第119話「或る休日の情景」前編(改訂版)
第六話「或る休日の情景」前編
「それにしても”SUZUHARAグループ”は既に全国規模の大企業です。実質三代でここまでの企業を築かれた、その秘訣はどういった所にあるのでしょう?」
「それは――」
「なるほど!地道に確実に、時に斬新に、時に伝統を重んじ……何事も継続と臨機応変さが成功の鍵なのですね!と、それはそうとSUZUHARAグループ系列会社のスノーホワイト企画が昨今発売した人気商品の……」
「ああ、それなら担当者がおりますので――」
――俺、
「そうでしたね、スノーホワイト企画は新しく若い会社でしたが、その社長もお若い女性だとお聞きしております、ぜひお目にかかりたいと思っておりました」
――確か”情熱!島国”とかいう密着型の人気ドキュメンタリーだったか?
とはいえ、今回はある狙いがあったので取材対応は会社の他の重役に任せたうえ、インタビューだけならと出演したのだ。
――おおぉぉっ!
てなわけで、
「スノーホワイト企画、代表取締役の……
――自己紹介がなぜに疑問形なんだよ、
と、ツッコミ宅鳴る気持ちを抑える俺だが、それにも増してカメラが回っている時に番組スタッフが声を上げるのはどうよ?
「おお……」
「か、彼女が噂の”
ボソボソとだが、取材班の中でそういう言葉が飛び交う。
”近代国家世界”でも”戦国世界”の異名は健在な彼女である。
そう実際、取材班も思わず声が漏れたその原因は希なるこの美少女なのだ。
「……」
馴れぬ空気の中での緊張だろうか?熱を帯びて鈍く輝く
白磁のようなきめ細かい白い肌と整った輪郭、それに応じる以上の美しい
そしてやはりその美少女の特筆するべきは双眸。
輝く銀河を再現したような
それはまるで幾万の星の大河の瞳。
出来るビジネスレディといったスーツ姿で現れた我が系列会社の代表は、紛れもない美少女なのだ。
「……ぅ……ぁぅ」
タイトなシルエットのスカートにヒールのある靴と、今日は綺麗に整えアップに
普段は見ることの無い知的イメージの
――
戦国世界では
そしてこの近代国家世界では、学生にして”SUZUHARAコンツェルン”系列企業の代表に据えてある。
「……」
――大丈夫だ、打ち合わせ通りに受け答えするだけで……
勝手が違う状況に少し緊張しているだろうプラチナの美少女に俺は頷いて視線を送る。
「えと……あっ!……へ、平素は格別のお引き立てにあずかり、厚くお礼……」
「そのネタはもええっちゅうのっ!!」
「……うぅ」
最早お馴染みとも言える流れに思わずツッコむ俺と、それに対し恨めしそうな顔で上目遣いに俺を見上げてくる……
早くもメッキが剥がれつつある”なんちゃってビジネスレディ”
――てか、成長無いのかこの娘はっ!
俺はそんな理不尽な非難の視線を向けられながらも、このポンコツプラチナ美少女にフォローを入れることにする。
「我がグループ傘下の代表、
――
”ほぅほぅ”と……
興味津々で俺の説明に聞き入るインタビュアーと番組スタッフ達。
確かにこれほどの美少女が代表となるとマスコミとして興味も尽きぬ事だろう。
「……で、彼女が主導する企画展開の素晴らしいところは……」
織り込み済みの反応を確認しながらも、俺は説明を続けた。
そう、勿論……
俺も”唯の宣伝”や”サービス精神”で、こういう雑事を
実際これは戦国世界での次の一手に直結するのだ。
「なるほど、流石は”SUZUHARAコンツェルン”の総帥、若き獅子とは
「はぁ……?」
――若き獅子?初耳だ……なんだそりゃ
「で、
スッ!
インタビュアーがそう言う話題に入ろうと色気を出した瞬間!
俺と
「関係の無い質問はされないようにお願いします」
「い、いえ、ですが……視聴者の方々が今一番興味があるのは
「近代国家世界で戦国世界の取材はNGと知らない訳では無いでしょう、これ以上はお引き取り願いますが?」
俺と
「わ、解りました……失礼しました」
どうにも無理だと理解したインタビュアーは、諦めて元の仕事に戻る。
「…………」
――
まぁ、こんな感じで……俺の日常は”
――
―
そんなこんなで取りあえず取材は終わり、俺は本社ビルの応接室で鈴原本邸へと帰る車を待っていた。
「さいか……」
応接セットのソファーに腰掛ける俺の横に、立ったままの
「ん?ああ……
俺は応えると正面のソファーを促す。
「…………」
ボフッ
「…………えと、
促されて
俺の左隣に腰掛ける少女の重みで高級ソファーのスプリングは軋み、一瞬だけ俺の重心は僅かに左に傾く……
「……」
――ち、近いっ!近いっ!
