第108話「動乱の幕開け」―藤桐・天都原―(改訂版)
第六十八話「動乱の幕開け」―
本州と
本州中央南部の大国にして最古の歴史を誇る
この由緒正しき、”
対して防衛する
もとより
――
それを、当時の
「未だ首を差し出さぬか?
海上に
要塞の天守から軍船で埋め尽くされた海を眺めてある男は呟く。
両大国を分断する海峡に浮かぶ小島、
――難攻不落の”
永らく
「
自分の呟きに応えた中年家臣の軽い言葉に、男は海上にやっていた鋭い視線を移動させて再び問うた。
「例の如く抗議か?」
「えっ……あ、はい、”約定違反”だと、性懲りも無く三度目の使者であります!」
鋭い視線と自信に満ちた口元、身に
そしてそれこそが、この若き男を”生まれながらの英雄”と認識させるに足る、
「……約定」
男の名は……
大国
事実上、現在の
「約定?……ふん、
「は、はっ!
先の戦にて二国間で締結された停戦条約には、三年間の不可侵条約が記述されていた。
だが、現実には
そして当然あるべき
当時彼女は紛れもなく王の委任を受けた国の代表者。
当然、この不可侵条約も国と国との約定に違いない。
……だが、
それは通常ならば許されざるべき行い。
世界情勢が、各国がそれを許さない……はずであったが……
「
国際的に非難されようと、孤立しようと、そんなものは力でねじ伏せれば良い。
最終的に力を示せる者こそが世界の秩序であり、正義だ。
絶対的実力者に弱者は媚び
とどのつまり……
孤立して滅びるのは、いつも正論を吐くだけの無能者。
無論、彼の行動は
――この
根拠になるとは言い難い自信だが、それを実現させるのがこの男……
無理をねじ込み道理を粉砕する、”歪な英雄”
「で、では、さっそく総攻撃の指示を……」
主君の命令で、心労により実年齢よりもずっと老けて見える中年家臣、
ダダダッ!
横暴なる王が支配する空間に兵士が転がり込むように入って来た。
「報告っ!至急、殿下……閣下にご報告をっ!!」
「なんだ騒々しい、閣下の御前であるぞ……」
傍若無人な主の機嫌を損ねてはと、
「
――っ!?
その一言で、その場は静まりかえる……
そして――
ゾクリッ!!
「か、閣下……」
「ひ、ひぃっ!」
見る間に殺気に染まっていく空間で、冷たい汗が一気に吹き出していた。
「…………………………
「へっ!?」
「
凍り付いた空間で、思いのほか静かに放たれた絶対的支配者の言葉に兵士は間抜けな返事をして、そして……我に返る。
「は、はい……いっ!?ぐはぁぁっ!」
ガラガラガシャァァーーン!!
応えるや否や、兵士はそのまま蹴り飛ばされ、後ろの棚に激突していた。
「か……閣下?」
「ふ……ふぅ……はぁ……」
その光景を見送り、震える
「大戦直後で……邪魔者共を
「お、落ち着いて下さい、閣下……
しかし
少なくともこの気苦労が多い中年の家臣よりは。
「
「……か、閣下?」
「手こずりそうな
如何に虚を突かれ格下相手に領土を失ったとて、
短絡的に大軍を派遣し、前線を刺激しては元も子もない。
そもそも
なにより自国の北部、西部には
だからこそ、先ずは
最強と
そして、海軍の養成地たる”
「既に”
「は、はい……
中年家臣は慌ててそう答える。
――他国まで名を轟かす”
その二人に連なる”知”の
「陸戦隊戦士養成機関と言われる”
「はっ、軍艦二百隻、総兵力一万二千にて、
「ならば
「はっ!閣下の予想通り、
続けざまの主君の問いに
「ふふん、なら良い」
「……」
納得顔の主に
「解らぬか
「それは……」
何故ならそれは完全なる筋違い。
――裏切った者がその相手を恨んで攻め込む?
それに屈して配下に収まった、
弱肉強食は戦国の世の習わし。
――それを……
「
「……か、閣下」
主の見せる冷たい表情に、
「裏切り者の残虐さと理不尽さ……これで俺の所業は薄れる。世間の噂などどうでも良いが、これ以降やり易くするにはこういうのも処方のひとつだと思わんか?毒は毒の中に放りこんでこそ紛れる!」
「
「まぁ、どちらにしろこれで
圧倒的な自分本位と傍若無人……
それは長年付き従った家臣にして言葉を失うほどの恐るべき資質。
「か、閣下……
「今は捨て置け、先ずは西方を固める!!
「は、はっ!」
気苦労の多い中年家臣は完全に納得したのだ。
そしてそれを罰した長兄の
弟の失態を直ぐさま国政に活かす手腕は、
最前線で指揮を執るばかりが名将では無い。
こうして状況を創り出し、それを効率良く行うのも将の、司令官の資質で、そう言う意味では
が――
やはり特筆すべきは主君、
それをも利用し、
それはもしかしたら、あの得体の知れない参謀……
――この御方は英雄……”歪な”などと揶揄されてはいるが……
――正真正銘の英雄なのだ!
と、
「ふふん」
実のところ
――
――ならば精々、
「
「……か、閣下、
「ん……?」
ほくそ笑んだ表情でボソリと独り呟く
そして、何度目かの問いかけにようやく自分を見た主君に改めて問う。
「では、
「……」
歪な英雄の眼光は静かにギラついた光りを取り戻す。
「……斬れ」
こうして
第六十八話「動乱の幕開け」―
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