第73話「麒麟児と神童」後編(改訂版)
第三十三話「麒麟児と神童」後編
――
「うわぁ性格悪いなぁ……というか、えげつないね、ねぇ?」
まるで他人事のように笑って隣の中年騎士にそう言う、この軍の最高指揮官。
「いや、笑い事では……」
中年騎士は困り顔でそう返すが、
「そう?あの程度で混乱するようじゃあ、預かった
「
不用意な事を口走ろうとする主に、中年の家臣は珍しく声を荒げていた。
――多国籍軍で包囲した
その発起人である
「なんだよ
「自重されよ、若先生!お家の大事に
「……ちぇっ」
珍しく引くことのない中年騎士の眼光に
副官、
それ故、この飄々とした天才にしても、”若先生”と言う呼び方をする時の
だが、だからといって王太子たる
この
生粋の軍人家系である歴代
だがその分……こう言った脇の甘い部分があるのも事実で、政治的な話題や駆け引きには
王家の血を引く天才、
だが、紡ぎ出される神算鬼謀は文字通り”鬼策”……
状況によっては敵だけで無く味方の事情さえ顧みることが少なく、効率的に血の通わぬ氷の知略を操り勝利を得る。
怒りや恨み、焦りという悪感情に囚われずに善悪無く淡々と機械の如き正確さで策を実行する様は、純粋無垢にして恐怖の闇。
それ故に敵だけで無く味方にまで畏怖された
――そう考えれば、天才故の欠落……そういうものが在るのかもしれない……と
――いや、現在はそんなことより優先させねばならぬ事がある!
「そ、それよりも
「解ってるって……僕もね、やられっぱなしは嫌だからね、まぁそれが例え予測済みの結果でもなぁ」
窮状での打開策をせっつく部下に、
「よ、予測済みですとっ!?」
そして
この状況を読んでいた?
ならば何故……
普通ならそう驚くだろう。
「”
「はっ!直ちに合図を!」
そして、その兵士は直ぐに足早に何処かへと向かって行った。
「せ、
軽く混乱する
「なにね、あの包帯グルグル指揮官?あれを
そう言って、血生臭い戦場で悪戯っ子のように笑ったのだった。
――
―
――奇しくも……
「ぐわぁぁっ!!」
「と、突破っ!突破されましたぁぁっ!」
つまり、”俺の居る陣営”まで肉薄してきたのだ!
「どこだっ!戦場で女子供の下働きに勤しむ包帯男というのはっ!!」
俺直近の守備隊を造作も無く蹴散らしながら走り寄る一軍の将は……
「我が名は
通った鼻筋と鋭く切れ長の目……
体格良く剣を上段に構えて寄せ来る偉丈夫は、赤銅色の肌と燃えるような赤い
「…………」
――完全にやられたな……
俺は馬上にて、蹴散らされる護衛兵達を眺めながらそう思っていた。
敵の伏兵が通ってきたのは
――そうだ、敵は……敵将、
俺が何らかの手を講じ、乱れた陣形の間隙を縫う……
いや、その道を逆に辿れば本陣まで辿り着けると。
「ぐわぁぁっ!!」
「ぎゃぁっ!!」
とはいえ……こうも易く護衛兵士達を蹴散らして迫り来る一団は……
特にあの将たる男の剛勇ぶりは……
「”切り札”を持っていたのはお互い様ってか……」
馬上から迫り来る砂煙を眺めて呟く俺の背中には、久しぶりかもしれない……
この熱い戦場で、否が応でも死の感覚が研ぎ澄まされる、冷たい汗が流れていた。
「ぎゃっ!」
「ぐはぁぁっ!」
「お、お逃げ下さいっ!鈴木様っ!!」
「…………」
俺は馬上にて動かない。
「鈴木
――いや、だからもう遅い……だろ
ダダダ!!…………タッ……
俺の目前には――
「…………」
「…………」
既にその偉丈夫が乗馬する竜馬上で、獲物を見据える
「貴様が……鈴木
鍛え抜かれた五体に鬼気迫る武辺の
四方は……その武辺者が麾下の兵で囲まれている。
――比率にして敵兵、七に対して味方、三……というところか
俺は無言で周りの状況と目前の男を分析していた。
「答えろ、貴様が……」
「ああ、そうだ。俺が鈴木
そして、一呼吸後に応じた俺は、そのまま腰の”
――
―
二人の偉才がぶつかり合う戦場は、まだまだ予断を許さない状況であった。
第三十三話「麒麟児と神童」後編 END
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