その勢いたるや山肌を削る土砂崩れの如し!!
「うっ!わぁぁぁぁ!!」
「ぎゃぁぁ!」
ヒヒィィーン!
突如出現せし
「そ、そんな……なんで斜面の中継拠点なんて不安定な場所に”機動戦力”を集中させてるんだぁぁ!!」
制圧したばかりの第一砦からその光景を呆然と見送る
彼がそんな風に取り乱すのも無理は無かった。
三砦の最前線、平地に望む第一砦で無く中間……
最終防衛ラインとの中継地にあたる斜面に騎馬隊を編成するなど……
常道なら機動力を活かせる第一砦にて敵を迎え撃ち第二砦はその後方支援、つまり弓兵隊などによる遠隔攻撃や工作部隊などによる前線援護、または後方の最終防衛ラインである第三砦への連携用の歩兵部隊が当たり前だ。
窮屈な、しかも斜面という悪路に機動兵力を配置とは兵の常道では有り得ないのだ。
――おまけにまさかの奇襲に対する奇襲!!
閃光将軍の異名を持つ
「そ、それも”
この事実は、
――
それこそが
「…………」
呆然とする
ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
「ぎゃっ!」
ドサッ!
ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
「うわぁぁっ!!」
恐怖に
ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
やはりその光景は地表を呑み込む土砂崩れだ!
「ぎゃぁぁーー!!」
「ひぃぃーー!!」
大地を、大気を、震撼させうるほどの怒号と蹄の大津波に、
不意を突かれた
――
「ま、
急斜面を戦場にした騎馬隊同士の激突……
当たり前であるが、下から駆け上がるのと上から駆け下りるのでは勢いが違いすぎる!
位置エネルギーを利用し、
――そして
これは明らかに”戦術”だ。
――いや、もしかしたら……
そう考えが及んだ時、
「あ、甘く見ていた……
――だ、誰なんだっ!?
――それは一体どんな
「……ち、ちがう……
ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
「ぎゃっ!」
ドサッ!
ドドドドドドドドドドドドドドッッ!!
「うわぁぁっ!!」
――そんなことより!
――このままでは我が
そして――
「く、
ヒヒィィーン!!
だが自体を立て直そうとする参謀の焦った声が届くより先に――
ダダダッ!ダダッ!
……”
「おおおおっ!見つけた!
ヒヒッ!ヒヒィィーン!!
「っ!?」
騎士姫の操る白馬が彼女の意志に反して急停止し、そのまま勢いよく前足を振り上げて垂直になる!
ブルルルッ!ヒッ!ヒヒィィンッ!
「おおっ!!天女の如き可憐なる輝く髪と瞳の戦乙女っ!!噂以上ではないかぁぁっ!!」
ズザザザザァァァァッ!!
半ばロデオ状態の
「いざ!いざっ!”
ヒヒィィーン!!
否!
最早、人馬諸共落下して来たのかと見紛うほどの速度で来訪した男の異常な程の圧力に!
「……
ヒヒッ!?
白馬の馬首にしがみついた少女が地に打ち付けられると思われたその時、淡い桜色の唇から場違いなほど静かな言葉が零れた。
ヒヒィィ……ブル、ブルルゥゥ
そして白馬は先程までの混乱ぶりが嘘のように、静かに四肢を大地に着ける。
「…………うん、良い子」
その瞬間、プラチナブロンドの美少女は静かに手綱を操り愛馬の制御を完全に取り戻していたのだ。
――
「…………」
そうして、白馬と共に一枚の絵画の如き静かさで佇む騎士姫の前に、
「見事っ!」
正反対に派手なアクションで巨馬を躍動させ降り立った豪傑が砂煙を纏ったまま立ちはだかる!
「………………だれ?」
驚愕するほどの威圧感を纏う豪傑を前に、緊張感の欠片も無い表情で言葉を発するプラチナのお嬢様。
だがその実――
「ううむ、
放っている殺気は氷の刃そのもので、そしてそれを平然と受ける男は満足そうに呟いていた。
ブゥオォォォーーン!!
そして、手にした豪槍を水平に一閃っ!
自馬の蹄が巻き起こした、未だ収まりきらぬ砂塵の煙幕をいとも容易く薙ぎ払う。
「我が名は
濛々と舞い上がり、辺りを覆っていた砂塵は男の一振りで霧散した。
そして鮮明になった視界正面に仁王立つ、堂々たる武人の姿が騎士姫の
「…………」
――
――
最強国
「
――戦場の華である”一騎打ち”
「…………」
だが当の
美しい
「…………ぬぅ」
幾度もの
鬼気迫る殺気を感知しながらも、
そして――
「……」
微塵も揺るがず、黙した少女の
僅かに揺らいだ気がした。
――髪が!
――否っ!!
それはもう彼の動物的本能!
持って生まれた戦才としか言いようのないモノだ!
ヒュヒュ!ヒュォン!
「ぬぅぅっ!!」
彼女の美しく輝く
髪のひとすじが揺らいだのでは無い。
動いたのは本身の方。
髪はその動きに一瞬、その場に取り残されただけに過ぎなかった。
――動作というにはあまりにも静的!
――”制止”としか思えない動作!!
シュバッ!シュバァッ!!
三つ編みに束ねた輝きを放つ光糸の髪が、煌めきを纏いながら美しく後方へ僅かにブレたかと思うと、既に疾風となった白魚の指先が……
「くぅぅっ!!」
精巧な飾り細工の施されし、艶っぽく輝く白漆の鞘から放たれた純白の佳人が……
そう!彼女の愛刀”
「ぐぁっ!」
同時に二箇所!
「お……おお……おお……」
驚愕に声を漏らす武神……
あの
いや、
いやいや……
実は彼自身どうやって回避できたか解らない!
自身が取った動作はまさに僥倖の産物だったのだ。
キン!
遅れて、表情無き騎士姫が鞘に白刃を収める
「…………」
――
”刹那”さえが怠惰に感じられる事象――
――
――
――”
「…………ぬ、ぬぅぅ」
”
そして――
日の光に
「…………じゃま」
――っ!?
それは
それこそが当代、
第十三話「
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