第107話「動乱の幕開け」―宗教国家”七峰”―(改訂版)

↓「神がかり!」六花 蛍のイラストです↓

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  第六十七話「動乱の幕開け」―宗教国家”七峰しちほう”―


 天都原あまつはら国王太子、藤桐ふじきり 光友みつともによる謀略により、 尾宇美おうみ城を舞台に展開された京極きょうごく 陽子はるこ排除の大包囲網戦が終息して二ヶ月……


 島国”あかつき”本州西の大国”天都原あまつはら”の実権はほぼ光友みつともが掌握するに至った。


 ――が


 その一方、一連の騒乱の渦中で新たに列強国に抗する新勢力が誕生する。


 ”あかつき”本州中央北部、”香賀美かがみ領”を拠点とする京極きょうごく 陽子はるこの”新政・天都原あまつはら


 ”あかつき”本州中央南部の外れ、半島の少領にある”恵千えち領”を拠点とする燐堂りんどう 雅彌みやびの”正統・旺帝おうてい


 そして……


 独立小国群のひとつで、今回、同列の小国群”赤目あかめ”を征服した臨海りんかい国。


 ”新政・天都原あまつはら”と”正統・旺帝おうてい”、更にその二国間を進軍し、東の最強国”旺帝おうてい”を目指す臨海りんかいは三国同盟を締結し両大国に挑む構えを見せていた。



 ――こうして長らく膠着状態が続いた”あかつき”に新たな局面の片鱗が垣間見えた時……


 列強諸国は蠢動を始め、胎動を経て躍動に転じる。


 何をか言わんや――

 であるが、大国諸国は、英傑は、時代は……結局のところ、


 ”屍山血河しざんけつが”を顧みず、”真の覇者たる覇者”を熱に浮かされた乙女の如きに切望する!



 戦国には指をくわえて傍観している様な”ゆう”は一人として存在しない。


 平安よりも動乱、”大戦”無くして乱れた天下は定まることなど有り得ない。


 ”あかつき”に覇を唱えようという英傑はそれ故に英傑たりえるのだと。


 藤桐ふじきり 光友みつともという”歪な英雄”が放った種火たねびは”群雄”という薪を間断なくべられ続け、時代をも巻き込んだ大炎たいかとなって大乱の新時代へ大きく動き出して行くのであった。



 ――

 ―


 宗教国家”七峰しちほう”……宗都、”鶴賀つるが”領にある七峰しちほう総本山”慈瑠院じりゅういん”の一室での事。


 「東外とが 真理奈まりなが既に”長州門ながすど”へと発って一週間よ……連絡は?」


 腰まである艶やかな長い黒髪が美しい色白の、如何いかにもな大和撫子がそう問う。


 「まだだよ……けど、壬橋みはし 尚明しょうめいの目を盗んで上手く長州門ながすどには辿り着けたのは確認済み、まぁね、相手はあの”覇王姫”だからねぇ、如何いか真理奈まりなちゃんでも一筋縄では……まぁ家宝は寝て待てってことで?」


 綺麗な姿勢で正座した大和撫子の隣で、同様に綺麗な正座をした男がそれに少し不真面目な口調で答えるが……


 「けんっ!なにを悠長なことをっ!”尾宇美城大包囲網戦さきのいくさ”で壬橋みはし 久嗣ひさつぐが大失態を演じ、奴も奴の私兵も動けない今こそが絶好の好機なのよっ!」


 途端に女の眉はピクリと反応し、白く端正な顔つきを赤く染めて怒鳴る。


 ――この大和撫子の名は、波紫野はしの 嬰美えいみという


 そして、どうやらこの乙女は、その淑やかな容姿からは想像し難いが中身は全く正反対の”直情タイプ”のようであった。


 「まぁねぇ……けど、真理奈まりなちゃんだし、なんとかしてくれるでしょ?……あ、あと、ガンちゃんも同行ついてっているわけだし、滅多なことは無いんじゃ無いかなぁ?」


 相手が見ため淑やかな乙女とはいえ、結構な迫力で怒鳴られた男は不真面目な雰囲気の表情かお維持キープしたままで、反省の微塵も無い返答する。


 ――そして、この人を食った”けん”と呼ばれる若い男……


 波紫野はしの けんは中性的な美形で一見して静かなインテリっぽい容姿であるが、その実、あけすけで馴れ馴れしい態度が絶妙のトッピングを施した一筋縄では量れない人物であった。


