第22話「最嘉と背中の刃」(改訂版)
↓久鷹 雪白のイラストです↓
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第二十二話「
――
その報告を聞いたのは、俺が
「なにも
同行の部下がそう言ってくるが、俺は首を横に振った。
「直ぐそこだろう?なら報告を待つより見に行った方が早い」
「……では、護衛を二十人ほど用意致しますので暫し……」
「いや、賊は三人で、先行して包囲した
俺はそう言うが早いか、馬を飛ばして目的地に向かっていた。
ダダダッダダダッ……
そして俺の横で、ごく自然な事のように隣に馬をつけて走るのは……
「……」
「
――コクリ
併走しながらの俺の問いかけに頷く少女。
それと、現在、隣で馬を駆る
腹心の
そして入れ替わりに同じく腹心の鈴原
無事、
で、
「……」
――ほんと行動原理が謎だな
俺は隣で颯爽と風を切る、
まぁ、
その
俺はこの時、この剣を、流れ着いた漁船の行方不明になっていた輩が追い詰められて民家を占拠したという小事だと踏んでいた。
この後、これがとんでもない事態を招く事になるのだが……
正直、俺はこの時は、完全に油断をしていたのだった。
――
―
「
小さい漁村の
水瓶の上にどっかりと腰を下ろした行儀の悪い男が問いかける。
「どうでしょうな……
それを受けて、整った髭を蓄えた風格ある壮年の男が、壁際に張り付いた人物にそのまま質問内容を回した。
「……いや、今のところは見えんな」
所々、隙間の空いた民家の板張り壁から、鋭い視線を覗かせながら外を見張るスキンヘッドで無骨そうな男が……そう最終的には答えていた。
「ちっ、
最初に話題を振った、水瓶の上に行儀悪く片膝を立てた男は、舌打ちを交えた不満を零しながら宙に上げた足の裏同士をパンパンと打ち鳴らす。
「そもそも一国の領主たる者が、このような小事に自ら乗り込むとは思えぬが……」
板張り壁からギョロリと鋭い視線を外に向けたまま、スキンヘッドの男は呟く。
「
「ふん、
整った髭を蓄えた風格ある男の言葉に、水瓶の上の男は不機嫌に鼻を鳴らす。
瓶の上に座り、他の二人の男を従えた一風変わった男。
この行儀が成っていない男は、年の頃は二十代後半。
男としては小柄な
華奢ながらに”しなやか”な体つきは、見る者達に決して貧弱な印象は与えず、
そして風変わりなこの男の最たるものは、剥き出しの肩の上に大きく文字が書かれた縦長の軍旗を羽織っているという出で立ち。
――”
そう書かれた長物の軍旗は、
「まぁいいぜ、
長めの髪を後ろで
スッと通った鼻筋の……
「
瓶の上に座る
「それは”
「……」
冗談めかし、そう言う
――
―
「この民家に立て籠もっているのか?」
現場に到着した俺は、早々に小さい一軒家を遠巻きに取り囲んでいた
「はい、既に三時間ほどが経ちますが、未だ投降はして来ません」
「……」
遠巻きに包囲網を形成して囲む
俺は周りの状況を見渡してから再度尋ねた。
「踏み込めないのか?賊は三人だと聞いたが」
「も、申し訳ありません、二度ほど突入を試みたのですが……その……手強い
咎められると思ったのか、びくびくとしながら答える
「……」
なるほど、あの中の賊は中々に腕が立つらしい。
三人が三人共そうなのか、それとも今聞いたように一人が特別なのか、どちらにしても……
「只今、
だが、俺は兵士の言葉を最後まで聞かずに民家の方へ踏み出していた。
「す、鈴原様!?鈴原さ……」
慌てる兵士を顧みて、俺は右手を上げて軽く制する。
「ちょっと様子を見に行くだけだ」
「いや、しかしっ!危険です!君主様をそのような危険な所に行かせたとあっては……」
青い顔で俺に
「…………
俺は少々面倒だと、
「
効果は覿面!取り
そして、その兵士は
――無理も無いか……
「
俺は少々兵士に気の毒な事をしたと思ったが、今更なので、そのまま無理矢理納得させて民家に向かう。
一歩、一歩、砂を踏みしめ、目的の民家へ……
「?」
とそこで俺は気づいた。
「おい、
「……」
ここまで普通に付き
――おかしいな、いつもなら呼んでも無いのに付き纏う
「……あ、うん」
ざっざっ……
改めて、二人で目的の民家に向かうが……
――おかしい……どうも……様子が……
若干の違和感を感じながらも、民家の前まで辿り着いた俺は、扉ごしに中へ声をかけ――
「
――ようとした矢先、古びた板の扉越しに
「……」
俺は無言だった。
嫌な予感がする……いや、コレは既に確信だ。
――っ!?
