第119話「或る休日の情景」後編(改訂版)
第六話「或る休日の情景」後編
「お昼作りますから、
シャァァーー
「…………」
一度は
黒髪ショートカットの美少女は
「
と、そしてそんな感じに俺を追い出したのだ。
戦国世界でもこの近代国家世界でも俺の近習である彼女が、今日の俺の予定が午前中だけだと知っていても当然だが――
その後の俺の行動までも完全にお見通しで、先手を打つとは流石に
そう俺が感心しながらシャワーを済ませて……
ガララ
「……」
浴室から出ると脱衣所にはきちんと畳まれた下着と部屋着が用意されていた。
勿論、脱ぎ散らかした俺の衣服は既に無い。
――ほんと抜かりが無い。
――
ガチャ
「
着替えた俺は再び自室に戻り、そして既に料理中の
「
料理の手を止め、しっかりこっちを向いて応える少女は自身も既に私服に着替えていた。
おっと、言い忘れたが俺の自室には結構本格的な
時間帯に関係無く仕事を
どこからかそれを聞きつけて来た
こうして本格的なシステムキッチンに施工し直させ、その後は俺に手料理を振る舞ってくれることが多くなった。
勿論、
――ジャンクはジャンクで美味いし、深夜とかたまにどうしようも無く恋しくなることがあるんだよなぁ
「
「りょうかい」
風呂上がりの俺は軽く手を上げて向こうのリビングルームに移動する。
――ほんと、行き届いた良い娘だ
”みそ”はゆったりとした柔らかいオートミール色のニットに手先や首元、その下のブラウンのスカートが隠れそうで隠れないという絶妙な”
そしてそれでありながら、その可愛らしい私服の上に持参のエプロンを身に着け、料理のためにダブついた袖を捲るという健気さという!
――
「……」
――そう……今日はいつもよりもスカート丈が短いよなぁ
「……うぅ、ごほん!ごほん!」
目前には、先程から甲斐甲斐しく俺の世話をする黒髪ショートカットの清楚可憐な美少女の姿!
この状況なら殆どの男が惚れること間違いなしの”良い娘”だろう。
「……」
リビングルームでソファーに腰掛け、
――休日の今日、何らかの用事で学校に登校した
その帰り道に買い物してから俺の所へ寄ったのだろう。
――しかし休日に登校する場合でも制服着用とは
学生の何人が守っているやら分からない校則だが、こういう所はキッチリした
「……」
そしてそんな
それは少し前に俺に向け内々に
――因みに
歳は少しばかり離れてはいるが俺の昔馴染みで、我が
粗忽で乱暴者で熊のような巨体の男で、だが意外と面倒見の良い……
戦場では”圧殺王”と恐れられる剛の者。
「………………
俺は料理中の美少女に聞いてみる。
実際、そう伝えられた時は俺も少々驚いた。
だが、年齢は離れてはいるが話としては悪い内容では無い。
隣接する同盟国で人物も申し分無い。
少し引っかかるとすれば、奴には妻が既に三人ほど在るということ。
だがそれは戦国の世では別段普通だし、奴の話では
まぁ長年、
「…………」
「
俺の投げかけた言葉に、テーブル上に皿を並べていた少女の手がピタリと止まる。
「えっと、だなぁ、別に直ぐに答えを出すことは無いか……」
「………………ます」
――ん?
俺の言葉に被せるように
「えっと?
「死にます」
――なっ!?
――なんですとぉっ!!
俺は固まった。
縁談の話に対しては想像だにしない
「ま、
明らかに慌てふためいた俺の顔を
「……
――おぉぉいっ!!
俺は思わず手にしていたグラスを落としそうになりながらもグッと
「
「私は
「う……」
これ以上無い真剣な瞳だ。
俺は……
確かに
その事実は間違いない。
軍事的、内政的な、そういう実質面でもそうだがそれよりも何よりも精神的な……
最近では
そしてなにより俺が
「……」
――
精神的に……
或いは本当の死だ。
――
彼女は俺の精神的支柱……
いや、俺にとって
これまでの人生で俺は既に気づいていたはずだ。
「…………」
「……
距離を挟んで絡み合う俺の瞳と
俺は……
正直、軽はずみだったと思う。
「いや、すまなかった……正直な、俺も
「…………
神妙な顔と口調の俺に
苦楽を共にする
特に
だから必要ないと、俺は時々こうして甘えてしまうのだ。
――だが
時にはちゃんと言葉にする事も必要だ!!
