第77話「武者斬姫 弐」前編(改訂版)
第三十七話「
その男が率いる
しかし、彼女の来訪を受けた”
――しかし……
ダンッ!ダンッ!ダンッ!
”
その領都”
ダンッ!ダンッ!ダンッ!
若い女は決して上品とは言い難い歩き方で……
いや、最早走っているといえる程の速度で、”ある者”の部屋に向かっていた。
ダンッ!ダンッ!ダンッ……
ガラッ!
そして目的の場所に到着した彼女は、挨拶も無しで襖を乱暴に開け放った!
「ぬっ!?」
部屋には女二人を
「…………」
行儀悪く部屋を訪れた若い女は、中で二人の女の膝枕に頭と足を投げ出して横になった中年男を睨み付ける。
「おぉ?
「我が故国、”
細く涼しい瞳にキリリとした口元、
「……ん?……ああ、あれはな……間に合わなんだのだ。援軍の手筈は整えておったのだがな……うむ、残念だ」
「っ!」
怒り心頭の
――信じられない……信じられない……このっ!
「くっ……」
目前の
そして今日、
「貴方は……貴方は私をまんまと騙して……」
怒りに震える
しかし、当の男から返ってきたのは更に信じられない言葉だった。
「滅んでしまったものは仕方が無いであろう?弱き者は消え去るのみ、弱肉強食の”
そして男の濁った目は、怒りに打ち震えて立ちすくむ
しかしその反面、しっとりとした乳白色の肌に、たっぷりと艶のある黒髪、薄い唇に紅を引いた様は年若い娘とは思えぬほどの得も言われぬ色気もあった。
「そんなことより、お主もこれで完全に行く当てが無くなった。俺との逢瀬を考えれば夫に合わせる顔もあるまい?今後は俺が囲ってやるからここに……」
そう言いながら、何の悪びれも無く寝転んだ自身の傍をポンポンと叩く。
「っ……っ!!」
その後は……
「このっ!!」
只、男の胸ぐらを掴んで殴り飛ばし……
無様に逃げ回る男の息の根を止めようと跳びかかる前に、隣室に控えていた護衛の兵士達に邪魔された。
そのまま、駆けつけた”
――
―
「…………」
着ている服の
「…………」
”
いや、
そう、
「…………」
興奮が冷め、ようやっと頭がハッキリとした
故国から遠く離れた土地勘の無い本州の地。
手持ちのものは何も無く、ただ傷ついた
どうしてこうなってしまったのか……
この数ヶ月間、自分は何をしてきたのか……
あの男……
――”お主もこれで行く当てもなくなった、俺との逢瀬を考えれば夫に合わせる顔もあるまい”
「夫?合わせる顔?……」
――不義の罪悪感?……あの男には……
――けれど……
「……」
――故国のためと耐えてきた事が全て……すべて……
――あの
「……」
震えるほど固く握りしめられる白い両の拳……
「いたっ!いたぞっ!!」
「あそこだっ!女が居たぞっ!!」
――っ!!
だが、彼女にはそうして自責の念に駆られている暇も無い。
すっかり暗くなった森の中までも追ってくる
「捕らえろっ!」
ドドドッ!!
馬を駆った兵士が数騎、捕り物用の長い棒と縄を振り回して駆け寄って来る!
ドシュッ!
「っ!」
先頭の騎馬が突き出した棒先を紙一重で
グイッ!
「うっうわぁぁ!」
兵士を馬上から引きずり落とす!
ザシャァァーー!
「……」
そして落馬した兵士はそのままに、
ヒヒィィーーン!
奪い取った捕り物棒を馬上で構え、続く
「がっ!」
「ぐはっ!」
「ぎゃぁ!」
――
瞬く間に残兵を打ち倒し、そのまま走り去る血塗れボロ衣装の女。
ダダダッダダダッ!
ダダダッダダダッ!
「はぁはぁはぁ……」
ダダダッ…………
「はぁはぁ……」
ダダッ……
夜の闇は次第に深くなり、そして空はやがて白み出す……
ダダッ……
「はぁはぁ……」
そしてまた暗くなって日が昇る……
あれからもうどれだけ走っただろうか?
どれだけの時間が経っただろうか?
ダダダッ!ダダダッ!
「はぁはぁはぁ……」
最初は何度も追っ手に襲われたが、その都度なんとか逃れた。
そして少し前からは追っ手が現れることも無くなった。
ダダダッ!ダダダッ!
――自分が
ダダダッダダダ……
「はぁはぁはぁ……」
――自分が何を成せば良いのか解らない。
ダダダッダダ……
「はぁはぁ……」
故国は滅び、命を賭したほどの使命を失った。
ダダダ……
「はぁ……は…………」
ダ…………
やがて馬の足は止まり……
彼女は馬上で項垂れたまま。
「…………」
それは極度の疲労からくる姿勢なのか?
それとも打ち拉がれた
ブブルッ……
疲弊した馬の足はもう棒のように硬直し、彼はもうこれ以上一歩も動く気が無いようだ。
「……はぁはぁはぁ」
傷ついた全身、疲れ切った
右も左も解らない異国の地で、
「……はぁ……はぁ……」
項垂れた背中が呼吸の出し入れに上下する以外、女は動くのを止めた。
「はぁ……はぁ…………もぅ……いい……か」
小さく呟くと、女は
シュォォーーン!!
「っ!?」
ガキィィィーーン!!
馬上で遂に力尽きようとしていた
「くっ……なっ!?」
半ば閉じられようとしていた瞳の直前で激しい火花が散り、
突然降りかかった白刃らしき攻撃を咄嗟に剣で弾いた
「…………」
意味も解らずに
第三十七話「
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