第21話「最嘉と緑茶とサイダー」 後編(改訂版)

↓京極 陽子&久鷹 雪白のカットです↓

https://kakuyomu.jp/users/hirosukehoo/news/1177354054892612224


 第二十一話「最嘉さいかと緑茶とサイダー」 後編


 ――仲が良いね、さいかとあの……まこと?


 俺は背後からの聞き覚えのある声に、冷めたコーヒーに口をつける寸前でゆっくりと目をつぶっていた。


 「いつから聞いていたんだ?雪白ゆきしろ……」


 「別に……」


 俺の背後に立っていた人物は……輝く白金プラチナの髪と瞳が眩しい美少女。


 「……おい?」


 俺は視線をやり、自然とツッコミの声をあげていた。


 何故ならそこには……


 胸の前にこれでもかと多種多様なドリンクの注がれたカップを積載したトレーを両手で持った天然純白美少女、久鷹くたか 雪白ゆきしろの姿があったから。


 「とても主君と家来の関係には見えなかった……なんか変」


 しかし彼女は、俺の声を普通に無視スルーして会話を続ける。


 「おまえな、ドリンクバーはお代わり自由だが一回にコップは一つだぞ」


 ならばと……俺もツッコミを継続してみた。


 「さいかは話をはぐらかすのがヘタだね……部下との馴れ合いはあまり良いとは言えない」


 ――よく言うな、俺の質問は、はぐらかす気満々のクセに……


 俺はそう不満に思いながらも、このままでは会話が一向に進まない事から、大人な俺は譲歩する事にした。


 「真琴まことは確かに部下だが従妹いとこでもあるし、ちょっとした幼なじみみたいなものでもある……別に変じゃないだろ?」


 「……」


 ――俺を見つめる白金プラチナの瞳

 ――幾万の星の大河の双瞳ひとみ


 「……さいかの大切なものって……真琴あれ?」


 ――大切なもの?


 少し長い沈黙の後、雪白ゆきしろはそう問いかけてくる。


 そうだった、確か”戦国世界あっち”側の那知なち城でそんなやり取りもあったっけ?


 ――”「それは、やっぱり……大事なもののため?」”


 雪白ゆきしろは確かにあの時そう聞いてきた。


 その言葉が、あの時の九郎江くろうえでの状況を雪白ゆきしろも理解しての言葉だろうと察した俺は、彼女の質問に頷いたのだったが、その時、雪白かのじょから帰ってきた反応は……


 ――”「…………そう」”


 そういった素っ気ない返事だったのを……彼女には珍しく、少しだけうれいを帯びた瞳だったのを……覚えている。


 確かにあの時の雪白ゆきしろは少し様子が変だった。

 いや、いつも変だけど、特にあの時は……


 「さいか?」


 いつまでも返事を返さない俺に雪白ゆきしろは再度声をかけてきていた。


 「そうだな……けど真琴まことだけじゃ無い、いちも他の者達も……俺は領主だからな、守るべき者達が多いのは当然だろ?」


 「当然じゃ無い、そんな事を本当に実践している領主なんていない。もっと大きい目的を果たすための駒……だから大切にもするけど、それはもっと欲しいものを手に入れるための道具だから」


