第81話「武運対武運(パラドックス)」後編
第四十一話「
「お?素直だにゃー、包帯おば……」
ザシュゥゥーー!!
「けぇぇーーっ!?」
ガシャンッ!!
歩み出たドレスの貴婦人が突然放った蹴りに、ツインテール娘は仰け反ってその場に尻餅を着いた。
「ちっ……しっぱい」
蹴りを放った貴婦人……
いや、三白眼少女の口元は嫌そうに歪み、直ぐに太ももまで露出した蹴り足を下げること無く、もう一度天高く振り上げるっ!
ブワァッ!!
その先に伸びる黒ヒールがつま先にギラつく仕込み刃を煌めかせ、弧を描いて足を――
「ぎっ!ひゃぁぁーー!!」
それを確認した
「だ、大丈夫ですかっ!
ガキィィィーーン!
――カラカラン……
振り下ろされた”死神の鎌”は、兵士の分厚い鎧の背中に弾かれ火花を散らし、切っ先が折れて彼方へ飛んで行く!
「ちっ!……ちっちっちっ!」
蹴りを放った一見大人しそうな少女の口元は露骨に不機嫌に歪んで、間髪入れずにその足を――
シャキン!
「なっ!?う、うわわっ!!」
ヒュオン!
今度は
「させるかぁっ!!」
だがその一撃にも、別の護衛兵士が咄嗟に対応する!
ドンッ!!
「っ!?」
ドレス姿の
ズザザザァァーー!!
大柄で屈強な戦士と年端もいかない小柄な少女……
衝突の結果は火を見るより明らかで、
「この!
「この期に及んで無駄な抵抗をするかっ!」
未だ床に転がったままの
「まぁ……そう上手くはいかないよなぁ」
俺は目前で威嚇してくる四人の屈強な護衛兵達だけでは無い、その後ろにもわんさかと詰め寄せる敵兵士達に視線を向けながら頭をかいていた。
「き、きさみゃーー!!その娘っ、
安全地帯ですっかり息を吹き返したツインテール娘は、ガチャガチャと自らが着込んだ鎧を持て余しながらも立ち上がり、両手をバタバタさせて独特の抗議をしてくる。
「年端もいかないって……お前に言われてもなぁ」
面白ツインテール娘に呆れた顔でそう反論しながらも……
俺は密かに、そっと後ろの”黒頭巾侍女”の前に重なるように移動する。
「ぬ、ぬぅ?にゃにを言っているのだ”包帯お化け”!私は十八歳の
「…………は?」
相手に悟られぬように、正面の敵兵達から庇うように、
”黒頭巾侍女”の前に移動していた俺は、そのツインテール娘の信じ難い台詞に思考が一瞬停止した。
「は?ではないぞ!
「う、うそだろぉぉっ!?……てか、年上!?いやいや……ありえない、こんな幼女が……」
俺にしてみれば青天の霹靂!
今日一番の驚きだ。
「だっ誰が幼女かぁぁーー!!」
「
「
”がるがる”と唾を飛ばして今にも飛びかかって来そうな娘を、味方の護衛兵士達が必死に抑えていた。
「その……す、鈴木殿と言ったか?どうやら貴殿には
そして、滅茶苦茶に暴れるちびっ子上官を四人の屈強な部下達は悪戦苦闘でなだめながらも、そのうちの一人が俺に改めて問い直してくる。
――子守も大変だな……
俺はそんな感想を抱きながらも、相手の問いかけに包帯から露出した口元を歪ませて笑った。
「差し出す訳がないだろう。お前等はまんまと”
「……そうか」
ジャキ!
「仕方在るまい」
ジャキ!
「なら……やるかぁ」
ジャキ!
「お仕事、お仕事……」
ジャキ!
