第82話「前夜」前編(改訂版)
第四十二話「前夜」前編
「
「いや……ゼーゼー……あれしか……ハーハー……脱出方法が……ゼーゼー……なか……ハーハー……無かったから……」
「あらあら……」
長い髪をアップに
「ああ……サンキュ……ハーハー……けど……」
俺こと鈴木
全身水浸しで……
禄に着替えもせず……
司令室の椅子に腰掛けて、既に水を吸って雑巾のようになったタオルを女性に渡す俺は司令室に居る士官たちの注目の的……
「…………」
「…………」
では……やはり無かった。
相変わらず誰も目を合わせてくれない。
不自然に俺から目を
「…………」
無理も無い……
ただでさえ得体の知れない顔面包帯男が席を外したかと思ったらずぶ濡れで帰還。
そして、主戦場の作戦指揮に出向いたかと思うとそのまま北第三塔へ……
更に、再び戻ったときはまたもやずぶ濡れ……
やっぱいやだ、こんな上官の下で働くのは嫌すぎるだろう。
”なんで出て行く度にずぶ濡れなんだこのひと?”
”てか、もうこのひと、そういう趣味なのでは?”
あからさまに忙しそうに動いて俺を無視する司令室諸君の心の声が聞こえてきそうだ。
俺はなんとも言えぬ疎外感の中、唯一そんな男に微笑みかけて甲斐甲斐しく世話をしてくれる女性に視線を戻した。
――
「けど、
ようやく息の整ってきた俺の言葉に、目前の
「ふふふ、普通死に……」
「いや!皆までいうなっ!」
俺はなんだか不快な
自らが振った話題にも拘わらず”その会話”を強制終了させていた。
「あら?ふふふ」
「…………」
――しかし……やはりというか、いつも通りなんて良い笑顔なんだ……
相も変わらずの
「お顔、不快でしょう?別室で巻き直しましょう」
微笑んだ女神は……
ほんと、ちょっとだけ得体が知れない性格を除けば、実に気が利く良い
「ああ……けど、その前にやっておくことがある」
俺は勿論、顔にベッタリと張り付いた布がこれ以上無いくらいに気持ち悪くはあったが、やはり今回もそれより優先度の高い用事があった。
「でだ、えーと、皆揃っていると思うが……」
真剣な顔になった俺は、今までの流れをとんと無視して視線を移動させる。
――
眼前の長大な作戦テーブルの席に腰掛けている”面々”にそう確認する。
司令室中央に設置された大テーブルの上にある
それを囲む様に座る五人の”
「……大体揃っているわ」
俺の正面に座る女、簡易的な金属製の
「あははっ、コントはもう終わり?」
その右隣、緊張感の少し欠けた飄々とした雰囲気の三つ編みの剣士、
「負傷治療中の
そして
「……クッ……クフフ…………」
更にその横で……
俺と同じく濡れ鼠のまま、“にへらぁぁ”と意味不明に
「…………」
あと、何故か言葉無くじっと俺の顔を凝視する……前回とは百八十度態度の違う、くせっ毛のショートカットにそばかす顔の少女、
「どうした?
俺のする事に一番口うるさい
――ガタッ!
「っ!?なっなんですか?……べ、べつに、なんにもありませんよ!ええ!ありませんともっ!……う、うぅ……」
ビクリと過剰反応した少女は椅子の背に背中をぶつけ、アタフタとしどろもどろで意味不明な言い訳をする。
――なんだ?……サッパリ解らんな、
「そ、それよりっ!!指揮官を集めて緊急会議だなんて……わ、私はそれの方の説明を要求しますっ!」
そして取って付けたように、そう俺を問い詰めてくる。
「
「
”
「う……うぅ」
赤い顔で俯く
――謎だ……
「えっと、そうだな……今回、皆を緊急招集したのは……」
謎だが……
俺は取りあえずそれは些細などうでも良い事だと置いて、話を進めることにした。
ガチャッ!!
「き、貴様ぁぁっ!!このっ!鈴原
途端に、司令室のドアが乱暴に開いたかと思うと、そこから抜き身の剣を振り上げた状態のけたたましい女が鬼の形相で飛び込んで来るっ!!
シュォンッ!
「うっ!うわっ!?」
ガキィィーーン!!
首筋に狙いを向けた一閃!!
俺は咄嗟に腰の刀を抜いてそれを防ぐ!
「な、なんだ!!いきなりっ!?
――ギ……ギリギリ……
「ちっ!小賢しい……だが……」
――ギリリ……
「ぐっ!」
――ほ、本気か?……おいおい
必死で刃を押し返しつつ、俺がその血走った眼を見てそう確信した時だった……
ババッ!
「うわっ!」
「なっ!?」
意外すぎる人物の乱入に、俺と
「あ、危ないだろう、
「
お互い距離を取った俺と
刃を手に、
現在は距離を取って対峙する俺と
「…………」
澄んだ叡智を秘めた瞳の少女、
第四十二話「前夜」前編 END
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