第105話「通算成績」前編(改訂版)
第六十五話「通算成績」前編
俺がその広間に入った時、
――カツ、カツ、カツ……
「……」
光に溶け込んでしまいそうな
――カツ、カツ、カツ
武器は取り上げられてはいるものの……
通常の虜囚と違い拘束さえされていない
――カツ……
「
渇いた足音を響かせてそこまで歩いた俺は、立ち止まるとプラチナブロンドの少女にそう伝える。
「さいか…………うん、わかった」
そして、
「…………」
「…………」
広間ほぼ中央に佇む俺と、依然として正座し黙祷したかのような
更に数メートル離れた位置で俺達二人を見守る様に並んで立つ、
部屋を警備していた兵士達は入って直ぐに
「ほんと、
「……」
呟いた俺の言葉にも
「そう思わないか?
そして今度は明らかに問いかける俺に、坐した虜囚は……
「臣下の者が正しき忠節を尽くせるのは、その
目を閉じたまま……
スッと背筋を伸ばして正座したままの男はそう応えた。
――
本当に俺はそう思った。
「そうか……なら、お前はどうだ?
そして俺は続けて男の真意を問う。
――
その言葉に、主君たる
虜囚の
「主君に
――っ!!
その瞬間……
俺の背後で
――そうか……やはり言い逃れはしてくれないか……
俺は予測済みの”腹心の部下”の答えに溜息を
「俺には”裏切り者”の姿なんぞ
「……」
あくまで
「
「法は曲げるべきでは無いでしょう、特に軍隊は規律無くしては成り立たない。公平な
「くっ……」
鋭い切り返しだ。
ぐうの音も出ない辛辣かつ合理的な反論。
――”神ならざる人の身が国を治めるには法は曲げるべきでは無い、
俺自身が
だが……
「お前が決行した”策”をお前自身の口で話せ、そうすれば……」
――そうすれば……独断の罪だけで済ます事もあるいは可能
「未練がましいですよ、
「っ!!」
――
”謀叛は例外なく死罪です”……と、
――
”致命的裏切りに対するのは死罪、それを覆すことは専制君主制への挑戦といえる。絶対的支配者たらんとする者は時に非情さを”……と、
――そして
”主君に
「……」
――
――
皆が言う”それ”に殉じた。
裏切りに対する処罰、君子の君子たる器、民衆の上に立つ者として……
”そういう”世の
”
空虚な俺の両腕に、芯の無くなった少女の
力なく首の角度を落とした
「……」
――殺せ、殺せ、殺せ……
どうしてそんなに死にたがる?
どうして皆、俺の為だと死んで行く?
なぜ俺に殺させたがるんだっ!!
戦国の世の摂理?
秩序在る世界のために?
世界を統べるにはそれが……
「…………」
――腹が立つ……
――あぁ、腹が立つ!
それは誰であろうと”その壁”を越えられないという諦めだろう。
誰にも……
俺には無理だと!?
「…………」
――繰り返しだ
――ずっとずっと繰り返す……
だから腹が立つ。
決めつける奴等に、それを許容させる世界に……
腹が立って俺は……
「……」
シャキ!
「っ!」
「……」
「せ、先生!」
右手に持った刀、
シャラン!
「…………」
そして、完全に抜き放たれた自らの刀身を目の前に、
「…………腹が立つな」
俺は呟いて刀を振り上げる。
――腹が立つ……
――ああ、そうだ腹が立つ!
シュオン!
「っ!」
「……」
「ひっ!」
苛立つほどに殊勝に死を待ち続ける
――が立つ……を……断つっ!!
ガキィィィーーン!!
直後に視界いっぱいに激しい火花が飛び散り、俺の手の中にある刀の柄から伝わる衝撃で右手が震えた。
――”
――俺の愛刀”
だが!
「っ!?……
「……」
――刀という物は、どんな名刀でも所詮は鉄とその他の金属の合金……
硬い刀身はそれ故に使い手の技量が
標的に
角度と力加減、タイミング……どれも切断するには程遠い。
――そんな未熟者ならどんな名刀も”模造刀”と大差ない!
逆に言えば、それらを熟知して
ガシャン!
俺は痺れる右手に残った、
「…………」
それを無言で見つめる
「お前の刀だ、返してやるよ」
シャラン!
俺はそれだけ言うと、今度は自身の腰に装備した
「せ、先生っ!?」
俺の不可解な態度に、今度は
「……」
「……」
「綺麗事言うなよな、
俺はそう言いながら抜き放った切っ先を、未だ坐したままの男に向けたのだった。
第六十五話「通算成績」前編 END
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