第92話「いつだって……」後編(改訂版)
第五十二話「いつだって……」後編
それから程なく戦端は開かれ――
ワァァァァッーー!!
ワァァァァッーー!!
「敵、
「優勢っ!!戦況は優勢ですっ!」
馬上にて、次々と入る興奮気味な報告を聞いていた男はゆっくりと頷く。
「うむ……」
顔面に斜めにひとつ、そして反対の角度でもう一つ。
つまり顔の中央に見事な十字傷の入った、歳の頃は五十台半ばである男はその後に独り言のように呟いた。
「矢張り、度重なる戦と遠征で十分に兵が機能していないか?」
最初にお互い率いる軍同士が正面から対峙した時、バッテン傷の将は
――
”
お互いが横長の方陣に隊を構築し、僅かばかりの距離を取って
城を持つ守備側で有りながら諸事情から野戦選択を余儀なくされた
本来の能力を発揮できない足枷を抱えた両陣営が、”正面決戦での圧倒的な勝利!”という共通の軍事目標を掲げた結果であった。
――その力を城に残る諸将と兵士達に見せつけて、今後の支持を獲得すること!
その為にはお互いの優劣をキッチリと示す必要があるのだ。
――
「我が軍優勢っ!優勢です!」
「……」
兵士の声を聞きながら、バッテン傷の経験豊富な将は直ぐ先を算段する。
――陣形は同じ横幅を持たせた方陣、しかし敵は
――現に目前の
「敵軍を見ろっ!疲労と準備不足、そこから来る士気の低さ!多々の理由にて連携の甘さからくる隊列の乱れは明白だっ!一気に畳みかけるっ!」
おおおおおぉぉぉぉっ!!!!
おおおおおぉぉぉぉっ!!!!
総指揮官の勇猛果敢な姿に、更に勢いを増した
ズドドドドォォーー!!
怒濤の如き
「くっ!持ち堪えられない……左翼部隊下がりなさい!但し秩序を維持して下がるのです!」
銀縁眼鏡をかけた美女、
「崩れたぞっ!敵左翼部分だ!一気に
その隙を見逃さない
ドドドドドドドッ!!
ワァァァッーー!!
ドドドドドドドッ!!
「うらぁぁっ!」
ギィィーーン!
「死ねぇぇっ!」
ガキィィィーーン!!
崩れゆく
最強国”
突破力と機動力で圧倒的優位性を誇る兵科である騎馬兵に置いて
平地での純粋なる力比べ、こう言う状況になった時に
ギャリィィーーン!
ガシィィンッ!
「くっ!はっ!……まだ、まだですっ!」
下がる自隊の後ろから火の出るような猛攻をかけられ続けながらも、自ら
ドドドドドドドッ!!
ワァァァッーー!!
「やあぁっーー!」
ガキィィッ!
しかし、ひび割れたグラスを
――くっ……流石、音に聞こえし
ドドドドドドドッ!!
「っ!?」
そして程なく――
ギャリィィーーン!!
「くっ!」
敵味方が入り乱れ、混乱する密集地帯で、
奮戦していた
――シュォォーーン!!
そうになった瞬間、その聞き慣れない異音が響いたっ!
「うがぁぁっ!」
「ぎゃふっ!!」
「がふぉっ!」
その直後に、幾つもの悲鳴が重なり合って聞こえる。
「…………」
異音と共に閃光が走り、周辺一帯の視界が一瞬で奪われた。
後に響く悲鳴の数々と、そして目映い輝きの後に徐々に復帰していく世界に銀縁眼鏡のレンズ越しに瞳を細めた
「なっ……」
「うわっ!」
驚愕する
「間に合いましたか」
――
「な、なんだ……」
「こ、これは……」
突入してきた
何が起こったのか?落馬して既に動かない兵士が数人と……
馬上にて健在ながらも”それ”の存在を目の当たりにし、微動だに出来ない残りの
「い、いったい……なにが?」
そして蝋人形の如く固まった兵士の一人が、
プシュゥゥーー!