俺の
「はは、解りやすいな、後は
俺は口元の笑みを継続させながら、”黒頭巾侍女”を背に庇いつつ、目視で相手との距離を測る。
「鈴木殿、流石にこの状況で誘き出したもないものだろう?」
「その物騒な娘が
そう言って兵士達が視線を向けるのは……
「……」
俺の後ろに重なって立つ黒頭巾の侍女。
「なんでそう思う?まんまと偽の餌に誘き出されたとは考えないのか?」
構わず挑発を続ける俺に、兵士は左右に首を振って俺達を見据えたままこう言った。
「貴殿は我が隊長の強運を
「…………」
――なるほど……やはり”
――
「そうなのだぁーー!!はっはぁーーっ!?がっ!がはっ!ごほっ……はっ……うぇっ」
「ちょっ、
「だ、誰が……がはっごほっ……も、もとこ……げはっ!ぐふぁっ……
部下の言葉にツインテール娘が仰け反って高笑いし、またもや咳き込んで部下に介抱される。
「…………」
命を賭した戦場での馬鹿らしくなる光景に……
ほんと、馬鹿らしくなる程の強運娘に……
俺はスッと
――そうだ……驚くべき強運、いや天運だ……確かに本物の
どう足掻いても、反則級の異能者、
危険すぎる対処法だ。
――だが、そこまでのリスクを負わなければならないほどの相手……
自らの隊を窮地に陥れるような罠を回避する”異質”すぎる”武運”
自らの隊が狙いを定めた獲物へと確実に辿り着く”神がかり的”な”武運”
この二つはどんな戦国武将でも喉から手が出るほど欲する天賦だろう。
そんな”最強の天賦”を二つとも……
有り得ない
生まれ持った才能だけで言うなら他を圧倒する破格の天賦を所持する
――とはいえ……
「…………武運ね」
俺はそっと
開いた視界には、多くの兵が狭い部屋で俺たちを包囲する状況……
そして、いつの間にか……
石造りの床、壁、その合わせ目の幾つもの隙間から少しずつ……
漏れ出る煙。
――とはいえ、結構上手くいくものだなぁ……
俺は視覚と嗅覚で”それ”を確認してほくそ笑む。
「なら、一つ聞くが……”身を滅ぼす罠”と”討つべき
「……え?」
「はぁ……?」
俺の問いかけにその場の者達は間抜けに顔を見合わせる。
「えっと……それは……」
「み、身の安全だろ?普通……」
「そ、そうか……けど、敵を倒すのが一番の目的で……」
「いやいや……そもそもそんな矛盾した状況が有り得るのか?」
そうして、俺のややこしい問いかけにザワザワと混乱する兵士達の足下からは、先ほどよりも濃い白煙が……
「おっ!?」
「お、おい?……なんか眼がしみるっていうか……」
「おお?……なんかこの部屋煙たくない?」
「…………」
そろそろ、”
「馬鹿者共!そんなこと有るわけ無いのだっ!正しいことは一つしかないから正しいのだっ!」
別の意味で騒がしくなる室内で、ひとり欠片も違和感を感じていないだろうツインテール娘が、先程の俺の質問に対する答えを仁王立ちしたまま勝ち誇って返す。
「……ふっ」
俺は待ってましたとばかりに、その解答にニヤリと笑った。
「そうとも言えんぞ、”最高の回避運”対”最強の的中運”!そういうのを世間では”
そしてそのまま、隣に戻っていた
「し、死ね!死ね!死ね!死ね!シネ!シネ!シネ!シネ!しねっ!しねぇぇっ!」
”
そして、ブワァッと
ウズウズと我慢の限界まで達していた三白眼娘の狂気が牙を剥いたのだ!
――てか、恥じらいというモノはないのか……
「うっうわぁぁーー!!なのだっ!!」
「も、
「
無論、周りを囲む護衛兵士達は、頭を抱えるツインテール少女をすかさず一斉に庇う!
――その隙に……
「ちょっとだけ怖い思いをさせるぞ、
ガシッ!!
俺は背後の”黒頭巾侍女”を抱きかかえて後方の窓から一気に外へ飛び出していた。
「しょっ、正気か!この高さで……」
「ぬっ!た、隊長!煙が!これはっ!!」
時既に遅し……
その頃には部屋中に存分に黒煙が充満していた!
ゴォォォーーーー!!
「ひっ!ひぃぃーー!!」
塔の下から猛烈な勢いの炎が巻き上がっていた!
「うそっ!うそっ!うそだぁぁーー!!ペリカ姉さまぁぁーー!!」
ゴォォォーー!!
そして瞬く間に火の回った
ズドドォォォォーーーーン!!
やがて倒壊して瓦礫と化したのであった。
第四十一話「
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