第94話「撃破」 前編(改訂版)
第五十四話「撃破」 前編
シュバッ!
シュバッ!
シュバッ!
十字傷の武人、
「くっ!」
「っ!」
「はっ!」
俺は馬上でそれを右に左に体をズラして
――尋常で無い速度だ……
穂先の銀色が”十文字”の原型で捉えることが出来ずに、銀の尾を引いて襲い来るっ!
だが、それでも俺は忙しく体を動かしながらも考えていた。
――避けきれない程の速度じゃ無い!
「よしっ!」
ダッ!
何段もの突きを
ドォンッ!
――っ!?
間合いを詰めた瞬間、十字傷の男は
ヒッヒィィーーンッ!!
「う、くそっ!」
「甘いわ小僧っ!」
シュバッ!
「くっ!」
ギィィーーン!
馬首ごと俺を串刺そうと伸びた槍先を、
ダダッ!
一旦、距離を取る!
「ほぅ、あの体勢で凌ぐか?鈴木
「……」
俺は応えずに剣を前面に備えた。
「良き面構えだ、鬼子よ」
「……」
一対一での闘いの本質は間合いの奪い合いだ。
敵の不得手とする間合いにて凌ぎ、己の得手とする間合いで決する!
”
長い槍が取り回しに苦労する近距離にて刃の交換を持続させる。
――それが俺の勝利に一番近いんだが……
ズチャッ!
俺の目前には顔面に十字傷の武人。
「さぁ!さぁ!更に参ろうぞ!
その百戦錬磨の面構えには微塵の油断も無く、握る得物には一切の躊躇も無い。
――流石は
実際、剣を交えて感じた。
――武術の腕は俺の方が上だっ!
――”
「…………」
だが、
厳然たる事実は……
”痺れた”指にしっかりと力を入れ直し、眼前に構えた
痺れた指先……想像以上に重い刺突、斬撃の数々。
この男に
「鈴木
ドシュッ!
再び
「くっ!」
――駄目だ……
シュバッ!
シュバッ!
シュバッ!
「戦場で思考するとは何たる
十字傷の武人、
「くっ!」
「っ!」
「はっ!」
――駄目だ!”これ”では駄目だっ!!
「
「ちぃっ!」
――全く参考にならないご意見、しっかりと”
「くはっ!」
勿論、俺にはそんな余裕は無い。
シュバッ!
シュバッ!
シュバッ!
――避けきれない速度じゃ無い、だが……
――大きく
中途半端な反撃では百戦錬磨のこの魔人は対処出来てしまう。
数多の戦場、幾多の死地にて生き残ってきただろう歴戦の武人には、あらゆる状況下での対応が身に染みこんでいるのだ!
シュバッ!
シュバッ!
シュバッ!
「くっ!」
「はっ」
「ふっ!」
――もっと小さく……コンパクトに……
シュバッ!
シュバッ!
シュバッ!
――紙一重で
「ちっ!」
「っ!」
ズバァァッーー
顔面を撫でた穂先が?の辺りの布を引き裂いただけでは飽き足らず、
包帯下から露出した自前の肌をもザックリと切り開いた後に、血飛沫を道連れにして後方へと抜けた!
――
ズシャァァ!
再び俺の胸元に向けて伸びる十文字槍の穂先!
――そう、無事に
その十文字刃が縦になって迫るのを俺の動体視力は確実に捉えていたのだ。
「……」
ハッキリと十の文字を象る穂先。
突き刺す尖端とは別に左右に伸びる水平の刃が地面に対し平行では無く、垂直に立った状態で迫り来る!
ズシュゥゥッーー!
――垂直に立つ十文字槍なら横幅が無い……
唸り来る穂先が胸に触れ、その力の
――
「ぬっ!?」
鋭い眼を見開く魔人。
奴には槍先が俺の体中をすり抜けたように見えただろう。
「面妖なっ!」
――だが実際は……掠っただけ!
軸によって回転する”滑車”を相手にするなら、
寸分違わぬ精度で中心を射貫かねば攻撃は空しく受け流されるだけ。
鋭い十字槍の穂先を胸に突き刺された瞬間に軸で受け流した俺は、そのまま敵の槍を後方へと送り、距離を詰めて――
ダダダッ!!
まんまと相手の眼前に、”
「ぬうぅぅっ!!」
唸る
俺はここぞとばかりに
ガシィィ!
「なっ……んだと!?」
しかし
「くっ……はぁ!
ギリリ……
「くっ!この……魔人」
”
俺の苦労を一瞬で台無しにする魔人、
ヤツは組み打ちの距離まで踏み込む事により、俺がヤツの槍をそうしたように、突き出した刀をやり過ごしたばかりか、そのまま剣を握った俺の右腕を自らの左の脇で挟んで
ギリリッ……
「くっ……は……このっ……」
――なんて戦馴れした男だ……ど……んな状況でも……対処してくる
ギリリリ……
「…………」
そして俺は見た。
お互いが馬をぶつけ合う距離の馬上で、刀を握った肘部分を魔人の左脇に挟まれ締め上げられたまま、至近距離から見上げた十字傷男の顔面は……
「終わりだ、鈴木
不敵にも笑っていたのだ。
「……」
刀を持った俺の右腕は動かせない。
――なら、左は……
「
ビシッ!
「なっ!?」
ギユルルルゥゥーー!!
俺の左脇に在る敵の槍の柄……それがドリルの様に激しく回転して暴れる。
――奴は何をした?
手中の槍の柄を指で弾いて回転させた?
――何のために?
ギユルルルゥゥーー!!
そう、一度はやり過ごす事に成功し、今は俺の後方にある”十文字槍の穂先”
ギラギラと、切り刻む道具特有の鈍い輝きを
――ゾクリッ!
背後から感じる冷たい刃の感覚に俺の背は震えた。
「ぬうぅぅぅっ!!」
器用にも、暴れる槍をそのままに後方へ動く男の右肘!
それは掘削機のドリルのように回転する槍先を一気に引き戻す為だ!
「くそっ!」
――冗談じゃ無いっ!
背後から舞い戻ってくるのは回転した十文字槍の横刃……
ギユルルルゥゥーー!!
それはプロペラ機の羽音に酷似する不快音を引き連れて背後から迫る!
「くっ!ぐっ……」
しかし俺はどうすることも出来ない。
お互いが胸を合わせて抱き合う様な格好のまま、刀を握った俺の右手は奴の左脇でガッシリと
ギユルルルゥゥーー!!
回転して戻ってくる旋風翼は骨肉砕く十文字槍。
十の文字を形取った刃は、先程
――ちっ……行きは良い良い帰りは怖い……ってかよっ!
最初からこれが目的か!?
それとも、この”旋風斬”さえも、この男の臨機応変さなのか!?
――
どちらにしても四の五の考えている暇は無いっ!!
「っ!」
ギユルルルゥゥーー!!
ガキッ!
ギ……ギギッ……ギギィィーー!
――
俺は自身の左脇下を通って戻ってくる槍の柄を、なんとか自由の利く左腕で挟み込み、
ギユルルルゥゥーー!!
その勢いは凄まじく、また右腕を封じられ体勢的に不十分な俺では……
ズシュゥゥッ!
「ぐはぁっ!」
それも空しく、俺の背には回転する十文字の横刃が深々と肉を
第五十四話「撃破」 前編 END
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