 「うぅ……待つだけって性に合わないわ」


 「あはは、嬰美えいみちゃんらしいねぇ」


 並んだ状態で綺麗な姿勢を保って正座するこの二人の左側には、ともに一振りの納刀された刀が置かれている。


 共に端正な顔立ちをしていて、性別が違えども容姿が中々に似ている二人。

 だがそれもそのはず……


 波紫野はしの 嬰美えいみ波紫野はしの けんは双子の姉弟、二卵性双生児の双子であって、共にこの宗教国家”七峰しちほう”に仕える神官家の出自だった。


 「エ、エイミちゃん、そんなに苛々いらいらしないで……きっと機会はあるから、大丈夫だよ、なんと言ってもエイミちゃんや波紫野はしのくん、”六神道ろくしんどう”のうち五家、六人も私の味方になってくれているんだから……」


 そして軽い口論を展開する男女の剣士が正座する間の最奥部、”板の間”の向こうに一段上がった畳の雛壇で、御簾みす越しに見える人影シルエットが慌てて二人を仲裁する。


 「勿論よてる、そして今回がその機会なの。次兄の壬橋みはし 久嗣ひさつぐ天都原あまつはら藤桐ふじきり 光友みつともの要請を密かに受けて勝手に私兵を出陣し大打撃、そしてそれを罰した長兄の壬橋みはし 尚明しょうめいは、それを利用する形で尾宇美おうみでの長州門ながすどの裏切りを、”粛正”の大義名分としての国へ侵攻した……この機を逃しては、てる、貴女を救出することは出来ないわ」


 「だよねぇ……現在いまこの”慈瑠院じりゅういん”の警備は手薄だ、ほたるちゃんを無事逃がして新天地で挙兵、長らく”七峰しちほう”を牛耳る悪の権化、”壬橋みはし三人衆”から支配権を奪還しなきゃね」


 先程までの口論は何処どこへやら、波紫野はしの姉弟は口々に一致した意見を述べて御簾みすの向こうの人影シルエット……少女へと改めて向き直る。


 「う……えと……はい……そだね」


 そしていつの間にか仲裁していたはずの少女が恐縮してそう答える立場に変わっていた。


 「まぁね、どちらにしろ、この七峰しちほうで”壬橋みはし三人衆”を敵に回すなら他国の支援は必要不可欠だよ、長州門ながすどの”覇王姫”か、天都原あまつはらの”歪な英雄”あたりが妥当だけども……」


 「皮肉ね、我が七峰しちほうが仇敵の長州門ながすど天都原あまつはらの助力を得ねばならないなんて……」


 弟の言葉に、波紫野はしの 嬰美えいみは整った眉をひそめて呟く。


 「そんなもんだよ戦国の世なんて……で、僕たちは交渉相手に長州門ながすどの”覇王姫”ことペリカ・ルシアノ=ニトゥを選んだわけだけども……」


 長州門ながすど天都原あまつはら。どちらも敵対国家ではあるが、そもそもここ最近の七峰しちほうを取り巻く国際情勢は、この国を不当に牛耳る”壬橋みはし三人衆”によるもの。


 国権を本来の国主たる立場である”神代じんだい”の六花むつのはな てるが回復すれば話は幾分違ってくる。


 そして同じ険悪な国というならば、まだ人間的に信用のおける長州門ながすどの”覇王姫”の方が適任だ。


 野望を隠すこと無く、手段も選ばない藤桐ふじきり 光友みつとものやり方は、尾宇美おうみ城大包囲網戦を見れば明らかで、そう言う事なら、多少強引で”武”を多用する長州門ながすどのペリカ・ルシアノ=ニトゥの方が解りやすく御しやすい。


 ”六神道ろくしんどう”と呼ばれる、本来は七峰しちほうで歴代の”神代じんだい”を支えてきた六家の神官家はそう考えて今回、決起したのだった。


 「で、ほたるちゃん、この宗都、”鶴賀つるが”を出ての行き先なんだけど……」


 そして波紫野はしの けん御簾みすの向こうの少女にそう説明を始めた矢先だった。


 ――ガラッ


 ドサッ!ドサッ!