「……」
「……」
――って、無言かよっ!!
俺の横に腰掛けるという大胆な行動をしておきながら、美少女は至近から無言で俺を見上げるだけ。
「な、”
キャラに無い彼女の不意打ちに、みっともなくも俺は思わず上ずった声で”
「うん……」
短く応えた少女の
その間もジッと俺を見据えたままだ。
「い、いやぁ、
「うん」
「…………」
――う、あ……
――なんなんだ……この瞳!!
俺は少女の
「…………」
――だ、大体だ……
――この位置からだと、その……
――なんだ、
彼女の白磁の如き柔肌の首元から見える……
――あ、あれだ、ちょっとアングル的にだな……
俺は若干混乱していた。
左肘に感じる柔らかさと生暖かい体温、それと、どうしても視界に入る白い首筋……
「作戦は順調だよ、さいかは
――!?
思わず
来るとは……つまり戦国世界で俺の本隊が”
「そ、そうだな……”
「……ふぅん」
「…………」
――
――な、なんなんだ!?妙に気まずいなぁ
というか
そう感じるのは俺が変に意識しているからだろう。
「……」
「……」
とはいえ……
さっきの変な視線が気づかれなくて良かった良かった。
――
「ボタン……外した方が良いの?」
「…………ぁぅ!?」
「だから……さいか、”えっち”な目で見てたから」
――バッチシ!バレてんじゃんっ!!
平然とそう言った
「な!なんのことだぁっ!?えっちな目!?いやいや、全然察しのつかぬ言葉でし……ですなぁ!!」
俺の声は見事なほどに裏返り、無様なまでに
「…………」
――う……
向けられる
「さ、さいかがね……見たいなら良いよ。ちょっとは、は、恥ずかしいけど」
「…………」
――おぉーーい?
――は?なんだ?俺の傍で何が起きている!?
――ぬ、脱いでも良いって、どこまで!?(注・脱ぐとは一言も言っていません)
――ど、どこまで脱ぐのが許容範囲なんだっ!?(注・だから脱ぐとは一言も言ってません!)
「……」
――いやいやいやいやっ!!
「…………」
いや、たまにそうだったような気がしないでもないような……
「…………」
「って!外すなっ!ボタン外すなって!!」
俺の沈黙を肯定と受け取ったのか、
「これくらいなら良いよ?さいかが、見たいなら…………要らない?」
そして――
純白のお嬢様は先ほどより少しだけ解放された胸元のまま、そう言いながら小首を傾げて俺を見上げる。
――ちょーー可愛いっ!!なんだこの生き物!?
いいやっ!俺は今や天下に名を轟かす
この程度の誘惑?には毅然とした態度で余裕で返せるっ!!
「ご、誤解があるようだが、
「…………」
「いや、いないが……きょ、今日は意外に蒸せるしなぁ……そ、そのくらいはふつう?」
何故か疑問符口調に前言を超特急で覆す俺。
「あ、暑いもんなぁ……」
そして視線をチラチラと彼女の白い胸元に向けているから説得力も何もあったもんじゃ無い。
「さいか?」
――くっ!神めっ!!
俺は咄嗟に理不尽に神を呪い、理性を取り戻す!
「いや、やっぱ無し!直ぐにボタンを留めなさい!」
神に八つ当たりした分は……そのうち
「さいか……あのね……”
コンコン!
「
そんな中、ノック音が響いて――
先程の黒スーツ男の声がドア越しに聞こえた。
「お、おう!助かっ……いや、ご苦労!直ぐに行く」
誤魔化すように俺はサッサと立ち上がり、そして何ごとか呟きかけた
「とにかく
立ち上がってドアに向かう俺を座ったまま見送っていた。
「………………うん」
少しだけ耳を朱に染めたまま、小さく頷いて。
――
―
そうして、無事?
――取りあえず今日の仕事は終わりだ
「…………」
時計を見るとまだ午前十一時を少し回ったところだった。
こんなふうに半休を取れるなんてかなり久しぶりの気がする。
日曜日の午後、特に予定を入れていなかった俺はネクタイを弛めながらテーブルに用意された水入りのグラスを一口飲んだ。
――明日からはまた戦国世界で……忙しくなるしな。じっくりと休めるのも……
俺はそう自分に言い訳しながら、内線で使用人に昼食は必要ないと告げてからスーツを半分着崩したままベッドにゴロンと四肢を放り出す。
――もぅ……今日は……このまま……
「……………………」
――
そうして意識が
ルルル!ルルル!
自室の内線が無粋にも俺の安息を取り上げる。
「…………」
ルルル!
「ちっ!」
俺は立ち上がると受話器を乱暴に取る。
「俺は寝るから、今日はもう何も……!?……
――と或る男の、と或る休日の一コマ
どうやらもう少しばかり先になるようだった。
第六話「或る休日の情景」前編 END
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