第117話「賭場と剃刀」前編(改訂版)
第四話「賭場と剃刀」前編
――もう四年も昔の……
私が十三、
場所は
そこは十数年も放置された”ある古参の家臣”が所有する別荘で、大幅に改修して現在はその”古参の現当主”が住んでいるらしい。
その人物は……
数年前に家督を継ぎ、
普段の素行の悪さから
――
「本当にこの頭数で訪ねるのですか?相手は……」
私の横を歩く
「別に問題無いだろ?敵に会いに行くわけじゃあるまいし」
その問いに平然と答えられた
「それはどうでしょうか?
前を行かれる
どうあってもこの
「
「はい。”
その涼しい瞳に一瞬ドキリと胸を高鳴らせるものの、私は平静を装って応えた。
私は
私の主人たる
鈴原
――とはいえ
私の知る限りその男は、
そして現在は屋敷に”ならず者共”を囲い、酒と女三昧だと聞くどうしようもない男だったはず。
そういう情報から私は
「けど”切れ者”だぞ?ことに数年前の
「”あれ”は人道に
不敬ながら
「姑息な策だと思います」
私も
そう、その戦で”
わざと
「そうかぁ?戦はなにも正面から矛を交えるだけが全てじゃないし、奴の策なら楽で味方の被害も……」
「……」
「……」
――勿論、
「いや、まぁいい……とりあえずは訪ねてみよう。余人の無責任な噂、
「……」
――そう、
どんなときも
――けれども今回は……
職を失った奉公人、夜盗崩れ、浪人に遊女、そういう無頼の輩が群れるそんな場所に……
私が本心では乗り気で無い理由は
私の
そういう”いかがわしい場所”には近づいて貰いたくないという事からだ!
「……」
酒に女……
欲望に溺れる人生の落後者達。
そんな輩を纏める屑男なんかに関わって
いいえ!
万が一、その男を
――そう、一年前の”
「……っ」
――私は
あの時の
――させない!万が一にも!
我が君の後ろを歩く私の指は、無意識にギュッと強く握られていた。
――
「てなわけでぇ……行くぞ、
――私は……
「お供いたします」
――私がお護りする、この身に代えても!
頭を下げて応え、堅くそう誓ってから我が君の背を追ったのだった。
――
――ガヤガヤ……
「……」
――がははっ!
――きゃっ!ちょっとぉ!うふふふ……
「……」
予想以上というか、予想だにしないと言うべきか。
”
「なに……これ?」
私は思わずそう独り言を吐き出してしまう始末だ。
「おおぅ!?この”お坊ちゃん達”はどこのお偉方だぁ!?」
「きゃはは!止めなよ、アンタみたいな
――ぎゃはははっ!!
「……」
上半身裸で酒を手に騒ぐ柄の悪い男達に、
派手な化粧の半ば
ある者は博打に我を忘れ、ある者は
そしてまたある者は掴み合いの喧嘩に怒声をまき散らす。
「……」
屋敷の中に案内されて直ぐに、私は充満する商売女達の化粧と野蛮な男達の酒の匂いに自然と眉を
「やぁやぁ、誠に申し訳ないねぇー、こんな片田舎までお運び頂いてこの有様……はははっ……で、
歳の頃は二十代半ばから後半だろう。
切れ長の眼をしたヒョロッとした色白い男が屋敷の中央にドッカリと腰を下ろし、左右に妙齢の女達を
「……貴殿、
立ったままの私達、その中で
「あ?ああ……俺が誰かって?ああ……なるほど……って誰だっけ?ええと……ちょっと待ちなよ兄さん……ええと、どうだったかなぁ?天下の色男って事だけは覚えてるんだけどなぁ、どうだったけなぁ。おぉい、
色白い優男は上半身の衣服を
――あ……だめだ
隣で立つ
男は肩に掛かる長さで無造作に垂らした髪を振りかざし、相変わらずのほろ酔いで軽口を発した口の形のまま、自らが”
「
言葉は落ち着いているけど……
それはこの男が
「はぁ?知ってるならそれで良いでしょ?でぇ?何の用かなぁ、す・ず・は・ら・のぉ!若君ぃ?」
――っ!!
あまりの無礼に!私達二人が堪らず前に出ようとした瞬間だった!
