第121話「奥泉行路 弐」(改訂版)
第八話「
部屋の手前と奥という位置取りで視線をぶつけ合う
――
「…………」
「たけき者も遂には滅びぬ、おごれる人も久しからず」
しっかり張り出した
ベベンッ!
「たけき者も遂には滅びぬ!おごれる人も久しからず!」
「…………」
ベベベンッ!
「
――ちっ!
この男、挨拶も済まさぬうちに早々に俺を
俺は相手の意図を察してあまり乗り気で無いものの一応、応じることにする。
「なんの余興だ?
ベベンッ!
悪趣味の余興に返す俺の言葉を即座にかき消す弦音!
「からずやっ!?」
「…………」
――このハゲめ……
俺と柄の悪い”琵琶法師
――ふぅ、だがこれじゃ埒が明かないなぁ
禅問答の真似事のような出来の悪い演出に俺は渋々と折れて応じる事にする。
すぅーと息を整え、そして応えた。
「
”たけき者””おごれる人”とは俺か
それは後世へと至った歴史のみが知る事だが……
俺は勿論こう応える。
――
その後、敗者が再び日の目を見ることがあるかは……
それこそ”その者”次第であると。
「…………」
俺を試すように見据えていた酔狂人は……
「考え無しで不相応に獅子に挑む蛮勇の蟻だと、丸切りの”
独り
ベベベンッ!!
「
最後に景気よく弦を鳴らし、大きな口元を緩めて白い歯をニカッと剥き出した。
「……」
行き成り試されて俺は面白く無い……
――だが
「改めてよくぞ参られた!!と言いたいが……貴殿は何用で来訪したか?
割と大柄な体躯。
金糸銀糸を編み込んだ着物の上半身を
「…………」
――これが”
――最強国”
俺は薄暗く淫靡に
「
――ほんと問答の好きな親父だ
俺は目前の人物に呆れながらも、
「ちょっとした取引だ。商売に”敵”も”
「……ふっ……かははっ!」
そして俺の言葉に
「取引?かははっ!身も蓋もない事をほざくな若造っ!……だが、儲け話ならば聞かぬでも無い、無いが……」
そして握ったままの
――ちっ
――何様だ、この禿げ親父……
俺は立っていた入口付近から遠慮無くドスドスと四角い
「……」
――おぉ!おぉ!
――左右に並木の如き花を咲かせる女達の殺気立つこと、立つこと、ははは……
非常の事態に備える華やかなる道中花達の瞳は遊女としては実に勇ましい。
「……」
俺はそんな刺々しい視線の中を平然と歩き、
「……」
またそれを見届ける禿げ親父も実に
ドスン!
両脇に二人のしどけない衣装を纏った妖艶な美女達を
そのの直前にて俺は雑に腰を下ろす。
「
「若造が言いよるわっ!」
四角い
「だがそんなモノは黙っておけば良いことだ。
そして俺はそんな状況はお構いなしに続けた。
”若造”、”
いいや!実の所は”ざっくばらん”では無く、本質は真逆で……
腹の探り合いの真っ只中。
口の悪さはお互いにそう言う手法に一致したからだろう。
「それは理由にならんぞ、
「本当にそうか?
「…………」
俺のあくまでも強気な言葉に
――そうだ、
それは戦であっても外交であっても同様だ。
当然ながら俺は事前に
そして俺を即座に捕らえて
――つまり
「若造……きさま……この
「それはお互い様だ、
――だがその前に……
「良かろう、
「ああ、その前に……必要なモノがあるな」
俺は
「かははっ!
――ササッ
「さぁ、
「お噂高き”
直ぐに控えていた女達が俺の周りに群がり、そして酒や料理を勧めて来る。
「先ずはゆるりと愉しめ
禿げ頭の男は脇に控える美女に注がせた酒をグビリと
――やはり一筋縄じゃいかないか?
最初から解りきったことだったが。
「……」
俺は同じく注がれた酒を一気に
「悪いがそんなに時間が無くてな。
「っ!?」
「り、
――ザワッ!
俺の返答で途端にその場の空気は凍りつき、女達は一気に色を無くした。
「……」
そして正面の
――俺を暫し
その上で改めて我が
俺が
「ならば死だっ!!余裕が無い?即ちその時間とは貴様ら
ガラッ!
「
途端に、俺が先程入って来た入口から独りの男が乱入する!
「……」
――おいおい、男子禁制じゃなかったのか?
俺は坐したまま、
――クセのある黒髪を後頭部の
――身長は百八十は在るだろうか?
ガッシリとした肩幅に背中に太刀を背負った男は、切れ長で吊り目。
鼻筋は通り口元は真一文字に締まって……
中々精悍な
「
「……承知」
主人の命令に頷いた男は、背負った刀の柄に手を沿わせて俺の背後から歩み寄る。
「……」
――
衣服に半ば隠れてはいるが、見えている部分から察するに
――まず、古戦場の傷だろうが……
治り具合から随分前のものみたいだが、見た感じその深さから死線を彷徨うほどのものだったろう。
「客人、主命なれば無作法を許されよ」
――可成りの男だ
――可成り……手強い!
俺を捕らえるため、場合によっては斬り捨てるために、
直ぐ背後に立った男は刀を……
「あの、
――!?
ちょうどその瞬間!
開け放たれたままの同じく入口付近に
――おおっ、ナイスタイミング!
俺は密かに握った拳を解き、正面の
「…………ふ、かはは……命拾いしたな、
途端に禿げ親父から殺気は薄れ、そして手を上げて俺の背後に立った物騒な男に促す。
「……はっ」
――チャキ!
抜きかけた背中の刀を戻す男。
「本当に運が良いな。
「……」
成る程……
納刀と共に波が引く様に消えた威圧感。
確かに希に見る
そのまま
「それで……取りあえず俺の話を聞く気にはなったのか?」
俺の問いかけに”
「
「しかし?」
「取りあえずは”花”だっ!!貴様が持参せし
国家の行方より先ずは未だ見ぬ異国の花に興味津々って……
――どんだけ女好きなんだよっ!この禿げ親父!
四角い
第八話「
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