第85話「狂人の交渉場(テリトリー)壱」前編
第四十五話 「狂人の
「では、こちらが提示された条件を受け入れなければ、
長い髪を二つに割って三つ編みにし、それを輪っかにしてそれぞれを両耳のところで留めた髪型の、整った顔立ちの女性が言う。
特徴的な白い肌、白い髪は……それは色白と言うよりは、色素を全て忘れて生まれてきたような、そんな不自然な希薄さだ。
テーブルを挟んで座る俺に問いかける、彼女の瞳のみが僅かな碧い瞳ということ以外は本当に華奢で存在感の薄い人物だった。
――アルトォーヌ・サレン=ロアノフ
西の強国、
「果たして、貴国としては我が
「それを言うなら
存在の希薄な女、アルトォーヌ・サレン=ロアノフの言葉を切って俺は反論する。
「では、
言葉とは裏腹に、さして残念そうでもなくそう言うアルトォーヌ。
――ここに至る経緯として、我が
「俺としても美人に幻滅されるのは残念
そしてその交渉相手の手法は、成る程、色々と体裁は整えてはいるが、結局は大国故の脅し……
――”ツベコベ言わずに引き渡せ!”
って、事だろう。
俺はそれを充分承知した上で、
「…………」
姿勢良く立った存在感の儚い美女は黙って俺の顔を、思考を探ろうとする。
だが――
「貴国が我が
俺はそんな駆け引きなど無用とばかりに、直ぐさま続きの言葉を発した。
バンッ!
「っ!?」
「……ペリカ」
アルトォーヌは仕える
「…………」
俺は自身の正面、木製テーブルを挟んで俺の対面に座る、目の覚めるような深紅の長い髪と勝ち気そうな抜きん出た美貌を誇る女を視界の中央に収めていた。
――少し癖のある燃えるような深紅の髪
――ただ
木製テーブルを合図代わりに叩いて、俺達の会話を強引に中断させた
「迂遠なやり取りは不要よ、
「…………」
――ここは
我が
左後ろに、白漆の鞘が美しい刀を手に立つ麗しの
右後ろには、我が国が誇る情報収集のエキスパート、
そして反対側には”覇王姫”こと、
左後ろに”
右には……えっと、誰だったっけ?
「……」
と、とにかく……四、五十代という年齢の、人相が悪い
「さぁ答えなさい、
鮮烈に
敵地只中で有無を言わせぬこの余裕の笑みはある意味凄い。
他人の事はあまり言えないが、この
「そうだな、第三国に引き渡すという手はあるな……」
確かに
いや、それどころか……
大国である”
「……」
――が!
「例えば、”
俺はあえて”火中の栗”を拾う事にする!
「
「な、なんと……」
俺の言葉に、覇王姫の部下二人は絶句し、その場は凍り付く。
「あなた……さい……か……」
そして肝心の覇王姫は……
紅蓮の
正面から俺を見据えたまま、未だ笑みを浮かべたまま……
「…………」
予測したよりも静かな声だ……
――だからこそ!
――それ故に!
俺が発した言葉の意味するところは、単純にして
”
こちらは”両砦”の一角、
そしてその
南の島”
少しばかり非人道的で、褒められたモノで無い策を弄する用意がある!という挑発を俺は命知らずにも提案して見せたのだ。
「しょ……うき?……さいか……ふふ……ふふふ……」
そして、その効果は
十分に重量のある木製テーブルがガタガタと音を鳴らす要因は、その上に置かれた
「ぺ、ペリカ……落ち着いて」
「ぬぅっ……」
覇王姫の従者達は共に青い顔で
それだけ……
この”紅蓮の
「俺は至って正気だが?……勿論こちらの提示した条件を呑むのなら捕虜は帰してやっても良いぞ」
そんな状況下でも俺はあくまで横柄に、高圧的にそう伝える。
――選択肢を提供しているのは我が
怒り心頭の
「……さ……いか……」
俺の直ぐ目前で、
「……」
――俺は何故ここまでする?
何故こんな……
”
「……」
そんなことは解りきっている。
――誰のために?
それは”
「……」
そして俺は頃合いに、後ろに控えた”お団子女子”に合図を送った。
「は、はい!お、王様……」
――スッ
俺の合図に僅かな間を置き、微妙な表情を返しながらも……
丸く愛嬌のある瞳と”おっとり”した口元が特徴の、長い髪を後頭部で団子に纏めた可愛らしいお団子女子、
――
俺と覇王姫が挟むテーブルのほぼ中央……等距離に置かれた白い封書。
「なに……かしら?」
何とか怒りを制御しつつ……ペリカはそれを一瞥して問う。
「
俺はゆっくりと口端を上げ、対面で燃える
第四十五話 「狂人の
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