第96話「顎髭男の善悪」前編(改訂版)
第五十六話「顎髭男の善悪」前編
戦国世界最終日、俺達はこうして
――
「こっちの用事は済んだ。
そう言いながら若い男……俺や
”
北に”
果ては北の島”
その”
「…………」
諸々の手続きに大忙しであったのだ。
「おい?聞いてるのか、俺は男にジッと見つめられる趣味は無いんだが……」
城内の大広間を急造の執務室に仕立て、俺は大量の書類の山と頻繁に出入りする各関係部署責任者の説明と対応に追われていたのだが、そこへ訪れたのは右目の光りが僅かに鈍い男……
「そんなのは俺にだって無い、俺だって愛でるなら可愛い女子……例えば」
来訪者を暫し観察していた俺は、遅まきながら気味の悪い疑惑をキッパリ否定し、
「おぅ、例えば……」
そしてそれを受けた
「
「
――っ!
「ぬ、ぬぅぅ」
「ちっ!」
俺達はお互いの理想をぶつけ合い、そして暫く無言で睨み合った。
「……おまえ、眼鏡の度数、変えたらどうだ?独眼竜!」
「ばーか、これは伊達だ、視力が悪いのはお前だろ?
「……」
「……」
――ぬぅぅ!なんて失礼な男だ、この
とは思ったが、どちらが真実かは直ぐに結果は出る事でもある。
この後、
本人達の意思はともかく、二人の
「失礼します!鈴木殿、ご指示通り国境の防備は警戒レベルを最大限に上げて対応しております、領内の巡回も強化して……」
「ご苦労様、隣接領や住民達に紛れているだろう他国の間者達にも分かりやすい位に物々しくやってくれ、暫くはそれ自体が牽制になる」
「はっ!」
「す、鈴木殿!統治権の委任にあたり、早急に目を通して頂きたい書類が……」
「お、おう……」
そして独眼竜にそんな下らない対抗意識を燃やしている俺には、休む間もなく
「たく、戦争は終わった後の方が本当の戦争だよなぁ……」
「まぁな……けど、それでも
そんな俺に、偽眼鏡くん……
「……」
――確かに……
戦争で”
そうして俺達は、
「しかし、お前……本当に大丈夫なのか?」
そんな事を考えながらも黙々と作業を続ける俺に
「なにが?」
俺はそれを気にも留めないといった感じで作業を続けた。
――
あの一騎打ちで……
”魔人”、
「…………いや、なんでもない」
それ以上応える気のない俺の心情を悟った偽眼鏡くんは、そっと書類の山を手に取り、頼んでもいないのに俺の作業を手伝い始めていた。
――
「……」
――俺の体は俺が一番解っている
――しかし、今は時間が惜しい……
無理は”する時”には”しない”と駄目なのだ。
「……」
「……」
やがて、それまで引っ切り無しで出入りしていた関係部署の者達も途切れがちになり、一息ついた時に俺は、お茶請け代わりに切り出した。
「……にしても、お前のあの異形の鋼鉄戦士……
準備不足が否めない今回の戦では背に腹は代えられず、その辺は有耶無耶のまま、
――
その上であの技術だ。
あの”
俺は良い機会だとばかりに興味をぶつけてみる。
「
今度は
――軍事機密というやつだろうか……確かに他人にペラペラと話すことではないな
「……」
そういう事ならと、俺が諦めかけた時だった。
「はぁ……つまりな……”確立されている既存の技術”じゃなけりゃ、この戦国世界でも存在できるってだけだ」
納得しない顔だった俺に、
「”既存の技術”じゃない……つまり
「そうだ。まぁ新しい”
「……」
――いやいや……驚天動地だ
この男はサラリと言うが、戦国世界と近代国家世界の”
存在する技術から派生する技術さえも、元々あった戦国世界の技術水準を超えるモノは実現しないのだから、新たな技術を確立するためには基礎から完全に創造する必要がある。
つまりこの
――既に”ひとつの文明”を創造したも同然!!
「…………」
俺は久しぶりに……本当に久しぶりに心の底から驚いていた。
「なんだ?俺の顔をじっと見て、さっきも言ったが俺にその趣味は無いぞ」
この男はそこまでして……そんな偉業を成し遂げてまで……
「おい、鈴原?」
黙り込む俺を怪訝そうに見る偽眼鏡……いや、
――それは、”たった独りの女”を救うために……か
「は……はははっ、俺はもしかしたらその趣味があるかも知れないなぁ!あはは……」
俺はそんな馬鹿な男を目の前にして、なんだか可笑しくなっていた。
「おい!
「はは、あははっ!」
――こんな所に俺と同じような馬鹿がいた!
なにやら楽しくなった俺は、文句を垂れる偽眼鏡くんの背をバシバシと叩き、俺は心の底から笑っていた。
「へ、変な奴だなぁ……てかお前の方はどうなんだよ?
俺に意味不明に背を叩かれ笑われた男は、それが居心地悪いのか……
話題を変えようと、そんな事を聞いてくる。
「ん?そうだな……」
確かに、こっちは”
俺は
第五十六話「顎髭男の善悪」前編 END
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