第106話「情の深い独裁者」後編(改訂版)
第六十六話「情の深い独裁者」後編
ジャキッ!
妹ともいえる存在の少女が懇願を無視して、事を進める”
全うしたと、微塵も揺るがぬ決意で
振り上げ……
――
「磯の上に……」
――っ!!
小さく呟いた俺の言葉に、
彼女だけは……
俺は頭上で
「磯の上に……
そして独り呟く。
――何を手に入れても……
俺の視界には目の前で裁きを待つ
……そうだ。
――それを一緒に分かち合える相手がいないと意味が無い
「さい……か……さま……」
蒼白な顔になっていた少女の胸元に宛てられていた右手は、その時、キュッと強く握りしめられていた。
――俺はそういう”在り方”を選んだんだ!
「もう一度だけ言う、お前が決行した策をお前自身の口で話せ」
俺はそのままの体勢で今一度問う。
「その質問には既にお答えしたはずっ!!
案の定、馬鹿な男からは想定内の返事が返って……
「そうか、実際に反乱軍の陣容を見て”囮”を用いた策が有効と判断した訳だな、」
俺はそれに用意した応えを返す。
「!?」
「そうかそうか……現場指揮官として臨機応変な対応は認めるが、だが、かといって俺に無断での独断専行は明確な命令違反だ!
三文芝居とも言える応えを返す。
「な……なにを?……ですから……」
間抜け顔で俺を見上げる
何故なら俺が聞く耳を持たないから、
いや、それどころか
「…………」
「せ、せんせい?」
その様子を見守る
そして……
「……さいか……さま」
俺に
「
俺は足元からの、あくまでも自死を促すクソ真面目男の声に”はぁ”と、心底呆れた溜息を漏らした。
「ばぁか、
そしてそう茶化して、半分程になった刀身を
「なっ!?それなら刀を替えて……」
「だ・か・らぁっ!」
グイッ!
「くっ!?」
俺は
「俺は”
「!?」
「俺はな、戦国の世に生まれてきたからには、もっと高く飛ぶ!」
「……で、ですから……私は……」
――ほんと、クソ真面目な男だ、言わすなよこんな言葉
「俺は誰よりも高く高く飛ぶ!お前の言うところの”
「……」
俺は察しの悪い……いや、そういう生き方しか選択できない馬鹿で不器用でかけがえのない男に続けた。
「鳥はなぁ、
「ですがっ!それでは……」
「邪魔するなよなぁ、俺の片翼が俺の邪魔をしてどうする?」
「……」
床に
俺はそんな
「……ぐ、軍隊は規律無くしては成り立たない、公平な
「……」
独り言のように床と話す男に俺は答えない。
「私は……わ、たしは……耐えられないのです……貴方が……
「……」
――そうだな、
――それが本音だ
「……」
俺は目前の男から目線だけをチラリと移動して、それを見守る黒髪ショートカットの少女を見る。
――”家族”だ
「さいか……さま……私は……それが、我慢……できないので……」
途切れ途切れで”くぐもった”声は、
――ばぁか……ほんと
グイッ
「っ!?」
俺はその男の前で膝を着き、
「さい……か様?」
「余人なんぞ相手に今更惜しむ名かよ、俺の名はなんだ、
そして俺は、最早”大の男”としては見られた顔で無い相手に問う。
「!!……さい……
いっぱいいっぱいで……溢れる感情のままに、なんとかそう応える
「し、しかし……このままでは民も将も納得を……」
――ああ、しないだろう
――反乱者に死を
「
ホントに見るに堪えない顔だな、
それは、ボコボコに腫らした顔面。
いや、大の男が人前で”ぽろぽろ”と……
「……」
「……」
――だから俺は……
「
俺は能天気に言う。
そして不細工に加工された顔の男は……
なら、どうしたら良いのかと、更にその表情を曇らせたまま……
「だーかーらっ!お前は”反逆者”じゃなくて”命令違反者”だ!そんでもって、お前は二週間の独房入りと減給三割を六ヶ月……そんな感じだっ!」
俺はそんな不器用な男に”
「……む、無茶苦茶だ」
相変わらず
――そうだな、否定はしない。自分勝手で独善的な支配者だ
ならばと、俺は丁度良いとばかりに、その場に居合わせた面々に言い放つのだ。
「無茶苦茶?知らなかったのか?俺は”独裁者”なんだよ!」
と――
それを見上げる
再び
ただ――
「いい機会だ!よく聞け、親愛なる我が
俺は揚々と、さも得意げに宣言し、
「お、王さまぁぁ!!な、なんで王様は、わ、私との約束を毎回、毎回ぃぃっ!!」
――だった……て?
そこに突然乗り込んで来たのは予想外の人物!
”おっとり”お団子
「い、
!」
――いや……もとい、”鬼”のお団子女子だ!
鬼気迫る形相で俺に向けて走り寄る女の影!
「ちがっ……
その場を不敵に格好良く
「海は死にますかぁ!?山は死にますかぁ!?王様は死……死ぬんですかぁっ!!」
ズドォォ!!
「ぐほぉぁっ!!」
――意味わかんねぇぇ!!
後ずさりしようとした俺の胸に、
――意味が解らん……解らんが……躊躇の無い”鉄の四本貫手”だ
ヒビの入った肋骨をピンポイントに直撃する医者ならではの精密狙撃!!
「ぐはぁ……い、
すっかりドヤ顔だった”絶対的独裁者”
――”地獄突き”とは……よく言ったモノだ……ぐぅぅ……きゅうぅ……
パタリッ!
尻だけ高々と残して床にうつ伏せに張り付いた”尺取り虫”の如き無様な格好で崩れ落ちていた。
「い、医者の言うことには素直に従って下さいぃぃ!王様ぁっ!!」
「う……うぅ……ごめんなさい、か、勘弁して下さい……」
誰の指図も命令も受けない”絶対的独裁者”――
――
―
「え?え?きゃぁ!
「……さいか……ばか?」
「せ、先生ぃぃっ!!」
遠のく意識の中で、俺はそんな少女達の声を聞きながら……
「
挙げ句、終始して
「……」
そう――
”絶対的独裁者”とやらを気取った男の独裁政権はものの数十秒で崩壊したのだ。
それはまんま、数ある歴史の教訓、
”
を地で行く俺の姿であった……まる。
第六十六話「情の深い独裁者」後編 END
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