しかし……俺の”嫌な予感”は遅すぎたようだった……
「……ちっ」
「周りの部下に問題ない旨を伝えた後、余計な事は一切せずに中に入れ」
「……」
板の扉越しから発せられる指示に俺は……従うしか無くなっていた。
「問題ない!中の者達と少し込み入った話がしたいから、お前らは暫くは動くなっ!」
指示通り、俺は大声で命令すると、なにやら訳が解らないと言う顔をする兵士達を遠巻きに置いたまま……
ガラッ……
俺は引き戸を開けて中に入っていったのだった。
―
――暗いな……
明るい外から締め切った室内に入った俺は、薄暗闇に目が慣れるまで少しかかる。
「……」
徐々に馴れる視界……
そして俺は狭い室内の周りを見渡す。
目の前には……
右斜め前に、整った髭を蓄えた風格ある壮年の男。
左斜め後ろに、スキンヘッドで愛想悪そうな男。
そして正面……
一番奥まった所で、土間に置かれた水瓶の上にドッカリと立て膝で腰を降ろす……
行儀の悪い女?
いや、小柄だが……男だ。
「よう来たぜよ、
そう言ってニヤリと意地悪そうに上げた口は赤味のある薄い唇だった。
「……
俺の質問に、女顔の男は再びゆっくりと笑った。
「なかなか従順じゃったの、
「……よく言う……なっ!」
俺はそう応えると同時に……
ババッ!
勢いよく振り返ると背中に当てられていた”刃物”を払いのけ――
ビュオン!
「ちっ!」
――られなかった……
実はこの民家の前に立った時から、ずっと俺の背中に当てられていた短刀は……
包囲する兵士達から死角になる様に宛がわれていた刃は……
俺の手刀をヒラリと躱し、そのまま振り向いた俺の喉元に突きつけられたのだ。
「くっ!」
鋭い切っ先が鈍く光りながら俺の咽へ向けられ、俺の
「…………」
そして……
そして……その刃の持ち主は黙ってまま……
初めて会った時の鉄面皮で……俺に対峙するのは……
――
「ははぁっ!無駄じゃ無駄!その人形に刃を突きつけられ、どうにかなる訳ないじゃろ」
ケラケラと笑いながら、女のような男は水瓶の横に立てかけてあった、長い竿の様な物を掴む。
――シュォォン!
まんま、釣りのようなストロークで、しかしオーバースローでは無くサイドスローでその長物を振り回す男女!
「くっ!」
そして
「……」
短剣をそっと仕舞い、半歩下がる少女。
俺の首筋には男女の鋭い切っ先が光っている。
――長いな……奴からは二メートル近く離れているはず……そこから届く……刃?
釣り竿のような長物は、どうやら刀であった。
竿のように長く、竿のように
「
俺の首筋に新たに刃をあてがった
「……」
ガチャリ!
俺の腰の剣が地面に落ちた。
無言で、無表情で……俺の腰の剣を外した
「ふん!」
その様子を確認し、鼻を鳴らす釣り師さながらなポーズの
「さあて、話し合おうぜ!
正面の
そして背後には、
割と解りやすい”絶体絶命”状態と言える。
「話し合いは
「……さもないと?」
情けない格好ながらそう言う俺に、笑みを浮かべたまま俺を値踏みする
「さもないと、お前を”釣り師”と呼ぶぞ」
「っ!!……くっ……くっ、くはははっ……ひゃははははぁ!」
「……」
瓶の上で片手に釣り竿
「ひゃ、はは……なんだそりゃ?
――面倒くさい状況になってしまった……
俺は自身の軽率な行動にそう後悔しながらも、諦めて先を促すしかない。
――そして俺の要望に応えないコイツは俺の好きに呼ぶ……
「じゃあ話を続けろよ、
「
――っ!?
「
――
――その名は無論
その中性的な容姿から、若い頃は姫武者と揶揄されてきたが、斯くしてその本質は一言で言うなら……繊細にして大胆不敵!
変わり者のうつけ者だと誹られても
「ようやく俺が誰か理解したようじゃの……
「
――
俺は疑心暗鬼のままだが、話は続けられる。
「げにまこと、おかしな事を聞くのう?
――変わり者の
自称、
「従うか、従わせるか……か」
答えた俺の言葉に
「流石話が早いの、
第二十二話「
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