 「えらくすさんだ考え方だな」


 雪白ゆきしろの示す現実的な回答に、俺はあえて茶化して応じた。


 「さいかはってるはずだよ……頭良いもの……なのに誤魔化してる」


 ――こういう時……鋭いよな、こいつ……


 「誤魔化していない」


 「誤魔化してる!自分を!……だからあんな危険な事をするんだ」


 ――危険……


 多分、この間の日乃ひのでの一連の戦いの事だろう。


 真琴まことのいる臨海りんかい領を助けるため、熊谷くまがや日限ひぎり軍を向かわせた。


 ただでさえ数少ない手勢を三つに分けた……

 確かに、これに関しては雪白ゆきしろの言うことが完全に正論だ。


 けど……


 「日乃ひのでのことは悪かった……雪白おまえもお前の白閃隊びゃくせんたいも危険な目に……」


 「違う!そうじゃ無くて……わたしが言いたいのは……」


 「……」


 ――解ってるよ……解っているから誤魔化したんだ


 「さいか、なんかおかしいよ……なんか歪んでる……そんなんじゃ絶対に死ぬ……」


 ――ははっ、同じようなことを昔、嘉深よしみにも言われたような……


 「わたしには理解できない……なんか……きもちわるい……」


 ――おおぅ?今日は結構、雄弁だな雪白おじょうさま


 「俺だって理解できないぞ、雪白ゆきしろ


 とは思いつつも、俺も反論を試みる。


 「!?」


 「おまえ、さっき臨海りんかい高校の屋上で、なんであんな態度とった?」


 「……態……度?」


 急に変化球を投げ込まれ、雪白ゆきしろは一瞬止まった。


 「わかってるだろ?真琴まことを焚きつけるような……俺に気があるような態度を……」


 「……それは……さいかのこと……気に入って……」


 改めて俺の言いたい事に気づいたお嬢様は……

 慌ててそう答える純白しろい少女の白金プラチナの瞳は……僅かに俺かられる。


 「嘘だな、それは無い」


 「……」


 だから俺は確信した。


 雪白ゆきしろは……久鷹くたか 雪白ゆきしろは……なにかに対して強烈な不満を持っている……


 いや、表現がいまいち適切で無いか?


 なにかに対して……絶対的な不安を抱いている……


 これの方がシックリくるな。


 「お前が俺に?どういう経緯で?少なくとも今の状況ではあり得ない。惚れるそんな要素は微塵も無かった……なにを企んでいるんだ?言って見ろよ」


 「そ、それは……」


 あからさまに不安な表情になる雪白ゆきしろ


 俺は徐々にだがわかってきた。


 彼女の仮面ポーカーフェイスを崩すのは簡単だ。


 人形を演じているのだろうか?……だが、人形になりきれていない。


 自ら感情の無い人形になりたくてそうしているのか?

 それともそうならざるを得なかった過去を持つのか……


 どちらにしても俺は……この時点で深入りしまいと思っていた雪白かのじょ個人的事情プライベートに踏み込んでしまっていたのかも知れない。


 「久鷹くたか 雪白ゆきしろ……お前、本当はどんな人間なんだ?何を隠している?」


 「……」


 雪白ゆきしろは黙ってしまった。


 積載量オーバーのトレーを両手に立ち尽くしたままだ。


 「……さいかは……歪んでる……きもちわるい……」


 そして、美しい眉間に影を落として、再びそうつぶやいた。


 ――あくまでも自分の事には黙りか


 なら……


 「おぉ、こんな美少女に面と向かって”きもちわるい”は中々にこたえるな……ゾクゾクしてクセになりそうだ」


 「っ!?」


 なら俺は、あくまで不敵に……不真面目に……対応するまでだ。


 「…………」


 雪白ゆきしろは……俺の反応を前に、更に不安そうな顔になって、遂に瞳をらす。


 ……俺の悪いクセだ。


 何故か敵意や嫌悪をあからさまに向けられると、逆に笑ってしまう……

 いや、わらってしまう。


 逆境に強い、場慣れしてるといえば聞こえが良いが、何のことは無い。

 少しばかり捻くれているだけだ。


 「雪白ゆきしろ……あのな……」


 「……」


 そう自認して、多少罪悪感が沸いたのか……

 俺はフォローを入れる。


 「今後、雪白ゆきしろが困ったときも……多分、お前に対しても、その”きもちわるい”事をするつもりだぞ、俺は……」


 「っ!」


 予想しない言葉だったのだろう。

 久鷹くたか 雪白ゆきしろはなんとも間抜けな表情かお此方こちらに視線を張り付かせて呆然としていた。


 ――ははっ……ほらな?


 俺は思わず間抜けな表情を晒す白金プラチナ姫を見て内心微笑む。


 彼女の仮面ポーカーフェイスを崩すのは簡単だろう?

