第86話「狂人の交渉場(テリトリー)弐」前編(改訂版)
第四十六話「狂人の
「
――っ!?
放たれた
瞬く間に場を支配するに至った”覇王姫”の息苦しいまでの殺意による圧迫感!
我が
「
――
「…………」
ヒリヒリとピリ着く空気の中、俺はある違和感を感じていた。
殺気の大元である
強敵となると有無を言わさずに闘いを挑むような気性の女が……
俺にも愉しそうに突っかかって来た”戦闘狂”が……
これほどの”
「…………」
それは、まるで彼女の中になにか別の感情が存在するかのような……そんな
「
つい気になってしまい、俺はそう問いかけるが、
「知らない。はお……ひめ?」
「っ!!」
無表情に、興味無く、そう言い捨てる
――解る……それは
――俺も初対面では似たような感じで無下に切り捨てられたものだったからなぁ……
この”
「…………そうね、
そして、意外なほどアッサリと矛を仕舞った紅蓮の姫は……
「……」
――なんだ?
彼女の腹心たる”存在感の希薄な女”、アルトォーヌ・サレン=ロアノフに一瞬だけ、意味在り気な視線を送ってから、抜き放たれていた小刀を受け取る。
――
意味ありげな視線……
それが気になるにはなるが、今はそれより……
「…………」
ブォンーー
ドスッ!
小刀を振り上げて、机上の封書に勢いよく切っ先を突き立てるペリカ。
「なんの……つもりだ?」
俺はペリカが小刀を振り上げた一瞬に、即座に応戦しようとした血気盛んな
「…………」
ググッ……カッ!
ペリカは無言で、テーブルに突き立っていた刃を引き抜き、そしてその切っ先を天井に向けて持った。
勿論、紅蓮の姫が握る小刀の切っ先には、”
「ペリカ・ルシアノ=ニトゥ、だから何のつもりだ?答え…………おっ?」
――カツ、カツ……
ヒールを鳴らせて、紅蓮の姫は
大きめの会議用テーブルを廻って……
「あ、あの……ペリカ様、あの……困りま……」
――カツカツ…………カッ
そして
「……」
――
「……っ」
「
そして――
本来なら、丸く愛嬌のある瞳が細められ、おっとりした口元が一文字に締まった瞬間!俺は名を呼んで、髪を後頭部で団子に
「ふふ……」
「……」
――
俺はこの時改めて、
”紅蓮の
”
我が
”素手格闘”と”殺法”に限るなら、
つまり――
その二人の殺気を直前にて受けて、
この紅蓮の焔姫の紅き石榴の唇は優雅に微笑する!
「ペリカ・ルシアノ=ニトゥ……命のやり取りを所望か?」
――スゥ……
「っ!」
そして、またも俺の問いかけを無視した
手に持った小刀を顔の高さで示す。
それはまるで、戦場で槍の穂先に敵の首級を掲げる真似事のような格好だ。
「
「…………」
刃物を手に見下ろす紅蓮の
「一国を率いる王は、結ぶ相手の”格”を見定める器が必要なの、それが王自身の”格”でもあるわ」
言いながら覇王姫は、串刺しになった封筒の端を、小刀を握っていない方の白い指先二本で挟んで――
ズズッ……ズッ……ズッ
それを刀身の根元まで引き下ろす。
「
目前に立ち、抜き身の小刀を手に講釈を垂れる
俺はそんな女を前に立ち上がると、無造作に左手を伸ばしていた。
「あ、貴方?」
石榴の唇が驚きに形を変え、同時に真正面から俺の顔を見据える
「……」
「……」
俺が立ち上がった為、ほぼ同じ高さになった二人の王が視線は絡み合い、そして……訝しむ女の紅蓮の
「ぬぅっ!?」
「
覇王姫とは違い、彼女の部下二人は俺が何事を始めるのかと慌てていた。
「……」
俺は左手を開いた状態で手の平を下に……ギラつく切っ先の上にそれを
「お、王様?」
「……」
いや、それは我が
「…………」
だが、俺はそういう些細な事には構わない。
少しずつ高度を下げながら……
「
「……」
「どうだ?”
――
その瞬間、俺を見据えていた紅蓮の
「
試す……
それはつまり、覇王姫がついさっき口にした言葉そのもの。
――”一国を率いる王は、結ぶ相手の”格”を見定める器が必要、それが王自身の”格”でもある”
つまりは、
――ははっ、流石に勝手すぎる反論か?……けどな……
俺は覇王姫の答えを待たずに、
ゆっくりと……
「っ!?」
そして――
そこに
「なに!?」
「えっ!」
ペリカの部下たる二人が眼を見開いて声を上げる。
――先ず、
ズッ……ズズ
――続いて、よく張った皮膚が
「…………」
ズズ……
「なっ!?」
「きゃっ!」
”
――プツッ!
そう、プツリと……まるで水風船を貫いた様な確かな感触と供に、切っ先は肉に食い込んでいた。
「これは交渉だ。
ズズズ……
皮膚に当たる抵抗を無視して俺の左手は更にゆっくりとゆっくりと下がってゆく。
「……」
鮮血が刀身を伝って根元まで流れ……
ズズズ……
「……
直下で小刀の柄を握る覇王姫の白い右手は……
滝壺の血だまりに浸した様に
第四十六話「狂人の
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