第73話「麒麟児と神童」前編(改訂版)
第三十三話「麒麟児と神童」前編
――
「後続の
鈴木
わぁぁぁぁっー!わぁぁぁぁっー!!
ドドドドドドドッ!!
キィィン!ガキィィィーーン!!
兵士達の雄叫びが木霊し!
軍馬の
「ぎゃぁぁっ!」
「ぐはぁぁっ!」
そして、血生臭さと削れた鉄のぶつかり合う音……
そうだ――
「先ずは良し……だが、既に追い払った
俺がこうやって最前線にまで出張って直接指揮を
勿論その方が戦況をより把握できるからと言うのもあるが、その最大の理由は”ある男”に対処するためだった。
――
―
「”麗しの黒き美姫軍”!城門守備二部隊の間が閉ざされてしまいましたっ!?こ、これでは予定通り分断を試みるのは不可能ですっ!!」
処変わって
鈴木
既に撃退された
「早いね……なら両翼部隊で揺さぶりをかけよう。それで尚も密集するようなら包囲して削る事にするから」
兵士の報告を受け、馬上の優男は涼しい顔で頷いて対応策を出す。
「はっ、では直ちに!」
「……」
指示で直ぐにその場を離れ、馬を駆る伝令兵の背中を無邪気な笑顔で見送る青年将校。
整った容姿で、どことなく浮世離れした人物だ。
――
「良くやってるよね”包帯男くん”……けど、”小敵の
――
―
――またも場所は変わって、
「
俺は報告を聞きながら、眼を細めて先に見える軍馬達の砂煙を見ていた。
「そう来たか……だったら、こっちは
俺は大軍により側面を削られ、徐々に包囲されていく守備軍本隊を見ながら思案する。
「…………」
――なるほど、”十なれば即ちこれを囲み……”か
「現在、
俺は敵指揮官の胸中を推し量りつつも、数で劣る事が明白な自陣の中でさえ何故か口元に笑みが浮かんでいた。
――ここら辺で一手投じてみるか?
相手は
――”大軍に兵法無し”
それさえ済ませれば、大抵の場合に
「つれないじゃないか……」
――”
「す、鈴木様?」
俺の不敵な笑みを見て、指示待ち状態である兵士が気味悪気そうにしていた。
――窮地で笑う不気味な顔面包帯男ってか……そりゃ引くか
俺は部下の心情を理解してコホンと
「
「はっはい!!」
兵士は俺の命令を聞いてから姿勢を正し敬礼し、直ぐに馬で駆け去った。
「…………先ずは一手」
俺の視線、いや思考は、そんな些末に構わず最早、前方の戦場に飛んでいた。
――
”
それは、
――あの男は……
警戒以上の期待を胸に、”顔面包帯男”の唯一露出した双眸は変わらず遙か前方の戦場を眺めていたのだった。
――
―
「ぬうぅっ!!」
最前線で奮戦する老将、
その原因は彼の隊を
「ぎゃぁぁっ!!」
「うわぁぁっ!!」
次々と兵士達が倒れ、追い詰められた
「ぬぅぅ、正面左横、あの辺りが一番手薄だが……これは……」
いや考えるまでもない。
これは罠だろう。
敵軍を数で勝る大軍で包囲した場合、
それは追い詰めた鼠から死に物狂いの反撃を受けないための算段であり、敵を殲滅する手段でもある。
「死を賭して反撃してくる敵よりも、逃げる敵の方が遙かに対処は楽だろうて……」
逃げることが出来る……
敵に”生”という選択肢を与えることによって、味方の被害を最低限に抑えて殲滅する。
兵法に明るい者なら察することが出来る常套手段である。
「ぎゃっ!」
「ぐわぁぁっ!!」
――しかし、このままでは……
わぁぁぁぁっーー!!
わぁぁぁぁっーー!!
「…………是非も無しか」
座していても結果は同じと、老将が覚悟を決めた時だった。
「突き抜けろっ!!我が槍は
――
突如、
そして押し合うように兵士達がバタバタともんどり打って倒れていく!
「ぎゃぁぁっ!!」
「おぉぉぉっ!?」
密集した包囲陣の一部で
ヒヒィィーーン!!
騒ぎ立てる敵兵達が将棋倒しに折り重なった突破口から、突き抜けるように躍り込んできた一騎の騎影!
「
軽微な鎧を着込んだ女騎士の声は、先ほど包囲陣の外側から響いた声と同じだ。
スラリとした長身に長い黒髪を簡単に後ろで束ねた女騎士……
背筋がスッと伸びて凜とした女は、簡易的な金属製の
彼女の装備同様、率いる隊の陣容も防御を極限まで抑えた、速度のみを追求して突破力に特化した彼女の
大軍が用意した”罠”である部分を外からこじ開け、直ぐさま内部から反対方向へ突き抜けて行く遊撃隊の勇姿!
それは、僅か百騎程の軍勢が大河をも分断する一筋の光と成り得た瞬間であり、為し得たのは”
おおおおおぉぉぉぉっ!!
わぁぁぁっっーーー!!
この機に一気に息を吹き返した
「ぬぅっ!?」
ズザザァァッ!!
そして手綱を引き絞って愛馬を
「
「っ!?承知致しました!……仰せのままに」
「ぎゃっ!」
「戻ってきた!敵部隊が反転をぉぉっ!!」
敵将を包囲陣の中に閉じ込めた事で功を焦り、我先にと密集していた
「囲めっ!薄くて構わんっ!漏らさず囲めぃっ!!」
そして老練な将は、見劣りする兵数をものともしない用兵で敵軍を内へ内へと押しやって行く。
ガキィ!ガシャッ!
「おいっ!押すなよっ!剣先が当たって……」
「うわっ!やめっ……コケるって……」
ギリリッ!ドシャ!!
その兵数には不足すぎる空間で……
隊の統率どころか個々の剣さえ
「廻りなさい!止まることなく馬を駆り、渦を描いて中央へ押しやるのです!」
すかさず、キラリと銀縁フレームの眼鏡を光らせて
「ぎゃっ!」
「く、串刺しになるっ!入れ!おいっもっと中へ寄れよぉぉ!!」
ごった返す
――
「…………」
――
俺は心中で、俺の意図をいち早く汲み取って行動する老将を称えた。
――
だからこそ包囲戦を選択したのだろうが……
封じ込めた敵将、その首目当てに自然と武功を競い縮まる包囲陣。
頃合いに、敵が戦術上わざと手薄にしていた部分を外部からこじ開けて救出する、そして予期せぬ状況に焦った
結果……
大軍はその風体に不釣り合いな狭所に密集させられて
「滑稽だな、これだけ広い戦場であれほどの軍隊が利用できる
底意地の悪い笑みを浮かべる俺……”顔面包帯男”の呟きに、近くに居た
――まぁな、勿論これは”
ともあれ、大軍がより小隊に逆包囲されるという珍事はこうして起こったのだ。
――
「さぁ、これが俺の先制の一手だ!
第三十三話「麒麟児と神童」前編 END
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