 こういうところで、良い意味で人形になりきれていない。


 多少趣味が悪いかも知れないが、俺はその少女の反応がとても心地よかった。


 「なんだ?やっぱり”きもちわるい”か?」


 そして、驚いた顔のまま、坐した俺を見下ろす少女に問いかける。


 「わたしたちは……敵同士、一時的に利害が一致しているだけ……だから今は協力関係なだけ……最嘉あなたの言葉……よ」


 所々、たどたどしいながらも、雪白ゆきしろは聞き覚え……いや言った覚えのある言葉を口にした。


 「そうだな……」


 俺は今回の共闘で、目の前の雪白ゆきしろを説得するときにそう言った。


 意外と現実的リアリストな思考をする雪白かのじょには、そう言った方が信用されると判断したからだ。


 「敵だ、さいかと……わたし……だったら!……だったら……やっぱり、きもちわ……」


 「大切な”もの”は守る主義なんだ……」


 「っ!」


 雪白ゆきしろの驚いた表情は……中々に可愛い。

 普段が普段なだけに貴重だしな……って、これは趣味が悪いか。


 「俺はその前に、こうも言ったぞ……ここから先は一蓮托生、同じ目的を持つ者同士は握手するんだって……違うか?」


 揺れる雪白かのじょの心と白金プラチナの瞳……

 白い銀河が頼りなく瞬く美しい双瞳ひとみに、容赦無い俺は駄目を押す。


 「……わたしは……わたし……」


 「……」


 ――あんまり虐めすぎるのは良くないな……


 正味の所、今回は……まぁ、こんなものだろう。


 独り勝手に、そう区切りをつけた俺は……


 ガタッ!


 腰を上げ、相変わらず立ち尽くしたままの雪白ゆきしろが両手で持ったトレーの上に手を伸ばして、ヒョイとその中の一つを手に取った。


 「あっ……」


 不意を突かれ、驚く純白しろい少女。


 「お、これは、雪白おまえのオリジナルブレンドか?……緑茶とサイダーの……って、趣味悪いな」


 そう言いながらも、承諾も取らずに一口頂く。


 「おっ、むむっ……なんか……案外いけるな……本気マジか?」


 「……」


 そして勝手に評価までする俺を恨めしそうに見る白金プラチナに輝く幾万の星の大河の双瞳ひとみ


 「まぁ、あれだ……雪白ゆきしろ、今日はここまで。腹の探り合いは嫌いじゃ無いが、お前とは出来ればしたくない」


 「……」


 どうやら少し調子に乗りすぎたかも知れないと、俺は軽くフォローを入れてみるが……


 「そう思い詰めるなって、お前は俺の行動が理解出来ず気持ち悪いかも知れんが、俺達がこうやって付き合っている限りはいつか解り合える時も来るんじゃないか?」


 「付き合って……ない」


 相も変わらず、白金プラチナ姫はご機嫌斜めである。


 「いや、そう言う意味じゃなく……」


 「さいかはっ!」


 「ん?」


 ――コトッ


 なにか言いかけてから、雪白かのじょは積載量オーバーのトレイをようやくテーブルに置いた。


 「さいかは……やっぱり、食わせ者だ」


 ここに来て……負けじと言葉に変化をつけ、雪白かのじょなりに言い返したつもりなのだろう。


 「……うぅ」


 だが、残念ながらあまり上手くない……

 というか、こう言った遊びのあるやり取りとかは馴れていないのだろう。


 言った後も、雪白ゆきしろは視線を正面の俺からは少しらしがちで、自信なさげな……なんというか……年相応の……だから俺は余計な一言で追い打ちをかけてしまった。


 「おまえ、そんな顔もするんだなぁ」


 「っ!!…………う……うぅ………………ばか」


 輝く白金プラチナの髪と瞳の少女は、今にも消え入りそうな声で、今度は完全に俺から顔を背けたのだった。


 第二十一話「最嘉さいかと緑茶とサイダー」 後編 END

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