「俺にはな……やっぱお前が必要だ」
「っ!?」
思い直した俺の言葉に
「他の家臣達とも、
――とおぉっ!?
そこまで言いかけた時、それを聞く少女は……
「う……ひ……ひっく……うぅ……」
ポロポロと大粒の涙を黒い瞳から惜しげも無く次から次へと零れさせていた。
「さ……ううっ……
「…………」
――ちょっと……
熱くなりすぎたか!?
俺は
「うぅ……あの女にああは言いましたが……本当は少し……悩んでいたんです」
「……ん?」
――あの女?悩んでいた?……なんの事だ?
「ですが、今日、
「ええと?」
――さっぱりだ。話がみえない?
「
「お、おうっ!?」
ところどころ意味が見えない俺は彼女の気迫に押し流される。
「私もずっと
――うっ!
いや、流されるにしてもこの流れって!?
「ま、待て
咄嗟に怯んで逃げ道を用意しようとする俺。
「解っています。でも、それでも……
「一旦!一旦落ち着こう?な、
感極まる
そこで俺は、どさくさに紛れた場違いな
「は、はい……置いてあった
「…………」
”これ”は希に見せる
「…………ええと一応聞くが、なにが”ちょっと”だけ?」
そして俺は嫌な予感を感じながらも引き返すことが出来ない。
「
――おいおいおいおいっ!!
”ちょっとだけ”って!まさか……
俺のシャツとかを”くんくん”、”すーはーすーはー”とかっ!?
――いやいやいや!それって人としてどうよ!?
――てか、シャツなのか?まさか
思わぬカミングアウトに、俺はジッと微妙な顔で
「…………あ、あの……私もですね、今日はもしかしたらと……期待……あ!じゃなくて覚悟をっ!……ですから下着も
――おいおいおいおいおいおいおいおいっ!!
「”ですから”って何が!?
いや待て!!
「それより俺が
色々ありすぎるが
「えと?お気に召しませんか?」
俺の反応に怖ず怖ずと上目遣いにエプロンの端を両手でモジモジと弄りながら聞いてくる黒髪ショートカットの美少女は……
――最高に可愛いけど!噛み合わな過ぎててちょっと怖い!!
「あの……”
「…………デ、
そして更に俺に加えられる
こう見えて
それこそこうやってたまに俺の部屋を訪れ、食事や掃除、色々と世話を焼いてくれるのだが、それをいつの間にやら当然の如く受け入れていた俺は……
――ベッドか?
その”
――ま、まさかベッドの下にある秘蔵のブツをっ!?
俺の表情は凍り付いていただろう。
――”
――していたんだよぉぉっ!!
「あ、あの…………?」
黙ったままの俺に
「いや……なんでもない。少し取り乱し……」
こんなことでは駄目だ。
「ベッドの下では無くて、書棚の一番下の、厳重な二重底の中に在る”逸品”の方です」
「って、滅茶苦茶バレてるやーーんっ!!俺の逸品っ!!」
――コンチキショーー!!
心の中まで見透かされていた俺は、少しでなく多いに取り乱して泣いていた。
「ハァハァハァ……」
つ、疲れた……
半休なのに普段よりもどっと疲れた。
「あの……
「…………」
で、結局どうした状況だ……これ?
もしかして
「ハァハァ……」
「…………あっ、お料理!」
「取りあえず冷めないうちに……
黒髪ショートカットの美少女は、頬を赤らめながらもの凄く良い笑顔で言った。
「どうぞ、お召し上がりください」
頬を赤らめて短いスカートの裾をモジモジと掴む美少女。
「だ、だから!どっちをぉっーー!?」
その日、久しぶりに半休を取れた多忙な男の部屋で――
テーブル上に並べられた料理と目前の美少女を見比べて発せられる、魂の叫びが木霊したのだった。
第六話「或る休日の情景」後編 END
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