シュォォーー!
そこには……異形の二人の姿があった。
ギギギ……
ガガァァ……
二人の異形の人間?……いいや、違うっ!
明らかに”人影”とは違う!
それは”二体”の得体の知れない影!
キュイィーーン
シュゴォォー
軽く二メートルは越えるであろう人型の影……
そう、人型……ひと目見て人で無いと理解出来る人型の造形物。
見上げる程の高さのズングリムックリとした白銀の体躯だ。
シュゴォォー
シュゴォォー
人なら関節に当たる部分の隙間などからピコピコと
「は、
異形の頭部には、二つの円形のレンズの
「おぉっ!?……こ、これはまさか……
「独眼竜……
実物を見たことが無い者も、その兵器の恐怖は認識していた。
そう……
それは――
――
「
二体在る”
「
「これはな、量産機で廉価バージョンだが、それなりだぞ」
兵士の問いかけには答えず、素っ気ない眼鏡を装着した右目が義眼の青年は笑う。
「貴様ぁぁーー!」
「恥知らずがぁっ!」
暫し呆けていた
ブウオォーーン!
途端に、
――バキィィッ!
「ぎゃっ!」
――ドカァァッ!
「がはっ!」
騎乗した馬ごとに数騎が彼方へ飛んで行って大地に打ちつけられる!
「やぁぁーー!」
「とぉぉっ!!」
――バキンッ!
――ガキンッ!
そして別の
ブゥオォォーーン!!
「ひっ!」
「ぎゃっ!」
そして、彼らの末路は同軍の先達と全く同じ……
異形の回転した蛇腹状の腕が再び大蛇のように
「うっ……」
「バケ……モノ……」
二体の
残りの
「…………後は任せます、予定通り私は他へ回りますので」
一度は手放した槍を再び手に、馬に乗った銀縁眼鏡の美女はいつの間にか義眼の男の近くに寄せてそう囁き……そしてそのまま離脱して行く。
「ああ、あっちには三体在るはずだ、
頷いた義眼の青年はそれを見送って、既に遠ざかる背に声をかける。
――
「忙しい事だな……実に勤勉だよ」
そうだけ呟いて、義眼の青年、
「えぇと、ここは通行止めだ」
シュオォーーン!
シュオォーーン!
主の言葉に二体在る
「貴様……
憎々しげに自分を睨む兵士達に、
「あと、一方通行だったりしてな」
――っ!?
一瞬、意味不明の言葉に顔を見合わせた
――おおおおおぉぉぉぉっ!!!!
――おおおおおぉぉぉぉっ!!!!
突如湧き上がる
同時に、
既に蹴散らしたはずの
「なっ!?なんだとぉぉ!」
思わず絶叫する
「ぎゃっ!」
「ぐびゃっ!」
前後左右、後背……
囲まれ
――
「”迷宮封殺陣”って言ってたか……恐ろしい男だよ、鈴原……いや、鈴木
殲滅され行く
ドドドドッ!!
血塗れで半ば曲がった槍を手に迫る
「貴様ぁぁっ!!ほむらぁぁっ!裏切り者がぁぁっ!!」
様子を眺めていた
「……」
だが、
「し、死ねぇ!…………ぎゃっ!!」
しかし兵士の決死の心意気は、”
勇姿の骸は二つに千切れて地ベタに落ち、そして直ぐに乱戦の渦中で混乱する味方の騎馬に揉みくちゃに潰される。
「…………ひとつだけ訂正をしておくけどな、俺は何一つとして裏切ってはいない。最初に”
――そうだ……
――俺が、
――
そして、
「…………」
普段の彼からは想像し難い”熱き炎”を内包し、並並ならぬ決意を刻んでいた。
第五十二話「いつだって……」後編 END
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