第88話「空城と炎の檻」(改訂版)
第四十八話「空城と炎の檻」
天地創造からとは異なる歪んだ”
またも世界は切り替わり、舞台は再び血と鉄の匂いが席巻する”戦国世界へ”――
――
「な、なに!」
「ぬぅぅ……」
――ざわざわ……
大国”
王太子、
その彼女が立て籠もるはずの
「せ、
「…………」
ざわめきの中、
――世界が明けてから”戦国世界”二日目の朝……
火曜日の午後に包囲網戦参加国が続々と集結し、
――青地に”七つ剣”が重なった山脈の文様
それは宗教国家”
ババッ!
ババッ!
ババッ!
――っ!?
城壁上に大旗と共に整列した兵士達。
「ふふん……今頃、雁首揃えて到着とは、大国とは存外我ら”
戦場では場違いなほど高級な生地で
つり上がった細い目、薄い唇は歪んで口角を上げ……
四十半ばと言ったその男は、性格の悪さが滲み出たような嫌味な顔をしていた。
「あ……れは……」
その光景を仰ぎ見ていた
「
「何故?
――ざわっ……
「っ!」
そこでまた、城を包囲した群衆の中からざわめきが起こった。
場所は……
そこは
ザッザッザッ……
槍を掲げた武将が馬に乗って颯爽と自軍の前に出る。
男は黒い鎧兜姿に額から鼻まで覆った黒い仮面を装着し、露出した顎には立派な髭を蓄えている。
――”
「どういうつもりか!
その数は過去最大に膨れ上がり、城外の平野は三万以上の軍勢に達していた。
「どういう?ふはっ!
「ぬっ!……このっ……言わせておけば……狂信者めっ!」
「陥落ね……けど……」
他国二人のやり取りを遠巻きに眺めながら、整った容姿の爽やかでどことなく浮世離れした青年はグルリと周りを見渡す。
「
「城に火の手が微塵も無いし、城外、城内共に整然としすぎている……つまり新しい戦の痕跡は皆無ってことだよ」
「そ、それはつまり……」
主君の指摘に
「なにが”陥落せしめた”だ!この状況……貴様らは無人の城に押し入っただけのコソ泥!我らよりほんの僅かだけ先に戦場に到着しただけの空き巣
そして、どうやら
「コソ泥ぉっ!?言うに事欠いてこの異端がっ!!……ふん、臆病者の貴様らが何をほざくか、先に戦場へと導かれしは我ら”
「ぬぅぅ!」
「ふん、出し抜かれ者との会話などもう良い!それより……
「確かに一理あるね……僕たちは各々が先の戦いで”麗しの美姫軍”に撃退され、直後にすんなり城に退却した相手を不可解だと、警戒心のあまり早々に包囲する事を躊躇した」
「それは……確かに」
「慎重に期すぎて、包囲にほぼ二日を要した。つまり、そういう心理戦を利用した時間的猶予を手に入れた”麗しの”……いや、あの包帯男くんは、その間に”
「
「…………やっぱ、とんでもない食わせ者だね……それより」
そして、信じられぬという顔の部下を置いて
「せ、
「追うよ、陛下が居られるはずの”
「し、しかし……追うといっても何処に?……それに
「……」
「せ、
そして、答えを求める家臣に対してだろうか、そのままボソリと呟いたのだった。
「これは”空城”
ゴォォォォーーーー!!
ゴォォォォーーーー!!
「なっ!なにごとだっ!?」
「う、うわぁぁーー!!」
直後、
「くぅぅっ!一体何事だっ!あ、あつっ!うおおっ!!消せ、直ぐに消火せよっ!うわっ!い、いやっ!退路を!俺の退路を確保しろぉぉーー!!」
城を囲む堀付近から出火した炎はそのまま勢いを増し続け、天を焦がす程に燃えさかり、運悪く城壁上に陣取っていた
「これは”三十六計がうち空城の計”……いや、その応用か?」
城下の
「虚構で大軍勢を
続けてそう呟くが、
そして……
「
黒仮面の
――なに、構うまい……名目だけの張り子の若君など……
勝つためにはそれが最善、勝てば文句の言いようも無い。
ニヤリと含み笑いを浮かべた黒仮面は、グイッと槍を掲げる!
「敵は城を捨て逃亡した!だがこの戦はあくまで
堂々と号令を下し、
――
―
「
馬を併走させ、矢継ぎ早に質問攻めする中年騎士、
「まぁねぇ、足止めのつもりだろうけど、アレに引っかかるのは結構なバカ……あ、それはあの
優しげで整った顔立ちの青年は、馬上で軽く笑いながらスッと視線を
「予測できる行き先は二通り……でも、この状況、
「
「そうじゃない、
――
と、でも言いたそうな顔の
「包帯男……”
「
――っ!!
そして、その言葉を聞いた
「…………そ、それは……その、つまり……いや……流石にそれは……しかし……」
「ははは……と、それは
困惑する副官の顔を楽しげに見ていた
ザッザッザッ……
ザッザッザッ……
ふと、後ろを確認すれば……自分達と同様の進路を辿って来る
「わぁ、お尻にゾロゾロと付いてきたなぁ……」
それを確認した
どうもこの天才は先ほどから妙に上機嫌だ。
だが、これはつまり……
少なくとも、
「よ、
心配する
「戦争は大軍で戦う方が楽だろう?それに元々、
――ザッザッザッ……
――ザッザッザッ……
追撃のため進軍を続ける、
「…………」
「せ、
――
炎上中の
未だ燃える城が後背に見える、開けた平原で……
「そうか、足止めの本命は……こっちか」
終始、謎のご機嫌状態だった、整った顔立ちである青年の顔は僅かに曇る。
――
――果たしてそこには……
ざっと四千ほどの軍隊が進路を塞ぐように立ち塞がり、
その軍の軍旗は高らかに翻る!
――”一”の文字の下に三本の
その旗印は本州西の大国”
「ふふ……」
そして後背に数千の配下を率いた堂々たる将が、先頭の戦馬上で
情熱的な
その気高くも豪奢な将を形容出来る唯一の言葉は”戦場に燃え咲く一輪の
――革新の戦王としての彼女は、”覇王姫”
――そして戦場で畏怖されし御名は”紅蓮の
戦国最強の一角、戦姫、ペリカ・ルシアノ=ニトゥ。
少し癖のある燃えるような深紅の髪が、戦場を通り抜ける風に煽られ揺らめく様は燃えさかる炎を連想させ、透き通る肌に映える鮮烈な石榴の唇は勝ち気な微笑みを
「残念ね、仲良しごっこはもうお終い」
――高く高く……
巨大で、激しく、雄雄しい造形の覇者の拳。
「ここに来て裏切るのかい?……
対峙する
珍しく緊張した表情で、真意を問う。
彼の後門には激しく燃えさかる城、
前門にはそれさえも呑み込む紅蓮の姫。
――まさしくこれは……”炎の檻”
その堂々たる覇者の風格に正面から対峙し、
「ふっ」
「…………」
――ただ
――
――
ブワッ!!
目の覚めるような深紅の長い髪を風に
神話の右拳を掲げた圧倒的美貌の戦女神はそのまま
「さぁ、精強にして信愛なる
第四十八話「空城と炎の檻」END
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