 「っ!?」


 部屋の襖が不躾に開け放たれ、二人ほどの男が放り込まれた。


 「……」


 「……」


 その二人の男は武装した兵士……だが既に意識は完全に無い。


 「ちょっと、神代じんだいの御前よ!」


 「あ、はは……相変わらずだね」


 波紫野はしの姉弟は座ったまま動じること無く、開け放たれた襖付近を見てそう言い、


 「あっ!あっ!朔太郎さくたろうくんっ!!お帰りっ!!」


 御簾みすの向こうの……


 いや、さっきまで御簾みすの向こうに鎮座していた神代じんだいの少女は勢いよく飛びだして、無作法に入室した男に駆け寄る。


 「ちょ、てる……お行儀が……」


 男の乱入にも姿勢ひとつ乱さなかった波紫野はしの 嬰美えいみが慌てた様子で少女を窘め、その隣で波紫野はしの けんが苦笑いする。


 「あ……あはは、ごめんねエイミちゃん、えへへ」


 厳かな御簾みすの向こうから現れた少女の姿は……


 部屋に差し込む光を集めサラサラとゆれ輝く栗色の髪が美しく、毛先をカールさせたショートボブが愛らしい容姿によく似合っていた。


 ちょこんとした可愛らしい鼻と綻んだ桃の花のように淡い香りがしそうな優しい唇、大きめの潤んだ瞳は少し垂れぎみであり、そこから上目遣いに青年を伺う様子はなんとも男の保護的欲求がそそられる魅力がある。


 最早、誰の異論も挟む余地の無い美少女であろうが、どこか頼りなげな仕草と雰囲気から、美女という表現よりも可愛らしい少女の印象が一際強い少女。


 「ね、ね、朔太郎さくたろうくん、この人達って?」


 不審者を連れて不躾に現れた男に”神代じんだい”の少女は人懐っこい表情で問いながら男のすぐ傍で笑っていた。


 「……侵入者だ、とりあえず無力化したが、”六神道おまえ”ら大丈夫かよ?」


 ――無作法な乱入者の名は……折山おりやま 朔太郎さくたろう


 少し前から六花むつのはな てるの傍に控える謎の男だ。


 「う……うるさいわね」


 「いやぁ……”六神道ろくしんどう”も”壬橋みはし三人衆”に長らく抑えられていたから人手が不足してるんだよ、あはは」


 波紫野はしの 嬰美えいみはばつが悪そうに男を睨み、波紫野はしの けんは”あはは”と軽薄に笑う。


 「で、さくちゃんはどうして?見ないと思ったら見回り兵の真似事をしてくれてたのかい?」


 そして気を取り直してそう聞くけんにぶっきらぼうな青年、折山おりやま 朔太郎さくたろうは答えた。


 「東外とが 真理奈まりなの使者から連絡だ、準備は整った……と」


 「……」


 「……」


 その言葉を聞いた姉弟の顔は一瞬で引き締まり、


 「あ……い、いよいよ……なんだ」


 六花むつのはな てるはそれを告げたぶっきらぼうな青年を見上げながら、緊張気味に呟いたのだった。


 第六十七話「動乱の幕開け」―宗教国家”七峰しちほう”― END


*第二部も纏めの残り数話となりました。

今回は三部に向けての宗教国家”七峰”側のプロローグ的なお話でした。

そして遂に別作品「神がかり!」の主人公、折山 朔太郎くんと六神道が本格参戦致します。

自分の全作品の中でも個人戦闘力最強の男、”くだらねぇ”が口癖の無愛想男、朔太郎くんの活躍に

作者的にも期待しています。

そして今回の扉絵は「神がかり!」の蛍ちゃんイラストです。

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