第83話「停雲落月」前編(改訂版)
第四十三話「
――午前二時六分、、
「…………」
日付が更新されて間もない深夜に、二人の人物が俺に面会を求めて来訪し部屋に案内されるや否やその二人は両手の平を床に着いて深く深く頭を下げた。
「この度の一件、私の力不足で未然に事を防ぎきれず、申し開きのしようもありません」
膝を折って額を床に着けたまま、黒髪ショートカットの少女は謝罪する。
「も、申し訳ありません!私もてっきり
「っ!」
「あっ!?いいえっ!”
黒髪ショートカット少女の後ろで同様に土下座した中年男は、謝罪の言葉途中でその少女……
「う……あの……」
恐縮しきりで打ち震える中年男は、どうもその後が上手く続かない。
「…………」
無言でリビングのソファーに腰掛ける俺の前で土下座する二人の人物。
ひとりは
可愛らしいながら大人っぽさも感じさせる黒髪のショートカットで、校則のお手本通りきっちりと正した制服姿は、その少女の性格を表していた。
言わずと知れた俺の
彼女は”
「あの……その……さ、
そして、彼女の後ろで終始恐縮しきりの男、
――
”
「…………子細は解った」
俺はソファーに座した状態のまま、眼前の二人を眺めてそう応える。
”戦国世界”から世界が切り替わって直ぐ、就寝中であった俺を強引に目覚めさせた携帯電話の相手、
――
「…………」
子細を報告したいと、早々に訪れた二人の部下の下げた頭を眺めて座る俺の心は少なからず……いや、大いに波立っていた。
「
「承知している、それ以上は……言うな」
部下達の状況を弁明し、責任の所在は自分たちにあると訴える腹心の少女の言葉を、俺は途中で雑に遮っていた。
「は、はい、出過ぎた真似を……申し訳ありません」
即座に謝罪の言葉を発し、再び深く頭を下げる
俺は……
「…………」
――だめだ……俺が……
――最高責任者たる
俺は二人を見下ろしながら、何度も何度も心中で深呼吸を繰り返し、心を落ち着けようとしていた。
――
僅かに震える両手の指先を顔の前で組んで誤魔化し、ソファーに深く座した自身の両膝にその肘を乗せて固定して表面上は動揺を押さえ込む。
「……」
――何故?……どうしてだ?
――いや、それよりも現在は対策を!そう!対策を用意しなければ……
「……」
――けど……何故だ……
堂々巡る不可解さと動揺と焦燥に……
俺の心は中々いつもの冷静さを取り戻せない。
「っ!?」
そんな時、感情を昂らせた震える俺の手に……
「……」
いつの間にか華奢な白い
「ま……こと?」
視線の先には心配そうに俺を見上げる大きめの黒い瞳。
床に膝を着いたまま
「…………」
――そうだ……な、俺は……
俺はそっと、その手を握り返してから優しく外し、立ち上がる。
「現地のより詳細な話が聞きたい、速やかに関係者を集めろ……それから」
表情を作り直しそう命令する俺に、黒髪ショートカットの少女は一瞬だけ慈母を内包した優しい瞳を見せた後、それをそのまま力の籠もったものに変えて、再び
「既に各所への連絡は済んでおります。あと数十分の内には
俺のやり方を十分理解した
「本人は?」
俺は頷いて次を促す。
――やはりな……”近代国家世界”に切り替わった直後に姿を眩ませたか
冷静で周到な
――
俺は先程までと比べて、かなり心を落ち着けた状態で更なる対策を思考していた。
「…………」
そして、ふと、黒髪ショートカット少女の後ろで青い顔のまま床に正座し、縮こまっている男が目に留まる。
――
今回の失態でどれ程の処分が下されるのか?
気が気では無いという中年男の顔を眺めながら俺は考える。
――信賞必罰は組織の是とする所だ……が……
「
少しばかり長い沈黙を続けていた俺に、
「なんだ?」
未だ大まかな方針さえ決めかねる俺は、他者の考えを参考にするのも一つの選択肢だと判断して彼女に献策を許可した。
「世界が”近代国家世界”に切り替わったからには情報は易く流れます、ならば
――そうだろう、目前の
今回の
普段から奇策を多用する俺だからこその部下の勘違いだが……
――敵対国から
そして、その中で
先に
「”近代国家世界”の間に情報共有を徹底させ、”
――
未だ
つまり占領したばかりの領地の者達ならいざ知らず、俺が戦死でもしない限りは直属の
「戦わずして勝つ……今回の
俺の呟きに腹心の少女は頷いた。
「兵が次々と離脱すれば、
「…………」
――”片付く”……
つまり、用無し状態で敵中に孤立の
「…………」
そして俺は……
黙ったまま、大正解であるはずの腹心の部下が策に答えを躊躇していたのだった。
第四十三話「
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