第84話「世界が変わっても多忙な男」前編(改訂版)
第四十四話「世界が変わっても多忙な男」前編
「あ、
廊下ですれ違った女生徒が
女生徒の言葉通り、世界が”近代国家世界”に切り替わって初日の金曜日、俺は昼休み頃に学校へと登校したのだった。
「あぁ、ちょっと立て込んでてな……」
そう応えながらも眠い目を
「聞いたよぅ
そこまで言いかけて、女生徒の顔は凍りついていた。
――?……なんだ?
「と、とにかく頑張ってねぇ、応援してるから領主様!……あはは……」
そう言って、女生徒は”そそくさ”と去って行った。
「なんなんだ?急に……」
そして俺は若干、腑に落ちないながらも、改めて教室のドアに手を――
「うぉっ!!」
――かけたところで大きく声を上げたのだ
「…………」
教室の前で……恨めしそうに
「……うっ……あ、と?……ゆき……しろ?」
そこには――
美しくも、意味不明に険悪な雰囲気の美少女が……
見事な”
「…………」
――な、なんだ……?
教室前で、両手を後ろに回して、少し前屈みに俺を恨めしげに見つめ佇む
「お……おぅ、
「
「は?」
なんとか気持ちを落ち着け、絞り出した俺の挨拶を遮って”ボソリ”と意味不明の言葉を呟く
「な、何のことだ?ゆきし……」
「”
またしても俺の言葉を遮る形で少女の形の良い桜色の唇は言葉を発する。
「お……おぅ、ご苦労様……そ、そうだ!
「っ!!」
――へっ?
なんかまた……
普段からあまり表情豊かで無い彼女だが……
それでもこの、異様な雰囲気は俺で無くてもわかるだろう。
「
「
――っ!?
「ま、待て待て!まてぇぇーーいっ!!お前は壊れたレコーダーかっ!?」
――昼休み、多くの生徒が行き交う教室前で、
目前の
――
「あれ?
「うわっ
「わぁぁ!
「……」
――おいおい……
瞬く間に、ザワザワと悪い意味で衆目を集める二人。
「…………」
だが、そんな外野には全く動じる事無く、俺を恨めしそうに見上げてくる
――う!……なんなんだ、いったい!?
そして
「お前、何なんだ……俺に言いたい事とか聞きたいことがあるならハッキリと……」
「だったらなに?わたしはさいかの何?」
呆れ気味の俺が放った言葉に、すかさずそう問いかけてくる
「な、なにって……お前は
「そうだよ、さいかの部下で……」
「ああ、
「うん、それで、さいかの妻で……」
「いや、それは無い」
「…………」
乗じて妻を名乗る
「こんやく……しゃ?」
「じゃなくて!その話はもう解決済み……か?」
どうあっても妻の座を譲る気のなさそうな
――じゃなかったか?……そういや、あの時、あのまま有耶無耶に……
「…………」
――っ!!いやいや、今はそんな話をしているわけじゃ……
答えを待つ
「と、とにかく、
「言わないと……わからない?……さいか……じゃぁ……」
――っ!?
「きゃっ!?」
気がついたら俺は、乗り出して目前の少女の白い手首を掴んでいた。
「…………」
――だって駄目だろ!?
この流れってあの時の告白の続き……
――”わたしね……さいかのそういうところ…………すごく……好き”
あの台詞をもう一度、
それは駄目だ!
俺にはその答えを……応じる術が未だ無い!!
俺は
突然の告白……
そして、不意を突かれて反応できなかったあの時の俺に彼女は……
――”ことばにしない
とか、滅茶苦茶可愛らしい仕草で見上げて来たんだよっ!!
――反則だ……”
そんな過日の一幕を思い出した俺は、条件反射で難を逃れたの――
――おぉっ!?
「…………」
「…………」
――な、何してんだ!俺っ!?……もっと不味いだろ、この体勢はっ!!
「…………」
「…………」
――いや、離れりゃ良いんだけど……
俺は意思とは真逆に体を離す事が出来ない。
「…………」
「…………」
至近距離で俺を真摯に見上げる
――輝く白い銀河……幾万の星の輝き……
そんな宝石を潤ませて、俺を上目遣いに見つめる美少女。
「……………………いいよ、”さいか””なら……」
その上で輝く宝石を、そっと長いまつげに遮らせて俺の”
「…………」
――くっ!これは……あれだ……そう……据え膳?
こうなれば、もう理性には期待できない。
俺の身体は自然と……
そのまま彼女の手首を掴んだ
「……」
煌めく
「あ、あの……よ、よろしいでしょうか?……お、王様……」
――っ!?
「うぉぉぉぉっっ!!」
「きゃっ!」
俺は突然響いたその声で、雄叫びを上げて大きく後ろに飛び退き、
「う……おぉ……て!?……せ、
いつの間にかそこに居たのは……
「…………」
――が、学生でも無い
と、一瞬パニックになる俺だが、よく考えなくてもその理由は……たった一つだ。
「あ、あの……王様?」
「あ、あぁ……早いな、
その理由を完全に思いだした俺はコホンと態とらしく咳払いし平静を装っていた。
俺は昨夜の緊急会議で
「す、すみません……た、対策は……早いほうが良いかと……お、思いまして……」
俺の言葉を自身に対する不平だと勘違いした彼女は、そう言って小さくなる。
――ほんとに真面目で可愛らしいな、とても二十五歳、いや六とは思えな……
「……あの……お、王様?」
「うっ!ひゃいっ!!」
「?」
一般的な女性なら逆鱗に触れる様な年齢の話題、タブーそうな事を考えていた俺は、思わず素っ頓狂な反応を返してしまう。
「いや……コホンッ……えっと……取りあえず聞こうか?」
そして、誤魔化すようにお団子女子にそう促す。
俺は諸々の対策のため、
――で、
それは
彼女に手っ取り早く会うために、俺は今日学校に来たと言っても良い。
勿論、
昨夜は昨夜で大忙しだったし、改めて今日呼び出すよりも、いっそ学校に来るのが一番手っ取り早いと思ったからだ。
「は、はい……あの……け、けど……”逢い引き”は……もう、よ、よろしいのでしょうか?お邪魔なら……そ、その……」
「ちっがぁぁーーうっ!!」
「はぅっ!」
俺はまたも素っ頓狂な声を上げ、隣の
「はっ!す、すみません!!王様、私……わ、私……あ、あの……」
「い、いや違う!違う!」
俺の怒りを買ったと勘違いしてオロオロする
その後も俺は大丈夫だと何度もフォローしては彼女をあやし、落ち着けるのに悪戦苦闘したのだった。
第四十四話「世界が変わっても多忙な男」前編 END
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