「
「…………」
「親父殿には随分と煙たがられているようだが、俺はお前を買っている。どうだ?」
「…………」
それでも返事を返さず黙ったままの
この無礼千万な男に対し……
「このっ!我が君の質問に答えなさい!無礼者っ!」
思わず怒鳴りつける私。
「………………ふぅ」
けれど目前の無礼な男は、ニヤけ
そして手にした酒杯を一気に
「どういった任務か知りませんがぁ、どうせ命懸けの使い捨てでしょう?職務を放棄して日がな一日遊び惚ける穀潰しの使い道には持って来いだ。ははは」
睨み付ける私と、全く動じない表情で男を見詰めておられる
――ガシャン!
手にしていた空の杯をそのまま床に落とした!
「なにを勘違いしているのか知らないがなぁ?お坊ちゃん!俺は既に身分や肩書きを返上した!」
打って変わって荒々しい口調で私達を睨み付ける男は先ほどまでとは別人の迫力を見せる。
「そ・れ・にぃーーだっっ!!我が
そして不敬にも、
「このっ!」
これには、反射的に腰に装備した特殊短剣に手をやる私だが、
「
それを
「……うう」
――納得いかない!
いいえ!当然、
この目前の無礼者を二つにして斬り捨てられない事にだっ!
「……」
けれど
――あ……
これは心中で、凡人には思いもつかないお考えを、なにか良からぬ事を考えているときのお
すごく頼りになって、ちょっとだけ意地悪な、私の
「……」
私はその一瞬で全ての苛立ちを忘れ、頬が熱くなる。
「合い分かった。ならば賭けで決めようか。そうだな、俺が勝ったら……」
――っ!?
そして次に発せられたそのお言葉に……
その場の全員が一瞬、そう予測通りに意味が解らず立ち尽くす。
「は?……いや、ちょっと!?坊や?……何を言って」
――ふふん!
そうよ、私の
誇らしい気持ちでお側に控える私だけど、
――でも、この
――いえ、どういう状況?
私の誇らしいと感じる理由の通り、さっぱり見当もつかない。
「だ・か・らぁっ!賭けだよ賭け!俺が勝ったら”
同列にポカンとした無礼な優男に我が君は再度、説明をされる。
「い、いやいや……だからなんで賭け?やらない!やらないって!俺は
「なんでって?お前、ここは
完全に呑まれたふうの優男の否定を最後まで言わせず、
「さすがは
「ぎゃははっ!」
「ざぁーんねんっ!親の総取りだぁ!」
「ちっくしょう!もう一回だ!」
この場は私達が来た時から、荒くれ者と商売女と酒盛り、とくれば……
「……
「……
そして私も賛同した。
「い、いやいや!!……しかし!だからと言って俺がそんな賭けを受ける言われは……」
「俺が負けたらお前の言う事を何でも聞くぞ、なんでもだ」
またしても優男の否定を最後まで言わせず、
――っ!
尻込みする優男に向け、
騒がしかった荒くれ者共も思わず息を呑む内容だった。
「あと……そうだなぁ、勝負の方法は
鼻面を付き合わせたままの距離で、意地悪く、挑発的に笑う我が君。
「おおっ!やれやれ!」
「
いつの間にか周りの無頼達も巻き込んで場は大いに盛り上がっていた。
「……う……むむっ」
――これだ!
私のウットリとした視界は、必然的に我が君で占められていた。
「ほ、本当に……何でも聞いて頂けるので?」
ある意味観念したのだろう、
「お前の予測通り命懸けの任務を頼むんだ、
そして――
こういう時、私の
「ふふ……ふ……なるほど、成る程、成る程」
色白の優男はドタンッ!と、
後ろに両手を着いてからグッと仰け反って天井を仰ぐ。
――その姿は、心なしか……なんだか楽しそうにも見えて
「ではでは……
そして、その優男……
――こ、この無礼な優男……
その異様な迫力に、思わず私はゴクリと唾を飲む。
「……」
それほどまでに、この男の雰囲気は豹変したのだ。
「そうですな、この
――はっ!?
私はその瞬間、完全に頭が真っ白になった。
「な……な……」
そして咄嗟に言葉も出ない。
「ふふん」
対して、試すような、いやらしい視線を向ける
そして肝心の……
「わかった」
短くそう答えられた。
――な!?なな!!
「ふふ、それは
返答を確認した
極上の愉悦に細められ、どんな美酒にも不可能な陶酔の底にて
第四話「賭場と剃刀」前編 END
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます