第115話「違和感」後編(改訂版)
第二話「違和感」後編
「ああ、そうだった。
斯くして
「……」
俺の説明を大人しく聞く
一通り説明を終えた後、俺はふと気になった事を聞いてみる。
「ところで
「そうねぇ、約束通り
ポニーテールの女は笑みを浮かべて懐からそっと長方形の紙束を出した。
「なるほど……てか、相変わらず変なところで律儀だな、
あの病室で交わした約束通り、俺は
――つまり、半ば脅しのような方法で片付けた
それは、一昔前ならいざ知らず、今や
「けど誕生日って……もう二ヶ月以上前だけどなぁ」
俺はそう言いながらも目前の気怠げ女から”誕生祝い”らしいその紙束を受け取って中身を……
「…………」
――中身を?
「おい、これってお前?」
渡されてみて気づいたが、その紙束は書状であり所々に血の染みに彩られていたのだ。
「ふふ、晴れて
明らかに眉を
――血染めの書状って、笑って渡すモノなのか?
いや、
「……」
暫し、それに目を通す俺。
――
果たしてそこに書かれていたのは数十人の名前と何らかの指令に対する報告であり、宛先は大国
それが血塗れで尚且つこの女の手にあると言うことは……
つまり
――血の報復
この瞬間も俺の目の前で愉しそうに微笑んでいる
いやもっと正確に言えば……
喧嘩を売ったのは
「お前な、幾ら今まで腹に据えかねていたからって……」
「
諫めると言うより呆れて出た俺の言葉を最後まで待たずに即応するポニテ美女。
――ちっ!
そうしない?……他国による間者への対応という意味か?
「”
咄嗟に俺はそう答えそうになり、慌てて言い直す。
やはり油断も隙も無い女だ、
――
実際、形は違うが
当然”それなり”に対処はしているが……
「それは今は関係無いだろうが」
悪びれずに俺を見据えている女を俺は睨んでいた。
――全く、幾ら俺と
「サイカくんも、もう十八なのねぇ。ふぅん、これで十八歳未満お断りの”いかがわしい店”にも大手を振って入れるわねぇ?」
「…………は?」
――こ、この女?都合が悪くなって急に話題を変な方向へ……
というか、それは”近代国家世界”での常識でこの”戦国世界”では関係無いだろうに。
戦国世界では”成人年齢”は特に指定は無い、俺が戦場に出たのも十一の時だしな。
――改めて考えてみれば奇妙なことだが……
”近代国家世界”と”戦国世界”の倫理観はかなり乖離しているよな。
こう言った風習や慣例もそうだが、謂わば命の価値すらも……
そういうものだと、あまり気にもしてなかったがよくよく考えると世界は切り替わっても
――いったい
世界が二つの異なる世界に分断されたのは、もう数百年も前の事だが……
――なら、
「…………」
不思議な事に、俺の記憶にも知識にも、そういう関連情報は皆無だった。
というか……
”それ”が異質だと考えたことも無かった。
――いや、考えられないようになっていた?
「…………」
この不気味な違和感、なにかに似ていないか?
――そう……
――それは……
俺は不意に
――
”俺、会ってるんだよっ!!それも最近!くそっ、なんで今の今まで……”
”ちょ、ちょっと
あの時の会話でも俺は思った。
”何故だ!何故今までそれに結びつかなかった!”
と――
性別も年齢も似ても似つかないが、
――”不自然に顔を覆い隠した怪しい人物”
共通点はそれだけ……
たった”それだけ”なのに俺は、なんの根拠も無くそう確信出来たのだ。
なのに……
記憶と思考が全く繋がらなかった。
不自然なほどに……
――
そう……
これはあの時の違和感と同種だ。
「……」
――”
幾百、幾千、幾万、幾星霜を経ても、どんな場所でもあらゆる事を見抜く、何者でも無い
そして眼を抜く……
遙か昔、存在したという恐怖。
十二の邪眼を持つ災厄の魔獣”バシルガウ”を復活させる……いや、そのものである!
「……」
ならばこの世界は……
不自然に引き裂かれたこの世界とは……
――いいや!
一つのモノが二つに?
技術レベルに始まり、基本的価値観さえこれほどの齟齬が存在する世界が?
死さえ意味を成さない”近代国家世界”と
その世界の技術と知識、経験を以てしてもそれを成立し得ない”戦国世界”が?
「…………」
いや、つまりこれ――
この二つの世界という設定そのものが
――だとしたら、なんの為に?
五人の”魔眼の姫”達は、俺達はなんのためにこの別たれた世界に存在を……
そういう考えに至るのは、流石に俺の想像力が豊か過ぎるのだろうか?
「…………」
――
「そうそう!”十八歳未満お断り”と言えばぁ?何年か前の
「ぐはっ!」
思考の海へと意識を向けていた俺は、その女の”あっけらかん”とした言葉に強引に引き戻される。
――こ、この”
「い、いや……あれは……」
そして……
それに俺がこうも
――
俺達”小国群”はその都度駆り出され、大国にこき使われたものだが……
今、問題となるのはそういう事で無く、その地の特性が問題であった。
――”
戦争が多発する地故に真っ当な産業よりもそういった産業が栄えている。
主に兵士……男相手のそういう産業が……
――
「え?そんな……」
「いえ、
「う、うわぁ……少しショックですわ」
ヒソヒソと……
俺の耳に聞きたくない会話が入ってくる。
「くっ……
俺はなんとか反論を試みようとするが、
「そうねぇ、昔だわぁ……けど、認めるのね?」
――うっ!
気怠げな垂れ目の奥の、鋭い猛禽の
「お、俺は……」
別にやましい事など微塵も無い!?
無い……
ことは無いが……
だが、こんな時ほど君主たる者は堂々と!!
俺は君主として決意を固め、堂々と反撃する!
「あ、あれは
「…………」
決意を固めた堂々たる君主は
――ヒソヒソ……
「さ、
そして安易な欠席裁判に逃げようとする姑息な俺の方便に、同じ男である
――うぅ
「………………か、解散」
「は?
ガックリと肩を落とした俺の絞り出した言葉に、側近の
「だ・か・らぁ!解散!出発は明後日!怠るなよ!」
俺は少々逆ギレ気味にそう言い放つと有無を言わせぬ早さで立ち上がり、逃げるようにその場を後にしたのだった。
――くぅぅ……情けない
――おぼえてろよ!
――
そうして――
”
「ええ明後日……ね、怠りなく……”もう一つの用事”も済ませておくわね、君主様」
どこか意味深に
第二話「違和感」後編 END
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