第77話「武者斬姫 弐」後編(改訂版)
第三十七話「
「ぬ?損ねたか……なら」
目前には馬上で剣を構えた男が一人。
細身ながら鍛え込まれた引き締まった体つきで、長めの黒髪を雑に
見据えられた肌がピリピリするほどの、危険極まりない
それは数多の戦場を経験してきた”
「…………」
極度の疲労と全身傷だらけという瀕死の状態で彼女は折れた剣を構えて男を見据えるが……
――ゾクリッ!
疲労で意識と感覚の鈍った
――死……神?……いいえ、……お……に
突然現れ、
「…………」
「…………」
お互いの剣越しに睨み合う二人。
しかし各々の手にある”
「…………」
だが……
たったひとつだけ理解出来る事があるとすれば……
――それは自分の命がどうやらこれまでと言うこと
戦場で鳴らした彼女故に男の構えを見ただけで理解出来る。
目前の”
”
――くぅ……
先ほどまで諦めへと向かっていた生への執着が、こんな形で他者により強制的に断ち切られる事になるとは……
「……っ……ふ……ふふっ」
――皮肉?……理不尽?……いいえ、滑稽だ
「ふふふ」
――可笑しくて……ただ可笑しくて……
「……」
――目前の鬼は急に笑い出す私を怪訝な目で見ているけれど……
生を諦めた私が、渇望した死を望みもしない馬の骨に強制的に与えられる。
死を喜劇と呼ぶのが不謹慎ならば、或いは
「ふふ……ふ……はっ!」
生命力と精神力が出尽くした”
ダダダッ!!
人生最後の輝きを求めて人馬一体となり跳躍したっ!
「む!?……捨て身?……是非も無しか」
「だから、待てって……
「!……承知」
ギィィィーーン!
ガシッ!
自暴自棄に不完全な剣を手に襲い掛かった
「くっ……き、貴様……」
馬上で
「こ、この……うぅ……ぅぅ……」
「…………」
既に叫ぶ事さえ出来ない女を至近にて冷たい瞳で見据える男。
そして――
「しかし、その状態で
馬を寄せて重なった二人に近づいて来る第三の騎影。
「…………」
煌びやかな
――お、王族?……それ……に……あの紋章は……たし……か……
鮮やかな紅地に
――あれ……は……たしか……
「
――閣下?……
「…………」
その時、
自分は
遂には
「随分な有様だが?……答えろ女、貴様は
尊大な態度で問い詰めて来るのは、本州の大国”
そして
その”
「閣下の問いに答えよ、女……」
ギリッ!
「うっ……」
瀕死で朦朧とする意識の中、思考する
「答えよ女」
――だったら……だったら、この物騒な男の正体も予測がつく……
――戦場の羅刹……鬼
「答えよ女っ!」
ギリリィィ!
「わ……たしは……
泥と血に汚れた端正な顔を痛みに歪ませて、
「
「…………」
いや、彼女にはもう受け答えが出来るほど体力も気力も残っていなかった。
「ふん、まぁ良いだろう。ここは
「…………ぅ……ぁ……」
この時既に
「死ぬのか?
「……ぅ……」
視界には既に光は殆ど届かなくなっていた。
「…………勿体ないな」
「閣下?」
そんな女の状態を眺めながら尊大な王太子は呟いた。
「あの状況でお前の剣を受けた、使えるかも知れん」
「………」
戦場の羅刹、
「まぁいい、俺の陣へ連れて行け。途中で死んだならその辺へうち捨てれば良いだけだ」
「…………」
尊大な男の命令で、遠巻きに見ていた部下らしい兵士の一団が、ピリついた雰囲気で一斉に動き、素早い動作で女を担いで馬から下ろしてから自隊の運搬用の馬に移し替えていく。
「……しかし閣下」
慌ただしく動く兵士達を眺めながら
「我が
王太子、
「初めて聞きましたが?」
「…………」
「
大真面目に返す腹心に、少しだけ困った顔の王太子は渡りに船とばかりに兵士の声に即座に反応する。
「よし!では行くぞ、帰還する!!」
「はっ!」
「…………」
兵士達が一斉に応える中、”戦場の羅刹”と呼ばれる男だけは、心持ち得心せぬ顔で主の背に続く。
――みつ……とも……
薄れ行く意識の中で、荷物のように雑に運ばれる自身を自覚しながら……
第三十七話「
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